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4章
兄王の番に
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ルシアは、フェリックスの腕の中で目覚めた。すぐに理解が及ばず、慌てて起き上がろうとして、気配で察したフェリックスに抱きとめられる。
「どうした、夜明けはまだだぞ」
そう言って、フェリックスはルシアに口づける。ここで漸くルシアは、兄王の番になったのだと思い至る。
夕刻兄上様がいらして、そのまま……。今更ながら、恥ずかしさで身を隠したくなる。せめてもと、寝具を引き寄せる。
「なんだ、恥ずかしいのか? 可愛いやつじゃな。そなたは余の番になったのだ、恥ずかしがることはない」
そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。セリカは? ここにはいない? そうだまだ夜明け前なんだ、どうしよう……。ルシアは困惑するものの、どうすることもできず、そのままフェリックスの腕の中で再び眠りについた。
そんなルシアにフェリックスは、益々愛おしさが増す。発情したと言えど、未だ子供なのだ。これからどう成長するのか、楽しみだとも思う。それを見守るのは己だ。
フェリックスのルシアに対する庇護欲は増す。そして独占欲も。それは、番にしたオメガへの、アルファの当然の欲望といえた。
再び目覚めた時、ルシアは一人だった。兄上様は? と思ったがセリカの常と変わるぬ様子に、淡々と身支度を整えた。
昨日のこと、セリカは知っているのか? 兄上様はもうお帰りになったのか? 頭の中は疑問で一杯だった。
身支度を整えたルシアを、セリカは居間に導いた。常なら朝はまず食堂に行くのに、今朝は居間? それも疑問だった。
居間では、フェリックスが微笑みながら、しかし威厳のある態度でルシアを迎えた。
戸惑いつつも朝の挨拶をするルシアを、手で招き寄せると言った。
「ルシア、そなたは余の番になった。王妃も、重臣達も承知のことだ。オメガの番故、公の場に出すことは出来ぬが、そなたの立場は正式に認められたということだ」
「ルシア様、おめでとうございます」
その場に居合わせたセリカと執事に祝福の言葉をかけられ、ルシアはどうしようもなく恥ずかしい。
「そなたは、今日からこの宮の主じゃ、皆に言葉をかけるのじゃ」
主!? 言葉って何を言えば? 「ありがとう」とたどたどしく言った。それが精一杯だった。
「そう固くなることはない。そなたの母が亡くなった後は、実質そなたが主ではあった。だから、何も変わらない、今まで通りじゃ」
その言葉に、ルシアは安堵した。そんなルシアが可愛くて、フェリックスはルシアを抱き寄せて、何やら朝から濃密な空気が漂う。セリカ達使用人は、居心地の悪さを感じたが、肝心なことが残っていた。
「陛下、指輪を……」執事が、遠慮がちに声をかける。
「おーっそうじゃった。一番大事な事じゃ」
フェリックスは、執事が恭しく差し出す指輪を受け取り、ルシアの指にはめてやる。
「王家の紋章入りの指輪じゃ。そなたは国王である余の者だと言う証じゃ」
ルシアは、この指輪に見覚えがあった。同じ物ではないが、似ている。
「これは、お母様の指輪に似ています」
「そうだろう、父上もそなたの母に送くられたのじゃ。国王の者と言う証じゃからな」
ルシアは、亡き母と同じような指輪が、自分の指にもあるのが嬉しかった。母が傍にいてくれるように感じた。
「嬉しゅうございます。兄上様ありがとうございます」
ルシアの国王フェリックスの番としての生活が始まった。とは言っても、フェリックスが言った通り、それ以前の生活と何も変わらなった。
「どうした、夜明けはまだだぞ」
そう言って、フェリックスはルシアに口づける。ここで漸くルシアは、兄王の番になったのだと思い至る。
夕刻兄上様がいらして、そのまま……。今更ながら、恥ずかしさで身を隠したくなる。せめてもと、寝具を引き寄せる。
「なんだ、恥ずかしいのか? 可愛いやつじゃな。そなたは余の番になったのだ、恥ずかしがることはない」
そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。セリカは? ここにはいない? そうだまだ夜明け前なんだ、どうしよう……。ルシアは困惑するものの、どうすることもできず、そのままフェリックスの腕の中で再び眠りについた。
そんなルシアにフェリックスは、益々愛おしさが増す。発情したと言えど、未だ子供なのだ。これからどう成長するのか、楽しみだとも思う。それを見守るのは己だ。
フェリックスのルシアに対する庇護欲は増す。そして独占欲も。それは、番にしたオメガへの、アルファの当然の欲望といえた。
再び目覚めた時、ルシアは一人だった。兄上様は? と思ったがセリカの常と変わるぬ様子に、淡々と身支度を整えた。
昨日のこと、セリカは知っているのか? 兄上様はもうお帰りになったのか? 頭の中は疑問で一杯だった。
身支度を整えたルシアを、セリカは居間に導いた。常なら朝はまず食堂に行くのに、今朝は居間? それも疑問だった。
居間では、フェリックスが微笑みながら、しかし威厳のある態度でルシアを迎えた。
戸惑いつつも朝の挨拶をするルシアを、手で招き寄せると言った。
「ルシア、そなたは余の番になった。王妃も、重臣達も承知のことだ。オメガの番故、公の場に出すことは出来ぬが、そなたの立場は正式に認められたということだ」
「ルシア様、おめでとうございます」
その場に居合わせたセリカと執事に祝福の言葉をかけられ、ルシアはどうしようもなく恥ずかしい。
「そなたは、今日からこの宮の主じゃ、皆に言葉をかけるのじゃ」
主!? 言葉って何を言えば? 「ありがとう」とたどたどしく言った。それが精一杯だった。
「そう固くなることはない。そなたの母が亡くなった後は、実質そなたが主ではあった。だから、何も変わらない、今まで通りじゃ」
その言葉に、ルシアは安堵した。そんなルシアが可愛くて、フェリックスはルシアを抱き寄せて、何やら朝から濃密な空気が漂う。セリカ達使用人は、居心地の悪さを感じたが、肝心なことが残っていた。
「陛下、指輪を……」執事が、遠慮がちに声をかける。
「おーっそうじゃった。一番大事な事じゃ」
フェリックスは、執事が恭しく差し出す指輪を受け取り、ルシアの指にはめてやる。
「王家の紋章入りの指輪じゃ。そなたは国王である余の者だと言う証じゃ」
ルシアは、この指輪に見覚えがあった。同じ物ではないが、似ている。
「これは、お母様の指輪に似ています」
「そうだろう、父上もそなたの母に送くられたのじゃ。国王の者と言う証じゃからな」
ルシアは、亡き母と同じような指輪が、自分の指にもあるのが嬉しかった。母が傍にいてくれるように感じた。
「嬉しゅうございます。兄上様ありがとうございます」
ルシアの国王フェリックスの番としての生活が始まった。とは言っても、フェリックスが言った通り、それ以前の生活と何も変わらなった。
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