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16章
王太子の婚約者
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婚儀の前日、朝からルシアは大忙しだった。先ずはアルマ公爵とルイーズと共に、神殿から王宮へと当日の最終確認を行った。明日はとにかく間違ってはいけないと、ルシアは必死に頭にいれていく。
「ルシア、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。最初は公爵がリードされるし、その後はアレクシーのリードで進むから」
確かにルイーズの言う通りだ。花嫁であるルシアが、主体的に動く場面はない。花嫁は実家の当主から、花婿に渡されるわけだから、その二人のリードに任せていればよかった。けど、挙動不審になるわけにはいかないし、ましてや、こけたらそれこそ恥ずかしい。
「ルシア、こけそうになったら私か、王太子殿下の腕に捕まるといい、支えてやるから」
ど、どうしてこけるかもって……お、お兄様はなんでもお見通しだなとルシアは驚く。
「おほほほっ花嫁がこけたら大変。それを支えるのはあなたと、アレクシーの役目ですことよ。おほほほっ」
もうーっ、お兄様も、お姉様も緊張とは無縁のお方だ。全くうらやましいよ。しかし、だからこそ頼りになる兄と姉だった。二人のおかげで、明日の婚儀を迎えられる、ルシアは心の中で感謝した。しかし今日は、公爵邸に戻って後、改めて言葉で二人に感謝を伝えねばと心に誓った。
公爵邸に戻ったのち、明日の衣装の最終確認を三人で行った。これで明日への準備は全て終わった。
ほっと、安堵するルシアを、公爵は応接室に導く。公爵邸で一番格式の高い部屋だ。公爵からも何か話があるのか? ちょうどいい、自分の気持ちもお伝えしよう……ルシアは幾分緊張気味に部屋へ入る。
公爵はルイーズと並び、徐に切り出した。
「ルシア、明日はいよいよ婚儀だ。婚儀が終わればそなたは王太子妃、私も妃殿下と呼ぶ。だが私たちのことは、今まで通り、お兄様、お姉様と呼んで欲しい」
ルシアはしっかり頷く。ルシアもそう呼びたいと思っていた。本当は、自分のことも今まで通りルシアと呼ばれたいが、それは叶わないと知っていた。
「しかし、妃殿下になってからでも、ここがそなたの家なのは変わらない。アルマ公爵家は、ルシア王太子妃殿下の実家だ。いつでも頼りにしてほしい。私、そしてルイーズもそなたを弟にできて、本当に幸せだ。そなたの兄であり、姉であることは生涯変わらない」
公爵のいつもの毅然とした言葉に、小さい震えが入る。ルシアは、そのような公爵の声を初めて聴く。公爵の隣でルイーズは涙ぐんでいた。ルシアは、溢れそうになる涙を必死に堪える。泣いてはいけない、泣いてはいけない……でも無理だった。
堰を切ったように、ルシアの涙が溢れだす。それを、ルイーズが自分のハンカチで拭ってくれる。そうすると、もう駄目だった。
ルシアはルイーズに抱きつき、子供のように泣きじゃくった。泣きじゃくるルシアの背を、ルイーズは優しくあやすように撫でる。公爵はルシアの頭を、やはりあやすように撫でた。
「ご、ごめんなさい……ひっく……ちゃん、ひっく、ちゃんとご挨拶しないと……」
二人は、いいのだと言うようにルシアを撫で続ける。しばらくすると、ルシアもようやく落ち着いてきた。今こそ、言わなければと思う。
ルイーズの胸から離れて、ルシアは二人に向き合った。
「お兄様、お姉様お二人に私からもお伝えしたいことがあります。お二人が、私を弟にしてくださったこと、そしてこの公爵家に向かえ入れてくださったこと本当に感謝しております。お二人のおかげで明日を迎えることができました。感謝の気持ちでいっぱいでございます。私からもどうか、生涯お二人の弟でいさせていただきたいです」
ルシアは、涙声で所々途切れさせながらも、伝えたいことは言うことができた。
ルシアの言葉に、今度はルイーズが泣き出した。そんなルイーズを抱き寄せる公爵の眼にも涙が光っている。
思えば不思議な縁だった。ルシアがアレクシーの番になるまで、お互いにその存在すら認識していなかった。それが兄弟の縁を結び、半ば同志のようにここまできた。一蓮托生で乗り越えてきたともいえた。
