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第9章・収穫祭デート?

第64話・初めての浴衣

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この世界は、1年あたり8ヶ月周期で公転運動を行なっている。ちなみに1ヶ月はどの月も30日である。
年初めの前後2ヶ月ほどが晩期と呼ばれる、ケイジ達のいた世界でいう秋から初冬を指し、それが終わると1ヶ月ほどの雨季に入る。雨季は初春ほどの気温で、その1ヶ月は7割ほどが雨の日である。そして雨季が終わると5ヶ月程度の安定期に入る。安定期は春から初夏ほどの気温を行ったり来たりし、雨は平均1ヶ月に4日くらいだ。
特徴として、大きな冷え込みや大きな暑さが無く気温や天候の変動が小さいと言えるだろう。

何故突然こんな話をするのかって?
それはもちろん今回の話に関係するからだ。
さあ、あまり深読みせずにケイジ達の日常を見てみよう。


間。


「収穫祭?」

いつもと同じカウンターで、コーヒーを飲みながらケイジが言った。
時刻がまだ午前7時ということもあってか、ジーク達はまだ来ていないしギルド内も比較的静かだ。

「はい。毎年安定期の終わりころに、年越しと晩期に備えてその年に出来た様々な物が出回る市の事です。良かったら一緒に行きませんか?」

「ああ、もちろん。明後日でいいんだよな?」

「はい。その日はギルドもお休みなので、1日かけて皆必要なものを揃えているんですよ」

「なるほど」

収穫祭、か。
こりゃまた異世界っぽいイベント、ってそうでもないか。向こうの世界でもアメリカとかじゃ普通にあるもんな。

注・ケイジくんはこんなこと言ってますが、日本でも収穫祭はあります。
古来より日本のお祭りは祈年祭と新嘗祭の2つが代表的で、祈年祭は「豊作を祈る祭り」、新嘗祭が「収穫に感謝する祭り」とされており、新嘗祭がよく言う収穫祭にあたる訳ですね。
もちろん現代でも収穫祭は盛んに行われており、いわゆる「秋季大祭」の名で行われています。
宮中でも神々に新穀を捧げる祭祀が執り行われるそうです。


「それじゃ、荷物持ち頑張りますか」

「むう、それもありますけど……」

何故かムスッとするテリシア。
え、なんか俺地雷踏んだか?

「んじゃ、とりあえず俺は仕事行ってくるから」

「はい、行ってらっしゃいませ」

手を振るテリシアに右手を上げて応え、そそくさとギルドを出た。

ん、今日の依頼か?憲兵学校の弓の訓練の指南だ。前に街で賭け事やってたから参加したんだが、あ、賭ける側じゃなくて弓で射つ側な。それに参加したんだが、なんか思ったより簡単で普通に優勝しちまってな。そこにたまたま居合わせた教官さんに是非やって欲しいって言われたから。
報酬もそれなりにいいし、まずなによりエルのアホのせいで断れねえ……。
ちなみにアホとエラムはミルさんちにお泊まり中。
ドラゴンやら悪魔ってホントにフリーダムだよな。



間。



2日後。収穫祭当日。
時刻は午前7時だが、街は既に賑わい始めていた。
ユリーディアが王都以外の4つの街の中心に位置する事もあり、ユリーディア以外の人達も来るそうで。
沢山の農家や商人、鍛冶屋、はたまたひと稼ぎ狙うギルドの奴らなどが店の準備に追われているように見える。

ふと隣のベッドを見ると、テリシアがいない。
トイレにでも行ったのか……としか思わなかった。
そしてケイジはベッドから這い出し、うるさい悪魔がいない朝に幸せを感じつつ1階へ階段を降りて行った。

ドアをガチャリ。

「ん、おはようテリ……シア……」

「あ、あ、あ……」

うん、やらかした。
なんか知らんが、テリシアさん帯みたいなのでぐるぐる巻きの半裸になってる。

「み、見ないでください~!!」

サッと部屋を出る。
朝から何やってるんだあの子は……。

5分後。

「お、おはようございます。さっきは、し、失礼しました……」

俯き、顔を赤くするテリシア。

「いや、いいんだけどさ。何やってたんだ?」

「ええと、昨日クロメさんからお着物を頂きまして。2人で着るが良い、と言ってました。着てみてケージさんを驚かせようと思ったんですが、うまく出来なくて……」

企みが可愛い……。

「着物か……どうだろう、そんなに豪勢なやつじゃなけりゃ着付けくらいなら出来ると思うけど」

テリシアが着るのに失敗したと言う着物を手に取ってみる。
ああ、日本の着物と同じみたいだし、これくらいなら着付け出来そうだ。

「本当ですか!?」

「ああ、多分な。ほら、やってみよう。まずこれに袖通して」

昔見た着付けの動画をぼんやりながら思い出し、上前を合わせ、腰紐を巻いて帯を巻く。
手際よく、失敗する事もなく着付けることができた。某動画有名サイトの動画も捨てたもんじゃない。
ついでに、入っていた簡単なかんざしもつけて、髪も結ってみた。

「苦しくないか?」

「大丈夫です! ケージさん、すごいですね!」

「まあこのくらいの着物ならな。いや、どっちかと言えば浴衣の方が近いか」

布の厚さや足袋が入っていなかったのを見ると、着物というより浴衣に近いようだ。まあそれなりに暖かいし、その方がいいと思うが。

「あ、ケージさんの分もありますよ。どうぞ」

「俺のもあるのか。浴衣なんて初めて着るなあ……」

浴衣に袖を通しながら、人生初の和服に少しだけ気分が揚がる。

「じゃ、行きましょう?」

ルンルン気分で家を出るテリシア。
楽しそうな人を見るのはとても楽しい。

「テリシア、財布持ったのか?」

「あ、忘れてた!」

「鍵は?」

「ああ、鍵も忘れてました!」

ほとんどじゃねーか!!

「あはは……、しっかりな」

「うぅ~、すみません……」

相変わらずの天然っぷりに脳内で突っ込みを入れ、それでも楽しそうな彼女の笑顔に見惚れながら、ケイジはテリシアの後に続いて賑わう街へと出かけて行った。
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