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8章 絶望

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 神林の屋敷につき、古城に促され宗家の待つ座敷へ入ると、秋月と東月も顔を揃えていた。
「ご無沙汰して申し訳ございません」
「さすがにお前さんの衝撃も大きかっただろうからな。藤之助さんと違い、桜也さんは若い。逝くような歳ではないからな」
 宗家はそういうと、視線で秋月を促す。
「既に知らせてはあるが、一連のこと全て一年延期にした。それは、承知しているな」
「それでございますが……」
「なんだ?」
「父が亡くなり、秋好流の宗家が不在になりました。やはり、わたしが継ぎたいと思うのです」
「お前は、神林の宗家になる身じゃ!」
 宗家の強い言い方に、怯みそうになりながら、香は心を奮い立たせた。
「しかし、それでは秋好流は!」
「神林へ合流させる。全て古城が取り図るようにしている。お前が心配する必要はない。お前が心配することは自分の踊りだ。この二ヶ月本格的に踊っておらんだろう。勘を取り戻さねばならん。明日は外出の予定があるが、明後日からはわしが直接稽古をつけてやる」
 神林に合流! それは秋好流の消滅を意味する。それはいけない! それだけは承服できない。
「宗家! 秋好流の消滅だけは承服できません! どうか、お考え直してください!」
「香! いい加減にしろ! くどいぞ! 秋好流は消滅ではない。神林の中でお前と共に生きるのだ」
「しかし、それは……わたしを……わたしに秋好を継がせてください」
「まだ逆らうか! 秋月! お前が甘いからじゃ! お前も次の宗家として、しっかり躾けるのじゃ。弟子に道理を教えるのも、師の役目じゃ」
 
 香は引き立てるように、奥の閨に連れて行かれる。何をされるのか……あの時の罰が蘇り、香は必死に抗う。しかし、秋月と東月二人の力に適うはずはない。
「全くお前も懲りないな。何故宗家をあそこまで怒らせるのだ。わたしも庇ってはやれんだろう。いや、わたしまでお叱りをうける始末だ。やはり、お前にはもう少し厳しくせねばならんな。東月、お前に任せる。香が素直になれるよう躾てやりなさい」
「任せてください。前ので懲りなかったから、今日はもっと厳しくします。二度と宗家へ逆らう気持ちにならないよう躾ます」
 東月は激しく抵抗する香の着物を脱がせ、後ろ手に縛りあげ、口枷をする。香は、自由と言葉を失う。怯える香に、東月は満足そうに薄ら笑う。
 そして東月は、香の足を押し広げて縛り上げると、ゴムのカテーテルと何やら液体の入ったボトルを香に見せる。
「こないだのジプーも辛かっただろうが、これはもっと辛いぞ」
 香は恐怖に顔が引きつり、頭を振るが、それは東月の被虐心を煽るにすぎない。
 東月は香のものに、ゴムのカテーテルをあてがいプツンと先を入れる。痛みに、香の体は反応し、ガクガクと震える。
 そのまま、徐々に入ってくるカテーテルのおぞましい感覚に香は、身悶えして苦しめられる。口枷のため声も出せず、よだれが滴り落ちる。
「ふふっ、全部入ったぞ。だが、ここまではこの間と変わらん。これの恐ろしさはここからだ。これは、生理用食塩水だ」
 そう言いながら、ボトルをカテーテルの端に繋げると、中の食塩水がカテーテルを通して香の中へ入ってくる。そのおぞましい感覚は、確かに、それまで以上に耐えがたい苦しさを感じさせる。
 香は顔を振り乱し、涙を溢れさせた。許しを請いたくても、声も出せない。その姿は、東月の被虐心を十分に満足させる。東月は香の口枷を外してやる。
「どうだ、気分は? さすがに堪えたか」
「ゆっ、ゆるして……」
 泣きながら、許しを請う香に、横から秋月が声を掛ける。
「さすがに堪えただろう。二度と、宗家に逆らう気にはならないか? 無論わたしにもだ。宗家とわたしがお前の師だからな」
 香は、泣きぬれた顔で頷いた。
「よし、ならば今から宗家へ謝罪しなさい。宗家のお許しが出れば、今日の所は、これで勘弁してやろう」
 東月としては、もう少し責め上げたい思いもあったが、父の言葉に従い、香の戒めを解いてやる。


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