20 / 39
10章
ルシアの死
しおりを挟む
ルシアは、自室に駆け戻り護身用の剣を取り出す。亡き父が与えてくれたもの。装飾の美しい、身を守ると言うより、飾るための物と言ってよかった。
母もこれと同じような物を父に与えられ持っていた。そう、そしてその剣で喉を突いて逝ってしまわれた。僕もお父様とお母様の元へ参ります。僕さえいなければ、兄上様と王太子様が争うことはなくなる。罪深い僕を許して……ごめんなさい。
ルシアは、剣を喉にあてて一息に突いた。そこへルシアを追ってきたセリカが入って来た。セリカは驚愕して叫んだ。
「ル、ルシア様~」
その叫びに、フェリックス、そしてアレクシーも駆けつける。
「侍医を! 早く侍医を呼べ! ルシア! ルシア!」
「ルシア様……」
フェリックスがルシアを寝台に横たえるのを、アレクシーは青ざめた表情で見守る。フランソワ、そして側近達もそれを取り巻くように見守る。一様に表情は青ざめている。
侍医が転がるように駆けつけ、ルシアを診る。その表情は厳しく、青ざめている。侍医にできることはなかった。絞り出すように、震える声で告げる。
「既に……こと切れておられます……」
「馬鹿な! そなた侍医だろ、何とかせよ! ルシア! ルシア~」
ルシアに反応はない。侍医の診立てはあきらかだった。
「ルシア様! ルシア様~」
アレクシーも縋るように呼ぶ。なぜ? なぜこんなことに……。
この場にいるすべての者が、あまりの突然の悲劇に声も出ない。茫然自失の状態だった。
ルシアの足元に縋り付くように泣いていたセリカが、はたと思い立ったように呟く。
「そう言えば、確か伝説が……」
それをアレクシーが聞きとめた。
「伝説? 伝説とは何か?」
「オメガが自ら死を選んだ時、その日のうちなら蘇ることがあると……」
その言葉に、アレクシーは勿論、フェリックスも色めき立ち、二人同時に発する。
「どうやったら蘇る?」
「確か、運命の番のアルファが、息を吹き込めば蘇ると……ただうろ覚えで確かな事とは申せませんが……」
「うろ覚えでも、なんでもよい! 何もせねばルシアはこのままじゃ」
そうフェリックスが言った時、既にアレクシーは。大きく息を吸い込み、ルシアの口に吹き込んだ。
先を越されたフェリックスは、しかし、それを見守った。
アレクシーは、その後も何度か同じように、ルシアに息を吹き込むが、ルシアに反応はなかった。
「アレクシーどくのじゃ、ルシアの番は余じゃ。余がせねば蘇る事はない」
アレクシーは、悄然としてその場を父に明け渡す。そして、父がルシアに息を吹き込むのを見守った。
もし、これでルシアが蘇ったら、自分はルシアを諦めねばなるまい。運命の相手である己よりも、番である父との絆が勝るということだから……。
でもそれでもいい、蘇って欲しい。生きて欲しい。このままルシアが逝ってしまったら、自分は一生後悔する。運命の相手を死なせたのは己の責任だ。
アレクシーは、祈るように見守る。アレクシーだけでなく、この場にいるすべての人が、ルシアの蘇りを願い、固唾をのんで見守る。
フェリックスも必死だった。何度も、何度も「ルシア、帰ってくるのじゃ」そう念じながら息を吹き込む。
しかし、ルシアに反応はない。やはり、単に伝説なのか? それとも伝説は、運命の番であるアルファだ。それならば、フェリックスは、番だが運命の相手ではない。アレクシーは、運命の相手だが番ではない。
だから、だめなのか? もしそうならルシアが蘇ることはない。しかも、ルシアの体は明らかに温もりが消えていた。焦燥感と共に暗雲が漂う。
母もこれと同じような物を父に与えられ持っていた。そう、そしてその剣で喉を突いて逝ってしまわれた。僕もお父様とお母様の元へ参ります。僕さえいなければ、兄上様と王太子様が争うことはなくなる。罪深い僕を許して……ごめんなさい。
ルシアは、剣を喉にあてて一息に突いた。そこへルシアを追ってきたセリカが入って来た。セリカは驚愕して叫んだ。
「ル、ルシア様~」
その叫びに、フェリックス、そしてアレクシーも駆けつける。
「侍医を! 早く侍医を呼べ! ルシア! ルシア!」
「ルシア様……」
フェリックスがルシアを寝台に横たえるのを、アレクシーは青ざめた表情で見守る。フランソワ、そして側近達もそれを取り巻くように見守る。一様に表情は青ざめている。
侍医が転がるように駆けつけ、ルシアを診る。その表情は厳しく、青ざめている。侍医にできることはなかった。絞り出すように、震える声で告げる。
「既に……こと切れておられます……」
「馬鹿な! そなた侍医だろ、何とかせよ! ルシア! ルシア~」
ルシアに反応はない。侍医の診立てはあきらかだった。
「ルシア様! ルシア様~」
アレクシーも縋るように呼ぶ。なぜ? なぜこんなことに……。
この場にいるすべての者が、あまりの突然の悲劇に声も出ない。茫然自失の状態だった。
ルシアの足元に縋り付くように泣いていたセリカが、はたと思い立ったように呟く。
「そう言えば、確か伝説が……」
それをアレクシーが聞きとめた。
「伝説? 伝説とは何か?」
「オメガが自ら死を選んだ時、その日のうちなら蘇ることがあると……」
その言葉に、アレクシーは勿論、フェリックスも色めき立ち、二人同時に発する。
「どうやったら蘇る?」
「確か、運命の番のアルファが、息を吹き込めば蘇ると……ただうろ覚えで確かな事とは申せませんが……」
「うろ覚えでも、なんでもよい! 何もせねばルシアはこのままじゃ」
そうフェリックスが言った時、既にアレクシーは。大きく息を吸い込み、ルシアの口に吹き込んだ。
先を越されたフェリックスは、しかし、それを見守った。
アレクシーは、その後も何度か同じように、ルシアに息を吹き込むが、ルシアに反応はなかった。
「アレクシーどくのじゃ、ルシアの番は余じゃ。余がせねば蘇る事はない」
アレクシーは、悄然としてその場を父に明け渡す。そして、父がルシアに息を吹き込むのを見守った。
もし、これでルシアが蘇ったら、自分はルシアを諦めねばなるまい。運命の相手である己よりも、番である父との絆が勝るということだから……。
でもそれでもいい、蘇って欲しい。生きて欲しい。このままルシアが逝ってしまったら、自分は一生後悔する。運命の相手を死なせたのは己の責任だ。
アレクシーは、祈るように見守る。アレクシーだけでなく、この場にいるすべての人が、ルシアの蘇りを願い、固唾をのんで見守る。
フェリックスも必死だった。何度も、何度も「ルシア、帰ってくるのじゃ」そう念じながら息を吹き込む。
しかし、ルシアに反応はない。やはり、単に伝説なのか? それとも伝説は、運命の番であるアルファだ。それならば、フェリックスは、番だが運命の相手ではない。アレクシーは、運命の相手だが番ではない。
だから、だめなのか? もしそうならルシアが蘇ることはない。しかも、ルシアの体は明らかに温もりが消えていた。焦燥感と共に暗雲が漂う。
22
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。
琉海
BL
不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。
しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。
迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。
異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる