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一章 夢を喰う少年

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――夢を見た。

 真っ白な空間に並ぶ二つの扉。
 この景色を見るのは何度目だろう。
 ユメナはいつもここで夢の選択を迫られる。 
「ここで間違えたら……」
 ドアノブに手をかけた。その瞬間だった。

「ユメナ」

 誰かが手首をしっかりと掴んでいる。
 振り向くと、そこには先ほどの真っ黒少年が立っていた。何故か委員長が掛けているような丸メガネを掛けている。
「さっきの……」
 ヨミは笑顔でピッと敬礼をした。
「新人ユメクイのヨミです! 悪夢を撃退するため夢の中にお邪魔してまーす!」
 そう言うとヨミは指でくいっとメガネを押し上げた。
 どういう原理で夢の中に?ていうかプライバシーもへったくれもなくない?そもそも私許可してなくない?ユメナはそう思いながら、夢の中を隅々まで観察するヨミの姿を見つめていた。
「ユメナはどっちが正解の扉だと思う?」
 突然投げかけられた質問にユメナは視線を右に左にやりながら、首をひねる。
「えと、右?」
「ぶっぶー! 答えは……」
 ヨミは胸ポケットから小石を二つ取り出すと、両方の扉に勢いよく投げつけた。すぐには応答しなかったが、しばらくすると二つの扉の隙間から黒いロープのようなものがするすると現れた。
 赤い目がぎらりとユメナを捕らえる。
「ひいっ! なにあれ!?」
「やっぱり。あの扉は両方ハズレだったみたいだ」
「ハッ、ハズレェ!?」
 ハズレ、と聞いてへなへなと座り込みそうになる。自分は今日までずっとハズレしか入っていないくじを引き続けてきたのだ。
「姿を現したな……黒夢ヘビ!」
 名を呼ばれた二体のヘビは、長い舌で口元を舐めた。テレビでも見たことがないほどの巨大ヘビ。鋭い視線は「獲物」であるユメナを捕らえて離さない。
「なにあのでかいヘビ……こ、こわい」
 ユメナはヨミの背中に隠れると、服をぎゅっと握りしめた。悔しいが今この空間で頼れるのはこの男しかいない。
「大丈夫だよユメナ」
 ヨミはユメナを守るように前に立った。あ、意外と小柄……なんて思いながらヨミの後頭部を見つめる。
「夢の中はぼくらユメクイのテリトリーだからね。負ける気はしない」
 自信満々のその姿にユメナは微かな希望を抱く。これはヨミが早々に黒夢ヘビとやらをカッコ良く退治して、自分の悪夢と共にほうむってくれる流れだ。
「召喚」
 そうつぶやくと、ヨミの右手がまばゆい光に包まれた。 
「光ってる!?」
 さすがテリトリーというだけあって、すごい威圧感だった。まるでマンガの中の世界に飛びこんだような光景に、自然と胸が高鳴る。
 あの光の下にはどんな武器が……
 光に包まれた武器を見たユメナは目を丸くした。

 ヨミの手に握られていたもの――それはお菓子作りに用いるめんぼうだったからだ。

「……めんぼう?」
「うん。めんぼう。昨日クッキー作る時に使った」
「え? あの、普通こういうのって光る剣とかでっかい弓矢とか出てくる流れじゃ……」
「ぼく新入社員だからそういうのないんだよね」
 あはは、と笑うヨミ。一瞬でもすごいと思ってしまった自分が恥ずかしい。

 拍子抜けしたのは黒夢ヘビも同じだったようで、二人を威嚇するようにものすごい勢いで尻尾の先端を左右に振り回しはじめた。体はユメナたちよりも一回りも二回りもデカい。あんな体で突進なんてされたら、ものの数秒で意識を失ってしまう。
 ユメナは膨れ上がる恐怖からさらにヨミの腕を強く引っ張った。 
「痛い痛い! そんな強く握んないで!」
「無茶言わないでよ! ていうかめんぼうであんなでっかいヘビに勝てるわけないじゃん! うちのおばあちゃんですら金属バットで挑むよ!」
 ギャーギャー言い争う二人を見ていたヘビはしびれを切らしたように尻尾を大きく振りかざした。
「ユメナ危ない!」
 ヘビはユメナを目掛け、そのまま叩きつけるように尻尾を振り下ろした。悲鳴も出ないユメナは頭を抱えてその場にしゃがみこむ。

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