上 下
463 / 465
狂月明ける空編

ep463 タイミングが悪いとかそんなレベルじゃないし、そもそもお祝いの席にカチコミとかありえないから、全員この場でぶちのめしてやる!

しおりを挟む
「今日という今日こそ、おどれを始末したらぁ! そのためにわざわざ潜伏して、兵隊を集めとったんやからなぁぁあ!」
「うへぇ……。総帥の氷山地だけじゃなくて、構成員もどんだけ揃えたのよ……。パッと見千人ぐらいいない?」

 教会の外に出て目に入るのは、結婚式という舞台にはあまりに不釣り合いな厳つい面々。総帥の氷山地を始めとした大凍亜連合の構成員が、所狭しと式場を包囲していた。
 その理由については、早い話が空色の魔女アタシへのお礼参り。そんなことのためにわざわざ脱獄したメンバーまで集めちゃって、ここまで来ると逆にファンじゃないかとさえ思えてくる。

「さあ、やってまえ! ここにいる連中を巻き込んでもかまわへん! 大凍亜連合の恐ろしさを、今一度このアホンダラ魔女に教えたるんやぁぁあ!!」
「……まあ、こんな過激なファンはいらないけど。てか、よりにもよってアタシ達の結婚式に押しかけてこないでよ……」
「……これ、一般的に見れば大事件だろ。反社組織が結婚式場を襲撃とか、夕刊の一面を飾りそうだ……」
「ウチ、新聞はとってないけどね」
「そういう問題でもない」

 正直、タイミングとしてはこれ以上ないほど最悪だ。せっかく結婚式の最中だったのに、ムードも何も全部台無し、ぶち壊し。
 アタシもタケゾーも肩を落としてただ呆然。怒りより先に呆れが出てきちゃう。

 ――だって『タイミングが最悪』なのは向こうも同じだもん。

「ほォう? こいつは都合がいいなァ。ここでオレが直々に大凍亜連合をぶっ潰しちまうかァ」
「せやから、なんであんさんが前線に出てくるんでっか? SPに守られとってくださいや。そもそも、内閣総理大臣が堂々と物騒なことを言わんでくだせえ」
「うるせェぞォ、牙島ァ。テメェも一緒に手伝えェ」
「……もう、なるようになれやわ」

 まず出てくるのはプライムビッグスターの固厳首相。いつの間にか電気チャージも完了済み。
 そのお共にバーサクリザードの牙島。固厳首相にツッコミつつ、半ば投げやり状態。

「これは僕も出るしかないか。空鳥さんと赤原君の結婚式を台無しにした罪、身を持って償ってもらおうか」
「ボクも戦う。結婚式、台無しにした。許せない」
「……俺も出るか。栗阿、お前は他の来客者と一緒に下がっててくれ」

 さらに出てくるのはライトブレイブの宇神君。(両刃剣装備)
 それと一緒にインサイドブレードのショーちゃん。(居合式高周波ブレード装備)
 ついでと言わんばかりにフェイクフォックスのフェリアさん。(着火式高周波ブレード装備)

 ――みんな準備がいいね。

「ハハハ! これは私も出るとしよう! 隼と武蔵殿の結婚式を乱す輩なぞ、このウォリアール王族が蹴散らしてくれる!」
「ラルカ右舷将。オレッチもちょいとガンシップを持ってくるね」
「ええ、そうしてください。過剰戦力が過ぎるとは思いますが、この際なので徹底的にやってしまいましょう。自分は来客者の護衛を優先しますか」

 トドメとばかりにステッキを構えるクジャクのおばちゃん。
 過剰とばかりにガンシップを取りに行くフクロウさん。
 ラルカさんもシスター姿のまま、外に出て状況を確認している。

 以上がこちらの戦力ってことで。まあ、ハッキリと言いましょう。



 ――こっちが圧倒的に有利過ぎる。開戦したら一方的な蹂躙ができるぐらいには。



「な、なんやこいつら!? なんでこないにやる気なんや!? お、おい、牙島! おどれはこっちにつけや! 大凍亜連合の用心棒やろ!?」
「うっさいわ、冷凍ハゲ。いつの話や」
「『冷凍ハゲ』……凄いヴィランネーム。ボク、初めて聞いた」
「いえ、氷山地総帥のヴィランネームは『ターニングベヒモス』です。『冷凍ハゲ』はミスター牙島の個人的な蔑称です」

 あまりにそうそうたるメンバーが揃ったもんで、氷山地も部下千人いても怖気づいてしまう。
 こっちはこっちで全然余裕の空気だし、むしろ変な会話が始まっている。牙島の奴、内心でそんな風に氷山地のことを呼んでたのね。ちょっとショーちゃんの教育に悪そう。

 ――まあ、そんなことはどうでもいいか。とりあえず、アタシも個人的にやりたいことがあるし。

「ねえ、洗居さん。アタシのバッグを預けてたよね? その中に収納カプセルが二個入ってると思うんだけど?」
「え? は、はい。確かに入ってますが……?」
「それ、まとめてアタシに投げ渡して頂戴な。……アタシも激おこぷんぷん丸なもんでね。ちょいとひと暴れしてくる」
「……フフ、空鳥さんらしいと言えばらしいですね。どうぞ、お受け取りください」

 この戦力ならアタシも見てるだけで良さそうだけど、ぶっちゃけ直接鉄槌を下したい。
 もうね、内心ではメチャクチャ怒ってる。一世一代の結婚式に乱入されて、ご機嫌斜めに決まってる。
 洗居さんから変身ブローチとガジェット一式が入ったカプセルを受け取り、早速準備に取り掛かる。

「……隼。ジェットアーマーのカプセルは俺に貸してくれ」
「もちろん、そのつもりだったからね。てか、タケゾーもオコな感じ?」
「ああ、当然だ。別にヒーローをやりたいわけじゃないが、あの連中だけは個人的にぶっ飛ばす」
「おーおー、怖い怖い。……そんなわけでみんな。ここはアタシとタケゾーが先陣を切らせてもらうよ」

 それは新郎のタケゾーだって同じこと。そう言うと思ってたから、ジェットアーマーの変身カプセルも洗居さんに投げ渡してもらった。
 もうこうなったら大凍亜連合を徹底的にお仕置きしちゃおう。そして、その悲鳴を祝砲にしてやる。

 ――それは流石に嫌か。でも、そうしたいぐらいには怒り心頭ってもんだ。

「こんなことなら、ジェットアーマーも白いカラーリングに塗り直せばよかったな」
「まあ、夫婦揃ってのお色直しと思えばいいんじゃない? アタシも今回はいつもの黒い魔女装束だし、カラーリングはお揃いさ」

 それぞれ装備も終え、結婚式の衣装から一転して物々しくなる。特にタケゾーのジェットアーマー。
 アタシも持ってたブーケを後ろに投げ捨て、代わりにデバイスロッドの構えはよし。
 すぐ後方には頼りになりすぎる味方もいる。来客の皆さんもいるし、ここはパパッと無双で終わらせよう。
 そんでもって結婚式を再開。これにてハッピーエンドってね。

 ――アタシが掛け声と共に先陣を切れば、蹂躙タイムの始まりだ。



「さあ覚悟しな……氷山地に大凍亜連合の皆さん。……結婚式の恨みを思い知れぇぇぇええ!!」
しおりを挟む

処理中です...