空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep457 将軍艦隊右舷将:ラルカ・ゼノアーク

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「どりゃぁぁあああ!!」
「ハウラァァアアア!!」

 合わさる『最後の決闘ラストダンス』の言葉。それと同時に振るわれるお互いの拳。
 決闘の舞台となった甲板を蹴り、アタシとラルカさんは気合任せに殴りにかかる。


 ドゴォォオンッッ!!


「ふんぎぎ……! ラルカさんって、本当に生身の人間なんだよね……!? アタシでも普通に痛いんだけど……!?」
「ぐぐうぅ……! 人体改造は一切行ってませんが、その分鍛えています……! あなたの方こそ、よく自分の一撃に耐えますね……!?」

 お互いの拳が頬に突き刺さり、クロスカウンターとなる態勢。アタシもラルカさんも余計な武器など持ってない。生身だけのガチンコ肉弾勝負。
 今回は完全に体一つがものを言う勝負だ。モデル・パンドラにデバイスロッドやトラクタービーム。銃火器にトラップなんてものもない。

 ――そんなものは必要ない。ただ想いの丈をぶつける決闘には無粋だ。

「どうしたのですか!? 自分との決闘を望まれていたのでしょう!? もっと反撃して――ガフッ!?」
「そりゃ、技で見ればアタシの方がチンケだろうね! だけど、こっちだって意地さ! 決闘を申し込んだ以上、勝ちの芽は拾わせてもらうよぉぉお!!」

 開幕の一撃以降も殴り合いは続くけど、ラルカさんの体術はやっぱり凄い。生身での動きだけ見れば、フェリアさんどころかクジャクのおばちゃんをも上回ってる。
 きっとこの領域に至るまで、相当な訓練を積んだのだろう。そんな背景が簡単に見て取れる。
 それでもアタシは怯まない。どれだけ技量で負けていようとも、力づくで活路を開いていく。

 ラルカさんがフックで殴りかかろうとも、強引に弾いて殴り返す。
 キックで顔面を狙われようとも、頭突きで耐えて蹴り返す。

 戦い方が綺麗じゃない? わざわざ相手と土俵を合わせての泥試合? まあ、傍から見ればそんな感想も出そうだよね。
 でも、アタシはこれでいい。ラルカさんの絞り出せない心を解放するには、見た目にこだわってちゃダメだ。

 ――ヒーローは人の心を救う存在。自らに悪役ヴィランとしての役目を課した相手でも、救い出せるヒーローにアタシはなりたい。

「クフフフ……! わざわざ自分のためにこんな決闘まで用意してくださるなんて、空色の魔女はどこまでもお人好しのヒーローですね! まるであのお方を――ツバメ様を見ているようですよ! わざわざ孤児院なんて作ってくださったように!」

 ラルカさんの様子もこれまでとは大きく違う。任務遂行のための殺気など纏わず、笑いながらアタシとの決闘に挑んでくれている。
 まるで心の鎖から解き放たれ、本当の自分自身をさらけ出すかの様相。そういや、ラルカさんが素直に本心を見せた相手って母さんぐらいなんだっけ。

 ――なんだか、アタシが母さんの代わりになれてる気がしてくる。



「その態度に敬意を表し……自分も奥の手を使わせていただきましょうかぁぁああ!!」


 ズガンッッ!!


「ガッ……ハッ……!? な、何……今の……!?」



 とはいえ、戦況の方は別問題だ。突如アタシの全身を――いや、体の中を衝撃が駆け巡る。
 なんかラルカさんも『奥の手』とか言ってたよね? ラルカさんは握り拳をこちらに向けて構えたままで、何か武器を隠してたわけでもない。
 それなのにこの体内から破壊するような衝撃の流動。まさか、アタシも噂程度に聞いたことがあるあの技ってこと?

「ワンインチパンチ……! 別称を寸勁すんけい発勁はっけい。これが自分に使える『最強の体術』です……!」
「ケホッ……ほ、本当に使ってる人は初めて見たや……。実際に食らってみると、とんだファンタジー体験だよ」
「それはミス空鳥が言えた義理ですか? 自分どころか大衆からしてみれば、あなたの肉体の方がずっとファンタジーですよ?」
「……そういや、そうだったね。でも、改めてアタシも感心するもんだ。特別な能力なんてなくても、人間は鍛え方次第でここまで強くなれるのか」

 咳込みながら話を聞けば、やっぱりさっきの技はワンインチパンチだったか。武器も何も使ってないのに、その威力はこれまでラルカさんが使っていたどの技よりも強烈だ。
 前々から体術のレベルの高さは知ってたけど、これは言葉通りに『痛感した』ってところだ。この人、素手でも生身のアタシよりタイマン強いんじゃない?

