秋風の色

梅川 ノン

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10章 愛する人の支え

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 尚希の母の四十九日の法要が執り行われた。
 母との突然の別れからここまで、あっという間だったようにも思える。
 学生の身で、世間の常識、しきたりなど何もわからない尚希がここまで無事に済ませられたのは、無論北畠家の助力あっての事。尚希はそれを十分に自覚し感謝していた。
 ことに尚久の存在は大きい。尚久がいなければとても耐えられなかった。
 最近は、大学へも通常通り通えるようになっている。それも、生活の場が北畠家だからだと思う。
 時折マンションへ行くと、やはり母のことを思い出し、悲しみに囚われる。ここで一人住むのは無理だと思うのだ。
 尚希は、北畠家の人達に申し訳ないと思いながら、北畠家へ帰っていく。そんな尚希を、北畠家の人達も優しく受け入れるのだった。

「尚さん、就活も再開しようと思うんだ。かなり出遅れてるから、どうなるか分からないけど」
「そうか、焦る必要はない。もしもの時は留年したっていい。それぐらいの気持ちでいたらいいぞ」
「うん、そうだね」
 尚久は、尚希が前向きになったことで安堵もするが、不安もあった。就活のことも頭にはあったが、尚久から切り出すのは躊躇していた。今の尚希に無理はさせられないとの思いからだ。
 実際、一年くらい留年してもいいと思っている。若い時の一年くらい何の問題もないと思うからだ。
 大学には、通常通り通っているが、無理をしているようにも感じられる。今は、余り無理させたくない。無理を重ねれば、いつかは崩れる、尚久はそれを恐れるのだった。

 尚久の焦る必要はない、留年したっていいとの言葉は、尚希の気持ちを随分と軽くした。実際焦る気持ちもあったからだ。大学生活の中で、今が一番大切な時。そんな時に、という気持ちも正直あったのだ。
 やっぱり、尚さんがいてくれるといい。尚さんは、どうしていつも僕の気持ちを軽くしてくれるんだろう。尚さんのたった一言で救われる。
 焦らず、とにかく再開すれば何か道が見えるかも、尚希はそう思った。尚久と出会う前なら考えられないことだ。前向きに、そしていい意味で開き直ることが出来るようになったのは、尚久のおかげだった。
 そんな尚希に教授が声を掛けてくれた。「君に紹介したい企業があるのだが」と。
 詳しく聞いてみると、企業側から、学生の紹介を求められている。今までも何人かの学生が教授の紹介で入社している。今年もお願いしたいと言われているとのこと。
「そのような話、私でよろしいでしょうか?」
「君は真面目だからね。それを見込んでのことだよ。もう少し早くに話はあったのだが、お母さんのことがあったからね。先方にもその旨話して、保留にしてもらっていたんだよ。どうかね、選考を受けてみるかね」
「よろしければ、お願いしたいです」
 そのようなわけで、尚希の入社選考の話はとんとん拍子で決まったのだ。

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