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6章 過去の悪夢

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 成定そしてお万の方も、仙千代が身の回りの世話を小姓でなく、きくへ命じたことを危惧した。城ではいいが、戦場には小姓でないといけない。そのためには、日頃から仕える小姓が必要だ。
 仙千代も、両親の危惧は理解できたので、三郎を小姓頭にして、その下へ小姓を二人置くことにした。しかし、直接の身の回りの世話はさせなかった。そこは、三郎がうまく取り仕切ってくれた。
 特に、夜の不寝番はさせなかった。なぜなら、仙千代が、時折夜半うなされることがあるからだった。
「いやーっ! ああっ、もう許してっ!」
 うなされる仙千代を、宥めるのは三郎でもだめだった。
 きくが「若様、大丈夫でございますよ」と、必死に抱きしめてやると、漸く落ち着くのだった。
 こんな所を、他の者には見せられない。それが三郎ときくの共通の思いだった。
 三郎はともかく、きくは最初驚いた。何がこれほど若様を怯えさせるのかと。問い詰めるきくに、三郎は、初めは言葉を濁したものの、駿河での出来事を話した。そして、きくに協力を申し入れた。若様を守ってやれるのは、我ら二人だけだと。
 きくは、あまりのことに驚愕した。仙千代が生まれて以来、次代の城主様だと、大切に慈しみお育てしてきた。それがそのような理不尽極まりないことと涙した。しかし、確かに三郎の言う通り、若様をお守りできるのは我らだけだと思った。
 仙千代の名誉のためにも、他の家臣に知らせるわけにはいかない。殿や、お方様にも、知らせたときの悲しみを思うと、伝えることはできないと思った。

 大高城に帰城してから、初めての新年を迎えた。帰城してから半年が過ぎていた。
 この半年、仙千代は毎日、城主の嫡男としての鍛錬に励んできた。時に、夜半うなされることもあったが、心身は本来の強さを取り戻しつつあった。
 しかし、密かに懸念していることがあった。

「仙千代、そなたも十六になったな。今年は元服じゃ」
 昨年仙千代が十五歳になった時、松川に元服を打診してはねられた経緯があった。故に仙千代が戻って以来、元服の次期を思案していたが、この正月に執り行うのが良いと思われた。
 仙千代も、元服の事は頭にあった。駿河にいる時は、一日も早く元服したかった。しかし、今は素直に喜べないものがあった。
「それでじゃ、そなたも元服したら正室を娶らねばなるまい」
 仙千代が懸念していたことを、父が口にする。
「松川に行かせたときは、そなたの元服の時は遠戚の娘を娶らせるとのことじゃったが、松川と離れたことで、それは無くなった。故にこの半年それを考えておったのじゃ。それでだな、羽島の妹はどうじゃ? 羽島の家は代々我が家に仕える。亡くなった父親は家老も務めていた。良い話じゃと思うがの」
「父上、その話羽島にはもう話されましか?」
「いや、まだじゃ。先ずはそなたに話してからと思うてな」
「それでしたら、申し訳ございませんが、未だまだ正室を迎えるのは早いと思っております」
「しかし、そなたは十六じゃぞ、元服するのに早いどころか、むしろ遅いくらいじゃ」
「はい、私も元服はしたいと思っておりますが、正室を娶る気持ちには……」
 仙千代の言葉は、歯切れが悪かった。
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