「どうされました? 今からでも武装を装着し直しますか?」
「……いや、それには及ばないよ。そっちの奥の手がワンインチパンチなら、こっちの奥の手は強化細胞ってもんさ。小細工なんか必要ない! したくもない!」
「……クフフフ! やはり、あなたならそう言いますよね。でしたら、このまま続けましょう。……嘘偽りも台本もない決闘を!」

 ワンインチパンチは確かに脅威だ。ちょっとは逃げ道だって作りたくはなる。
 だけど、それ以上にこの人とは真正面からぶつかりたい。小細工も用意された台本もなく、思うがままに拳で語りたい。

 ――これまでのやり方とは違うけど、それがアタシのやり方だ。
 どれだけ泥臭くても、人の心に真正面から向き合いたい。それが目指すべきヒーロー像だ。

「どんりゃぁぁああ!! ラルカさぁぁああん!!」
「ハァアウラァアア!! ミス空鳥ぃぃぃいい!!」

 そこからは完全に頭真っ白にしての殴り合い。ラルカさんも余計な思考は見せてこない。
 腹の底から声を上げ、お互いの名前を叫び、パンチやキックでせめぎ合う。

 ラルカさんは無駄のない回避から単発を入れつつ、ワンインチパンチで鮮やかにノックアウト狙い。
 アタシはそれらを強引に弾いて隙を作り、乱雑な攻撃になりながらも野性的に食らいつく。
 その光景だけ見れば、どっちがヴィランか分かったもんじゃないね。いや、そんな区切りさえも無粋か。

 ――これは決闘。お互いの気持ちを晴らすためのもので、そこに善悪も正義もない。

「ハァ、ハァ……! そ、その程度ですか……!? 空色の魔女が改造人間でもない自分一人に、ここまで遅れを取るのですか……!?」
「そ、そのセリフ……そっくり返してあげるよ……! 最強の殺し屋がアタシみたいな素人小娘に、そこまで追い詰められていいのかい……!?」
「い、言ってくれますね……! ならば、そろそろ終わりにしましょうか……!」
「じょ、上等だよ……!」

 気がつけばお互いに息を切らし、完全にボロボロ状態。舞台となった甲板の上で月が輝きながらも、水平線の向こうで朝陽が顔を覗かせている。
 空で入れ替わる月と太陽のように、そろそろこっちも決着といこう。お互いに限界も近い。



「ハウラァァァアア!!」



 先に動いたのはラルカさん。両腕を広げながら、アタシの懐へ鋭く潜り込んでくる。
 やっぱ、経験の差では勝てないか。思わず反応が遅れ、ラルカさんの侵入を許してしまう。
 そこから両の拳を合わせて放たれるのは――


 ズガァンッッッ!!


「ふんぐぅ……!?」

 ――二重に威力を重ねたワンインチパンチ。これまでと段違いの衝撃がアタシの体内を巡り、頭まで揺さぶってくる。
 こんな技、普通の人が食らえばノックアウトどころか即死かもね。ラルカさんもアタシが超人だから使ってくれた技だ。
 だけど、アタシにはラルカさんのような技巧はない。タイマン肉弾戦となれば、プロ中のプロ相手に勝ち目はない。躱すのなんて難しすぎる。

 だからアタシにできるのは――



「ふん……ぎぎぎぃ……! まっだまだぁぁああ!!」
「なっ……!?」



 ――全力で耐えることのみ。こっちは武術に関しては達人どころか素人だ。搦め手なんて使えない。
 全身に力を込め、強化細胞の守りで受けきる。ラルカさんも大技を使った直後だ。隙はここにしかない。

「おんどりゃぁぁあああ!!」
「ぐぅ……!? ハウラァァアア!!」

 耐えきった直後に放つは、全力の右ストレート。ラルカさんもすぐさま切り替えて放つは、反撃の左ストレート。
 これで決まる。再びクロスカウンターの態勢で拳が交差し、お互いの頬へと向かっていく。


 ドゴォォオンッッ!!


「あっ……がっ……!?」
「…………」

 まさに刹那の勝負。ギリギリの攻防。
 ラルカさんの放った拳はわずかにアタシの頬へは届かず、スレスレのところで止まっている。



 ――アタシの拳が先にラルカさんの頬へと突き刺さり、その動きを止めた。それが意味するものは、この決闘の行く末だ。



「見事……としか……言えません……ね……」
「ああ……。アタシの……勝ちだ!!」
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