秋風の色

梅川 ノン

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3章 手術

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「ただいま」
 尚久が帰ると、家は静寂に包まれていた。春久たちは、既に離れへ行ったのだろう。
「兄さんたち離れのようだね。凄く静かだ」
「はるがいないと火が消えたようだろ」
 ほんとにそうだ。大人だけだと、こんなに静かなのだと思う。物淋しくて、あの賑やかさが我が家なんだと、改めて思う。
「はるを寝かさないといけないからな。蒼が気にして、お前によろしくと言っていた。くれぐれもって感じが蒼らしい」
 そうだ、そこが蒼なんだと尚久も思う。自分が代わったことを感謝してくれているんだろう。だが、自分にとっても良い時間だった。
「尚久、明日は私と雪哉、そして彰久も見学するからな」
「えーっ父さんたちも! なんで!」
「そう驚くことはなかろう。新しく来た外科医の腕を直接見極めるのは、院長としての当然の務めだ」
 まあ、それはそうだろうが、兄さんもって、家族総出じゃないか……。
「うちの病院の次代は、お前たちの肩にかかっている。彰久もお前の腕を確認したいのだろう。お前も彰久の手術を見学してもいいぞ」
 それは見なくても分かる。専門は違うが、追いつき追い越したい一心でここまできたのだから。しかし、彰久は尚久の腕を直接見たことはない。兄として、将来の院長として確認したい気持ちは理解できる。
「分かったよ、大丈夫。俺はいつも通り淡々とするだけだから」
 そうだ、明日は蒼も見る。この際皆に見てもらって、認められたい。その為に、十年近くも異国の地で努力してきたのだから。そう思うと、尚久は体の内に力が湧いてくるのを感じた。

 翌朝、身支度を整えリビングへ行くと、丁度春久たち親子も離れから来たところだった。
「あっ! おじちゃまおはようごじゃいます!」
 いち早く尚久を見つけた春久が、元気よく頭を下げながら挨拶する。
「おはよう!」
 朝から元気一杯の甥っ子の頭を撫でてやる。やはりこの子は太陽のような子だ。春久が来ると、途端に明るくなる。
「なお君、昨日はありがとう。尚希君大丈夫だった?」
「夕食も完食して、早めに大人しく眠ったから心配いらないよ」
「そうか、良かった。今日はよろしくね」
「僕も見学するからな」
「ああ、昨日父さんたちに聞いた。まあ、いつも通り淡々とするから」
 その後皆で朝食をとった。朝の慌ただしい中にも楽しい食卓。昨晩、一人で食べた食事と全然違う。そこで、尚希のことを思った。あの母親の忙しさからしたら、多分、食事も一人でとることが多いのではと思う。さぞや、毎日淋しく、味気ないだろう思うのだった。
 昨日尚希にも言ったが、退院したらここへ誘ってやりたいと改めて思うのだった。

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