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1章 美しい青年の秘密

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 明日は仕事に行かねばならないが、今日はこの青年から目を離したくない。目を離したらおそらく外へ行こうとするだろう。
 しかし着の身着のままの青年に服と下着もいるなあ……それは明日買うとして、今日は下着だけ自分の新品を貸そう。サイズは違うがまあ一日くらいいいだろうと考える。
 いやしかし、明日一人で置いて行くのも心配だ……しばらく考えると、彰吾はいい考えが浮かんだ。

「昨夜はそのまま寝たからな、風呂に入りたくないか? ゆっくり湯船につかると落ち着くぞ」
 確かに、昨日一日さまよい歩き、汚れているのは自覚している。けれど、わたしは死にたいんだ。これから死ぬ人間に風呂なんて不要だ。
「さあ、入ってこい」
 無言のままいると、風呂へと追い立てられた。おせっかいと言うか、強引な人だ。仕方なく風呂へ入った。入浴剤の香りだろう、爽やかな香りに引かれて、シャワーで体を流してから、湯船へつかる。確かに彰吾の言うように、ほっとするものがある。しかし、目をつぶると現実が脳裏に浮かぶ。もう戻りたくない。でも、見つかれば連れ戻される。逃げ場は、あの世しかない……。

 青年が風呂に入った後、彰吾は脱がれた下着の回収をして、新しいバスローブを置いてやる。戒めを解かれたのは気付いているはずだが……。なんの反応もなかった。まあ、触れたくはないのだろう。こちらも知らぬふりだなと思う。
「おっ、出たか。髪乾かした方がいいぞ、風邪を引く」
 死にたい人間に風邪の心配かと思ったが、そうかこの人はわたしを死なせたくないんだと思いなおした。本当におっせかいだ。医者ってみんなこうなのか? と思いながら黙っていると、強引にドライヤーを当ててきたので、慌てて自分でやると言った。青年の中の医者のイメージが、おせっかいプラス強引になった。
 第一おせっかいに変な正義感出して命を救っても、わたしは救われない。助けてくれるというのか! 他人がそんなことできやしない。まあいい、そのうち隙がある時に出て行こうと青年は思った。

「わたしが昨日来ていた服はどこですか?」
「ああ。あれは汚れていたからなクリーニングに出したよ」
「えっ……」
 絶句して佇む青年の困惑を、彰吾は察した。
「家の中だし、それでいいだろう。寒くはないか?」
 いや、寒くはないがバスローブって……これでは外へ出られない。こんな姿で外へ出たら、不審者だよ。最悪通報されたら……それはいけない。もし、捜索願いでも出されてたら、連れ戻される。
 これが、彰吾の浮かんだ考えだった。今日は休日だから見張っていられるが、明日は仕事だ。自分がいない間に出て行くのは簡単なこと。さすがにバスローブ姿で外へは行けまい。そう思ったし、もう一つ保険もある。
 とにかく彰吾にとっては、青年が死ぬことをあきらめるまではここに閉じ込めることが、最重要なのだ。どうにか、心を解してやりたい。自分に信頼し、頼ってくれるまでにしたい。
 仕方ない、今日出て行くのはあきらめようと、青年は思った。彰吾の作戦勝ちだった。
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