運命の息吹

梅川 ノン

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14章

アルマ公爵家

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 アレクシーは、公爵のあまりに簡単な承諾を、不思議に思いながらも、心の底までは探ることはなかった。ただ、最初の壁を越えたことに安堵した。越えなければならない壁は、いまだ多いからだ。
 しかし、その話を聞いたフランソワは、アルマ公爵の真意を想像して、さすがと唸った。想像できるフランソワも中々のやり手と言える。この二人は、同格の家柄からも強力なライバル関係になりながらも、アレクシーの両輪として、アレクシーの世を支えていくことになる。

 アレクシーの思いを聞かされたルシアは、唯々唖然とする。
「……私が妃ですか?」
 何を言っているのか、分からないといった風情だ。
「そうです。私はそなたをここから出してやりたいのです。もっともっと色んな世界がある、それをそなたに見せてやりたい」
 それは、分かる。自分も外の世界には興味もある。しかし、それは時折でいいのだ。たまに離宮に行きたいとか、あるいはルイーズの招待に応じたいと思うことと、同じようなことだ。それが妃など、飛躍しすぎていないか? そうルシアは思う。
「私はオメガですから、妃などそのような晴れがましいことは……それに私のようなオメガを公爵家が養子にするなどと……」
「そなたの魅力は、アルファにも引けは取らん。王太子妃として十分な資質を備えている。だから姉上や義兄上も、そなたを養子にすると言われたのだ。それを他の皆にも知らせてやりたい。いや、先ずはそなた自信がそれを知るべきだ」
 と、言われても……。ルシアは困惑する。何やらこれからどうなるのだろう? 正直な気持ち不安を隠せない。
 ルシアの、困惑と不安を見て取ったアレクシーは、先ずはそれを取り除かねばと思う。どうすればいい? と思案していたアレクシーに良い機会が訪れた。
 アルマ公爵夫妻から、先の公爵がルシアの養子を承諾したので、一度来るようにと誘いを受けたのだ。

「そのように緊張することはない。姉上が優しい方なのは知っているだろ? 義兄上も、寡黙な方だが優しいお方だ。何も心配することはない」
 そうは言っても……ルシアは、気楽な様子のアレクシーが少々恨めしい気持ちになる。
 緊張が最高潮のルシアになんの斟酌も無しに、二人を乗せた馬車はアルマ公爵家に着いた。緊張で足まで固くなったルシアはぎこちなく降り立つ。そして公爵邸に入ると、夫妻がそろって二人を迎える。
「まあ、ようこそ! 待ってたのよ。さあーお入りになって。あーそうそう、こちらが私の夫、アルマ公爵よ」
「本日はお招きいただきありがとうございます。ルシアと申します。」
「ほほほっ堅苦しい挨拶はよくてよ。気楽にね」
「そう、ここはあなたの家になる。自分の家なのだから気楽に。そして私の弟になるのだからルシアと呼ばせてもらうよ」
 アルマ公爵が微笑みながら言うと、ルシアは幾分ほっとし、少し緊張のこわばりが弱まるのを感じる。
「私の方が年下だけど、兄嫁になるのだからルシアと呼ばせてもらうわね。私の事はお姉様と呼んでいただける?」
 そう言ってルシアを見るルイーズの眼は、圧に満ちていた。これは呼ばねばならないと感じる。
「お、お姉様」
 ルシアがぎこちなく言うと、ルイーズがほほほっと嬉しそうに笑う。
「ルシア、私はお兄様だよ」
「お、お兄様」
 公爵も嬉しそうに微笑んでいる。それを見てアレクシーは、何なのだこの夫婦は? と思う。姉ルイーズはともかく、公爵の常の若いが威厳を感じさせる雰囲気が、今日は全く感じられない。もっと寡黙な方だと思っていたが……。
「可愛い義弟が出来て嬉しいわ、ねえあなた」
 そう言うルイーズに、自分も弟だが、可愛くないのかと、アレクシーは思うが言わないことにする。なにか完全に自分だけ部外者のように感じる。
「私は妹だけだからね、弟が出来たのは嬉しいよ。しかもこんなに可愛い方だ。勿論殿下も義弟として頼もしいと思っているが、可愛いとは違いますからね」
 要するにこの夫婦は、ルシアを愛玩物と思っているのか? と思うが、まあいい、ルシアを大事にしてくれれば、後ろ盾として頼もしいことは間違いない。
 四人の歓談は和やかな時を刻んだ。ルシアも夫妻の穏やかな雰囲気に、次第に緊張も解れ、少しずつ会話できるようになっていた。そんなルシアの様子にアレクシーは目を細める。
 そして、ルシアが隠居している老公爵夫妻に会いに行く日程が決まる。ルシアにとって、今日よりも更に緊張を要することだが、親になる方への挨拶は当然のこと。
「大丈夫だ心配しなくても。私たちが一緒に行くからね」
「ええそうよ、ルシアは前日からここに来ているといいわ。お支度も私に任せてちょうだい」
 公爵夫妻の楽し気な様子に、アレクシーは全てを任すことにする。子供がいない二人には、ルシアの世話も楽しい事なんだろうと思えたからだ。改めて、養子の件を姉に持ち込んだことは良かったと思った。
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