ルシアの嫁ぐ前夜は、このように愛に溢れた幸せの中で更けていった。
「ルシア、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。最初は公爵がリードされるし、その後はアレクシーのリードで進むから」
確かにルイーズの言う通りだ。花嫁であるルシアが、主体的に動く場面はない。花嫁は実家の当主から、花婿に渡されるわけだから、その二人のリードに任せていればよかった。けど、挙動不審になるわけにはいかないし、ましてや、こけたらそれこそ恥ずかしい。
「ルシア、こけそうになったら私か、王太子殿下の腕に捕まるといい、支えてやるから」
ど、どうしてこけるかもって……お、お兄様はなんでもお見通しだなとルシアは驚く。
「おほほほっ花嫁がこけたら大変。それを支えるのはあなたと、アレクシーの役目ですことよ。おほほほっ」
もうーっ、お兄様も、お姉様も緊張とは無縁のお方だ。全くうらやましいよ。しかし、だからこそ頼りになる兄と姉だった。二人のおかげで、明日の婚儀を迎えられる、ルシアは心の中で感謝した。しかし今日は、公爵邸に戻って後、改めて言葉で二人に感謝を伝えねばと心に誓った。
公爵邸に戻ったのち、明日の衣装の最終確認を三人で行った。これで明日への準備は全て終わった。
ほっと、安堵するルシアを、公爵は応接室に導く。公爵邸で一番格式の高い部屋だ。公爵からも何か話があるのか? ちょうどいい、自分の気持ちもお伝えしよう……ルシアは幾分緊張気味に部屋へ入る。
公爵はルイーズと並び、徐に切り出した。
「ルシア、明日はいよいよ婚儀だ。婚儀が終わればそなたは王太子妃、私も妃殿下と呼ぶ。だが私たちのことは、今まで通り、お兄様、お姉様と呼んで欲しい」
ルシアはしっかり頷く。ルシアもそう呼びたいと思っていた。本当は、自分のことも今まで通りルシアと呼ばれたいが、それは叶わないと知っていた。
「しかし、妃殿下になってからでも、ここがそなたの家なのは変わらない。アルマ公爵家は、ルシア王太子妃殿下の実家だ。いつでも頼りにしてほしい。私、そしてルイーズもそなたを弟にできて、本当に幸せだ。そなたの兄であり、姉であることは生涯変わらない」
公爵のいつもの毅然とした言葉に、小さい震えが入る。ルシアは、そのような公爵の声を初めて聴く。公爵の隣でルイーズは涙ぐんでいた。ルシアは、溢れそうになる涙を必死に堪える。泣いてはいけない、泣いてはいけない……でも無理だった。
堰を切ったように、ルシアの涙が溢れだす。それを、ルイーズが自分のハンカチで拭ってくれる。そうすると、もう駄目だった。
ルシアはルイーズに抱きつき、子供のように泣きじゃくった。泣きじゃくるルシアの背を、ルイーズは優しくあやすように撫でる。公爵はルシアの頭を、やはりあやすように撫でた。
「ご、ごめんなさい……ひっく……ちゃん、ひっく、ちゃんとご挨拶しないと……」
二人は、いいのだと言うようにルシアを撫で続ける。しばらくすると、ルシアもようやく落ち着いてきた。今こそ、言わなければと思う。
ルイーズの胸から離れて、ルシアは二人に向き合った。
「お兄様、お姉様お二人に私からもお伝えしたいことがあります。お二人が、私を弟にしてくださったこと、そしてこの公爵家に向かえ入れてくださったこと本当に感謝しております。お二人のおかげで明日を迎えることができました。感謝の気持ちでいっぱいでございます。私からもどうか、生涯お二人の弟でいさせていただきたいです」
ルシアは、涙声で所々途切れさせながらも、伝えたいことは言うことができた。
ルシアの言葉に、今度はルイーズが泣き出した。そんなルイーズを抱き寄せる公爵の眼にも涙が光っている。
思えば不思議な縁だった。ルシアがアレクシーの番になるまで、お互いにその存在すら認識していなかった。それが兄弟の縁を結び、半ば同志のようにここまできた。一蓮托生で乗り越えてきたともいえた。
ルシアの嫁ぐ前夜は、このように愛に溢れた幸せの中で更けていった。
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