秋風の色

梅川 ノン

文字の大きさ
上 下
47 / 78
7章 初めての恋心

しおりを挟む
 ベッドに横になっても、眼はさえたままだった。
 悶々として眠れない。
 先生が僕のこと好きなんて……未だに信じられない思いだ。
 で、でも本当なら嬉しい。
 本当だよね……先生は嘘をつくような人ではない。
 でも、どうしてだろう? 僕のどこが良いのだろう……全然分からない。
 女の子たちの言葉が頭に浮かぶ。だが、それは明確に否定してくれた。
 体目当て……それは違うと思う。そう思いたい。先生はそんな人ではない。
 第一、自分の体にそんな魅力があるとは思えない。単に若いだけだ。

 尚希は自分の唇に触れる。
 今日、尚久に触れられ、舐められ、吸われた唇。未だ、熱を帯びているようだ。
 尚久の唇は熱く、柔らかだった。後は……覚えていない。
 キスって、大人のキスって……ああいうのなんだ。
 先生は、今までどれくらい経験したんだろう……三十過ぎた大人の男性なんだから、一杯経験したんだろうな……。
 それに比べて自分の経験値の無さ。
 でも、それでいいと言った。自分が教えるからと……。

 先生を信じよう。
 尚希の結論はそれだった。そう思ったら、少し安心できる。安心できると、漸く眠たくなる。
 尚希はそのまま眠りについた。夜はかなり深くなっていた。

「あっ、なっくん!」
 尚希が北畠家の門をくぐり抜けると、離れの方からきた春久に声掛けられた。蒼も一緒にいる。
「はっくん、蒼先生、こんにちは。離れにいたの?」
「うん、宿題してた。終わったから母屋に来たよ」
「そうか、はっくんは偉いね! 勉強頑張ってるんだ」
 満面の笑みで頷く春久と手を繋いで、母屋に入る。
「尚希君、何か良いことあった?」
 蒼がにこやかな笑顔で聞く。
「えっ、良いこと!?」
「うん、なんだか今日はいつもより明るいっていうか、幸せそうだなって思ったから」
 そっ、それは――尚希は戸惑った。なっ、なんで分るんだろう――。尚希はドギマギする。
 答えない尚希に、蒼は気を悪くしたふうでもなく、ニコニコしている。
 無論、蒼が尚希の秘密を知っているわけではない。
 そこへ、雪哉も姿を見せる。
「雪哉先生、こんにちは、お邪魔しています」
「尚希君、いらっしゃい」
 雪哉が、尚希の顔をまじまじと見る。なっ、何……。
「何か、良いことあった? 顔が穏やかで、幸せそうだ」
「母さんも同じですね。僕も同じことを思って聞いたところです」
 えっ! な、なにこの人たち……なんで分るんだ! どっ、どうしよう……。
「あっ、そうだ! この間のテストの点が良かったので、多分……だからだと思います」
「そうか! そんなに良かったの? 凄いね、頑張ったんだ!」
「なっくん、すごい~」
 蒼と雪哉だけでなく、春久にも褒められて、面映ゆいが、尚希はほっとする。これで、ごまかせる。
 尚久とのことを皆に、話せるほどの勇気は、尚希にはこれっぽっちも無い。
「何が凄いんだ?」
 尚希の来宅を察した尚久が、リビングへ入ってくる。
「尚希君、テスト頑張ったんですって。良い成績だったようだよ」
 尚久の登場に、更にドギマギして、咄嗟に声の出ない尚希に代わって蒼が応える。
「へーっ、そうか偉いじゃないか」
 そう言って、尚希の頭を撫でる。尚希は、益々赤くなる。尚久の手の温もりが熱くて、心臓に悪い。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れのあと先

梅川 ノン
BL
研修医(受)と看護師(攻)の大人のピュアな恋物語

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

真っ白子犬の癒やし方

雨宮くもり
BL
オタク気質な白魔後輩×無鉄砲な剣士先輩。 とある魔術学校。庶民から魔道士を目指す青年たちの寮は『ゴミ箱』と呼ばれていた。 魔道剣士見習いの キイチ は、寮長で悪友の ツゲ に『“子犬”の面倒を見ろ』と言われる。 やってきたのは下級生で白魔道士見習いの テル だった。 肌も髪もまっしろなテルは、自虐的で、魔法陣オタク。おまけに感情が荒ぶると犬耳とふわふわしっぽを出しちゃう特異体質。 同室でのささやかな交流を楽しむ二人だったが、実はテルにはある事情があった。 ※流血や微グロ表現がございますのでご注意 表紙イラスト とわつぎさん

【短編】間違いを犯した僕たちは青い羽根に導かれる ーオメガバースー

cyan
BL
僕(樋口敬人)と、彼(岩倉晴臣)は両親がαというα家系に生まれた幼馴染。 僕も彼も自分がαであることを疑っていなかったし、将来は一緒に会社を盛り上げようという話をしていた。 しかし14歳のある日、僕はヒートを起こし、抗うことができなかった彼と体を重ねた。 そして二人は引き離されることになった。 そう、僕はαではなくΩだったんだ。両親に閉じ込められて過ごす日々の中で僕は青い羽根を拾った。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...