10 / 55
2章 星夜と名付けて
③
しおりを挟む
ここへ来て初めての外出。初めに来た時は、ここを出て死ぬことばかり考えていた。それが、髪を切るために外へ出る。何故、そうなった……自分でも分からない。
名前を明かさない自分に、星夜と名付けられた。勝手な事なのに、嫌じゃない自分がいる。もしかしたら、ここで星夜になれば、死ななくても、いいのか? そう思いながら玄関へ行く。
あの地獄から解放されるなら、どこでもいい。死にたかったのは、死ぬ以外に解放される術がなかったから……。でも、ここにいれば……。しかし、それがいつまで許されるのだろうか? 今は自分でも分からない。
玄関へ行くと、靴が揃えて置いてある。星夜の靴だ。
「その服に、靴が合わないなあ。靴も買ってやりたかったが、靴は履いてみないとな。髪切った後に買ってやる。他にも何か欲しい物はないか? ついでに買ってやるぞ」
特に欲しい物はないので「いいえ、得にはありません」と応える。そもそも、何もかも買ってもらうのは悪いと思っている。何しろ、自分はお金を全く持っていない。
ここでの生活も、つまり全て彰吾の世話になっているわけで、考えたら物凄く悪いと思う。同時にこの人はかなりのお人よし? 世話焼き? こういう人のことをなんて言うんだろう? と星夜は考えた。しかし、適当な言葉は見つからなかった。
半月ぶりの外は、朝日が眩しい。外はこんなに眩しかっただろうか……。こんなに日を浴びて歩けるだろうかと思ったら、車に乗るようにと言われたので、ほっとする。
後ろに乗ろうとしたら、「二人なんだから、前に乗れ」と言われた。そうか、そう言うものなのか? と思いながら助手席に乗る。
走り出して十五分ほどで美容室に着いた。彰吾の馴染みの店だ。
「ついでだから俺もカットしてもらうから。お前は自分で好きなように注文しろ」
そう星夜には言って、星夜を担当する美容師には「よろしく」と言う。それからは、同じ店内だが、店の構造でそれぞれの姿は見えない。客同士が顔を合わせないようになっているのだ。
彰吾は、毎回担当美容師に任せている。リラックスして、時折雑談をしているうちにスイスイと仕上がる。いつもと同じ出来に満足する。星夜は終わったかなと思うと、「お連れ様も終わられたようです」と美容師が言う。
名前を明かさない自分に、星夜と名付けられた。勝手な事なのに、嫌じゃない自分がいる。もしかしたら、ここで星夜になれば、死ななくても、いいのか? そう思いながら玄関へ行く。
あの地獄から解放されるなら、どこでもいい。死にたかったのは、死ぬ以外に解放される術がなかったから……。でも、ここにいれば……。しかし、それがいつまで許されるのだろうか? 今は自分でも分からない。
玄関へ行くと、靴が揃えて置いてある。星夜の靴だ。
「その服に、靴が合わないなあ。靴も買ってやりたかったが、靴は履いてみないとな。髪切った後に買ってやる。他にも何か欲しい物はないか? ついでに買ってやるぞ」
特に欲しい物はないので「いいえ、得にはありません」と応える。そもそも、何もかも買ってもらうのは悪いと思っている。何しろ、自分はお金を全く持っていない。
ここでの生活も、つまり全て彰吾の世話になっているわけで、考えたら物凄く悪いと思う。同時にこの人はかなりのお人よし? 世話焼き? こういう人のことをなんて言うんだろう? と星夜は考えた。しかし、適当な言葉は見つからなかった。
半月ぶりの外は、朝日が眩しい。外はこんなに眩しかっただろうか……。こんなに日を浴びて歩けるだろうかと思ったら、車に乗るようにと言われたので、ほっとする。
後ろに乗ろうとしたら、「二人なんだから、前に乗れ」と言われた。そうか、そう言うものなのか? と思いながら助手席に乗る。
走り出して十五分ほどで美容室に着いた。彰吾の馴染みの店だ。
「ついでだから俺もカットしてもらうから。お前は自分で好きなように注文しろ」
そう星夜には言って、星夜を担当する美容師には「よろしく」と言う。それからは、同じ店内だが、店の構造でそれぞれの姿は見えない。客同士が顔を合わせないようになっているのだ。
彰吾は、毎回担当美容師に任せている。リラックスして、時折雑談をしているうちにスイスイと仕上がる。いつもと同じ出来に満足する。星夜は終わったかなと思うと、「お連れ様も終わられたようです」と美容師が言う。
11
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
記憶の欠片
藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。
過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。
輪廻転生。オメガバース。
フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。
kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。
残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。
フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。
表紙は 紅さん@xdkzw48
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】
華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
ザ・兄貴っ!
慎
BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は…
平凡という皮を被った非凡であることを!!
実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。
顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴…
けど、その正体は――‥。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる