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5章 爽やかな風
④
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「こんにちは、お邪魔します」
「どうぞ」
北畠家へ訪れた尚希は、蒼の笑顔で迎えられる。
「なっくん、どうぞ」
蒼の後ろから姿を現した春久は、満面の笑顔で尚希を迎え入れる。春久は、尚希にとても懐いている。三歳だった春久も、もうすぐ六歳の誕生日を迎える。言葉も随分と、赤ちゃん言葉が抜けてしっかりしてきた。
春久の相手を、最初の頃は戸惑っていた尚希も、今では自然に馴染んでいる。懐いてくれる春久を、尚希も大好きになっていた。
北畠家は、ご飯も美味しいくて魅力的だが、蒼は優しく、春久との触れ合いも楽しい。尚希は誘われるままに、頻繁に北畠家へ来る理由になっていた。
尚久もそんな尚希を、微笑ましく思っていたが、ある時ふっと気になったことを母である雪哉に呟いた。
「あの二人、兄さんとあお君みたいな関係にならんかな」
「はっ……それはないだろう」
「でも、年の差一緒だし、はるは尚希に懐いているだろ」
「確かに懐いているけど、ただ懐いているだけだよ。蒼と彰久は、あんなもんじゃなかった。彰久の蒼に対するものは、懐くのを通り越していたよ」
「そうかな」
「そうだよ。蒼が来ると、インターフォンもなる前に察知して玄関に突進、そして帰るまで片時も離れないんだから。はるは、ああして一緒に遊んでいても、食事の時とかは、蒼の隣にいるだろう。全然違うよ」
ああそうか、確かにそうだったよな。兄はいつも蒼の側にいたことを、今更ながらに思い出す。あれは、やはり運命ならではだったのだろう。それを思えば、確かに尚希と春久は、単に年上のお兄ちゃんに懐いている幼児だろうと、尚久も思い直すのだった。
「そうだ、尚希君入学式終わったんだよね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「どう、大学は?」
「まだ始まったばかりだから……」
「そうだよね、あんまり気負わずのほうがいいかもね。今日は大したことできないけど、お祝いしようね」
「そんな、卒業祝いもしてもらったし、この間尚久先生には、ご馳走になったし」
「なお君と外食したんだ、良かった?」
「はい、あんな店初めてだから、ちょっと緊張したけど」
「ははっ、少し大人の気分になっただろう。大学生だからね。徐々に大人の仲間入りかな」
「おとな? なっくんおとなになったの?」
蒼と尚希の会話に、春久が不思議そうな顔で割り込む。
「うん、尚希君はね、大学生になったから、これから少しずつ大人になるんだよ」
「はっくんは、まだこども? だいがくいかないの?」
「はる君は、来年小学生だから、まだ子供だよ」
「はっくんまだこどもか、はやくおとなになったほうがいいの?」
「そんなことないよ。ゆっくりでいいんだよ。あんまり急ぐと、ママ淋しいよ」
親しいとはいえ他人の尚希でさえ、大学生になったのかと感慨深いものはあるが、一抹の寂しさを覚えるのも事実。我が子の春久なら猶更。
「そうなの? はっくんこどもでいいの?」
春久は蒼に抱きつく、蒼もぎゅっと抱きしめてやる。まだ、こうして自分にの胸に抱きしめてやりたい。
「そうだね、大人になると、こんなふうにぎゅっもできないかなあ、お風呂も一緒に入れないかも」
「そっ、そうなの?!」
さも一大事のように春久は目を見張る。いや、春久にとっては、一大事なのだ。
「だから、急がなくていい。ゆっくり少しずつ大きくなるんだよ」
蒼の言葉に安心した春久は、蒼の胸に顔を埋めて「ママ大好き」と言った。
二人の姿を見ていて、いいなあと、尚希は思う。親子の絆の深さに当てられる思いだ。
「どうぞ」
北畠家へ訪れた尚希は、蒼の笑顔で迎えられる。
「なっくん、どうぞ」
蒼の後ろから姿を現した春久は、満面の笑顔で尚希を迎え入れる。春久は、尚希にとても懐いている。三歳だった春久も、もうすぐ六歳の誕生日を迎える。言葉も随分と、赤ちゃん言葉が抜けてしっかりしてきた。
春久の相手を、最初の頃は戸惑っていた尚希も、今では自然に馴染んでいる。懐いてくれる春久を、尚希も大好きになっていた。
北畠家は、ご飯も美味しいくて魅力的だが、蒼は優しく、春久との触れ合いも楽しい。尚希は誘われるままに、頻繁に北畠家へ来る理由になっていた。
尚久もそんな尚希を、微笑ましく思っていたが、ある時ふっと気になったことを母である雪哉に呟いた。
「あの二人、兄さんとあお君みたいな関係にならんかな」
「はっ……それはないだろう」
「でも、年の差一緒だし、はるは尚希に懐いているだろ」
「確かに懐いているけど、ただ懐いているだけだよ。蒼と彰久は、あんなもんじゃなかった。彰久の蒼に対するものは、懐くのを通り越していたよ」
「そうかな」
「そうだよ。蒼が来ると、インターフォンもなる前に察知して玄関に突進、そして帰るまで片時も離れないんだから。はるは、ああして一緒に遊んでいても、食事の時とかは、蒼の隣にいるだろう。全然違うよ」
ああそうか、確かにそうだったよな。兄はいつも蒼の側にいたことを、今更ながらに思い出す。あれは、やはり運命ならではだったのだろう。それを思えば、確かに尚希と春久は、単に年上のお兄ちゃんに懐いている幼児だろうと、尚久も思い直すのだった。
「そうだ、尚希君入学式終わったんだよね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「どう、大学は?」
「まだ始まったばかりだから……」
「そうだよね、あんまり気負わずのほうがいいかもね。今日は大したことできないけど、お祝いしようね」
「そんな、卒業祝いもしてもらったし、この間尚久先生には、ご馳走になったし」
「なお君と外食したんだ、良かった?」
「はい、あんな店初めてだから、ちょっと緊張したけど」
「ははっ、少し大人の気分になっただろう。大学生だからね。徐々に大人の仲間入りかな」
「おとな? なっくんおとなになったの?」
蒼と尚希の会話に、春久が不思議そうな顔で割り込む。
「うん、尚希君はね、大学生になったから、これから少しずつ大人になるんだよ」
「はっくんは、まだこども? だいがくいかないの?」
「はる君は、来年小学生だから、まだ子供だよ」
「はっくんまだこどもか、はやくおとなになったほうがいいの?」
「そんなことないよ。ゆっくりでいいんだよ。あんまり急ぐと、ママ淋しいよ」
親しいとはいえ他人の尚希でさえ、大学生になったのかと感慨深いものはあるが、一抹の寂しさを覚えるのも事実。我が子の春久なら猶更。
「そうなの? はっくんこどもでいいの?」
春久は蒼に抱きつく、蒼もぎゅっと抱きしめてやる。まだ、こうして自分にの胸に抱きしめてやりたい。
「そうだね、大人になると、こんなふうにぎゅっもできないかなあ、お風呂も一緒に入れないかも」
「そっ、そうなの?!」
さも一大事のように春久は目を見張る。いや、春久にとっては、一大事なのだ。
「だから、急がなくていい。ゆっくり少しずつ大きくなるんだよ」
蒼の言葉に安心した春久は、蒼の胸に顔を埋めて「ママ大好き」と言った。
二人の姿を見ていて、いいなあと、尚希は思う。親子の絆の深さに当てられる思いだ。
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