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8章 運命への恐れ
④
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アルファとオメガの運命の番。
そんなもの存在しない――伝説だとも言われる。
だが、身近にいるじゃないか。それも親子で、二組だ。
高久と、雪哉の絆も深いという。
雪哉もオメガとしては異例の存在だ。現に副院長を立派に務めている。
高久と雪哉。彰久と蒼。親子二代続けて、運命の番。
言うほど珍しくないのか、北畠家が特別なのだろうか……。
えっ! じゃあ、尚久は!
尚希は、唐突に気付いた。尚久もアルファで、北畠家の人間だと――。
当然、尚久も運命の相手と番うのだ。
その相手は、未だ現れていないけど、どこかにいる。確実に存在して、尚久の前に現れる。
自分はベータだ。アルファを誘うフェロモンなんて無い! それがベータなんだから。
この日以降尚希は、悶々と悩む。そして、尚久の運命の相手に怯えるのだった。
「尚希君こんにちは、大学はどうだい? ちょっと瘦せたんじゃない」
「えっ、そうかな……大学は、まあ、ぼちぼちです。あっ! 蒼先生来年度から院長先生なんですね、凄いです! おめでとうございます!」
「なお君に聞いたんだね。全く力不足だけど、頑張らないといけないね。身が引き締まる思いだよ」
「蒼先生なら大丈夫ですよ。彰久先生が副院長で支えるんでしょ」
「うん、そうだね。それは心強いかな」
「やっ、やっぱり運命の番だから……」
「うん……配偶者でもあるからね」
「あっ、あの……蒼先生たちって、最初に会った時から運命って分かったの?」
「それはなかったかな。二人とも子供だったから」
「で、でもずーっと彰久先生だけだったんだよね」
「うん、それはそうだね」
そうだ、子供の時から一筋の思い。それが運命の相手。
「えっ、えっと……院長先生たちも運命だったよね」
「うん? そうだけど……」
尚希は物思いに沈む。蒼は、そんな尚希に不信を抱いたが、その時は春久の登場で、話が途切れた。
その日の尚希の様子を、気になって時折垣間見る蒼。元気がないような、そんな感じを抱いた。
「なお君、ちょっといいかな」
「ええ、何ですか?」
「尚希君のことだけど」
最近、尚希の様子がおかしいことに尚久は気付いていた。変と言うより、避けられているような感じもある。
「何か、ありましたか?」
「うーん……おせっかいかなと思ったけど」
「あいつ、最近ちょっと変なんだよね。落ち込むと、ずこんと沈むから、気付いたことがあれば、教えてもらった方が助かります」
「あくまで僕が感じたことなんだけど、なお君の運命の相手を気にしているんじゃないのかな。僕たちも、母さんたちも運命だろ。それで、なお君にもそういう相手がいるって思ってるんじゃないのかな。彼はベータだから気にしているんじゃないのかな」
「そうか……あいつ余計なことを」
「まあ確かに、伝説だって言われる運命が親子二代って稀な事ではあるからね。彼が気にする気持ちも分かるんだ。だから、楽にしてやって欲しいと思ってね。それは、なお君にしか出来ないから」
「うん、早急に話すよ。あお君ありがとう」
「うん、尚希君は素直な良い子だからね。僕も彼のことは好きだから、彼が落ち込んでいるのは辛いからね。早く笑顔を取り戻して欲しいよ」
尚久には、蒼の言葉が嬉しかった。本当にこの人は優しい。病院だけでなく、ここ北畠家でも女神様だと思うのだった。
そんなもの存在しない――伝説だとも言われる。
だが、身近にいるじゃないか。それも親子で、二組だ。
高久と、雪哉の絆も深いという。
雪哉もオメガとしては異例の存在だ。現に副院長を立派に務めている。
高久と雪哉。彰久と蒼。親子二代続けて、運命の番。
言うほど珍しくないのか、北畠家が特別なのだろうか……。
えっ! じゃあ、尚久は!
尚希は、唐突に気付いた。尚久もアルファで、北畠家の人間だと――。
当然、尚久も運命の相手と番うのだ。
その相手は、未だ現れていないけど、どこかにいる。確実に存在して、尚久の前に現れる。
自分はベータだ。アルファを誘うフェロモンなんて無い! それがベータなんだから。
この日以降尚希は、悶々と悩む。そして、尚久の運命の相手に怯えるのだった。
「尚希君こんにちは、大学はどうだい? ちょっと瘦せたんじゃない」
「えっ、そうかな……大学は、まあ、ぼちぼちです。あっ! 蒼先生来年度から院長先生なんですね、凄いです! おめでとうございます!」
「なお君に聞いたんだね。全く力不足だけど、頑張らないといけないね。身が引き締まる思いだよ」
「蒼先生なら大丈夫ですよ。彰久先生が副院長で支えるんでしょ」
「うん、そうだね。それは心強いかな」
「やっ、やっぱり運命の番だから……」
「うん……配偶者でもあるからね」
「あっ、あの……蒼先生たちって、最初に会った時から運命って分かったの?」
「それはなかったかな。二人とも子供だったから」
「で、でもずーっと彰久先生だけだったんだよね」
「うん、それはそうだね」
そうだ、子供の時から一筋の思い。それが運命の相手。
「えっ、えっと……院長先生たちも運命だったよね」
「うん? そうだけど……」
尚希は物思いに沈む。蒼は、そんな尚希に不信を抱いたが、その時は春久の登場で、話が途切れた。
その日の尚希の様子を、気になって時折垣間見る蒼。元気がないような、そんな感じを抱いた。
「なお君、ちょっといいかな」
「ええ、何ですか?」
「尚希君のことだけど」
最近、尚希の様子がおかしいことに尚久は気付いていた。変と言うより、避けられているような感じもある。
「何か、ありましたか?」
「うーん……おせっかいかなと思ったけど」
「あいつ、最近ちょっと変なんだよね。落ち込むと、ずこんと沈むから、気付いたことがあれば、教えてもらった方が助かります」
「あくまで僕が感じたことなんだけど、なお君の運命の相手を気にしているんじゃないのかな。僕たちも、母さんたちも運命だろ。それで、なお君にもそういう相手がいるって思ってるんじゃないのかな。彼はベータだから気にしているんじゃないのかな」
「そうか……あいつ余計なことを」
「まあ確かに、伝説だって言われる運命が親子二代って稀な事ではあるからね。彼が気にする気持ちも分かるんだ。だから、楽にしてやって欲しいと思ってね。それは、なお君にしか出来ないから」
「うん、早急に話すよ。あお君ありがとう」
「うん、尚希君は素直な良い子だからね。僕も彼のことは好きだから、彼が落ち込んでいるのは辛いからね。早く笑顔を取り戻して欲しいよ」
尚久には、蒼の言葉が嬉しかった。本当にこの人は優しい。病院だけでなく、ここ北畠家でも女神様だと思うのだった。
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