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武神女帝編

ep437 心強い味方が揃った!

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 時間を稼いでくれていたタケゾーやフェリアさんとも合流。味方になってくれたクジャクのおばちゃんも連れて、アタシ達は元々いたタワーの方へと戻る。
 ラルカさんに牙島、最大の黒幕である天鐘には逃げられ、洗居さんも連れ去られたままだ。だけど、もうそこに手が届くところまでは来ている。
 心強い仲間もできたし、あと一歩なのは事実だよね。



「ハハハ! すまなかったな、フロスト艦橋将! 私も道楽が過ぎたのかもしれぬ!」
「……本当にそー思いますよ。まー、敵の情報があるなら助かります。……その件はもーいいんで、俺様の背中をバンバン叩くのはやめてほしいんですが?」



 作戦総指揮のフロスト博士は大変そうだけど。クジャクのおばちゃん程のお偉いさんとなれば、流石の将軍艦隊ジェネラルフリートボスも対応に困るのか。
 背中をバンバン叩かれながら、嫌そうな気持ちを抑え込みながら反論。その姿、どこか憂いを帯びてる。

 ――ラルカさん達に対しては上司として厳しくも、さらに上がいると中間管理職になっちゃうのか。国が違えど大変そうだ。

「とりあえず、オメーらもよくやってくれたと褒めてやりてーところだ」
「いや、褒めるなら素直に褒めてよくない?」
「まだ最大の問題は解決してねーだろ。俺様だって気は抜きたくねーしな。……ただ、これで天鐘サイドは戦力的にも大打撃か。後注意すべきはラルカと牙島ぐれーしかいねーな。コメットノアについても、クジャク様のおかげで潜伏場所は割り出せそーだ」

 それはさておき、フロスト博士も今後の展開が第一なご様子。アタシだって早く洗居さんを助け出したいし、そこについては賛成だ。
 クジャクのおばちゃんのおかげでこちらも大きく動けるらしく、フロスト博士も色々と話を始めてくれる。

「現在、天鐘一派が潜伏してる空中戦艦コメットノアは、ウォリアール東部沿岸に待機してるみてーだな。向こうも今頃、クジャク様の離反で荒れてるだろーよ。仕掛けるなら早い方がいい。本日未明、午前一時を過ぎた頃にこっちも打って出るか」
「早い判断はありがたいけど、急ピッチ過ぎない? 敵の戦力規模とかは大丈夫?」
「天鐘に味方してる権力者や軍人は、ほぼ全員コメットノアに搭乗してることはこっちの調べで判明してる。一網打尽で叩くならまたとないチャンスだ。突入作戦については……また後で話す」
「なんだか微妙なところでぼかすねぇ……。でもまあ、作戦があるならそれでいいや。そいじゃ、今のうちに休んでおきますか」

 こっちもこっちで急な話になってけど、機を逃さないためにはそれぐらい必要ってことか。
 このままだと、全部終わるのは夜明けになっちゃうかも。お昼の間に寝ておいてよかった。
 体力的に問題ないとはいえ、後は無駄に浪費せずに時を待つだけか。

「オメーらも疲れてんだろ。今はとにかく休んでろ。フェリア様も慣れない戦闘をしたわけでしょーからね」
「ああ、そうだな。ここまで実戦に踏み込んだのは初めてか。……フロスト。お前の手腕にだって期待してるぞ」
「フロスト艦橋将も責任重大だな。ある意味、ウォリアールの将来はその方の手に握られているか」
「……へーへー、言いたいことだけ言ったら、おとなしく下がってくだせーな。俺様にはまだやることもありますもんで」

 そんな中でも、フロスト博士だけは大変そうだ。でも、今はこの人がこっちサイドの総指揮だからね。
 プレッシャーも凄そうだけど、実際に一番戦局を理解できる人だ。とりあえずはこっちもおとなしく引っ込み、負担を減らすことにしよう。
 アタシ達も部屋に戻って、時が来るまではおとなしく待機だ。





「――で、その時のキーホルダーは今もアタシ達家族の証なわけよ。クジャクのおばちゃんも持ってるよね?」
「ああ、もちろんだ。それにしても、買った時にそのような逸話があったとはな」
「……当たり前のようにクジャクさんが俺と隼の宿泊部屋に待機してる。まあ、別にいいんだけど……」

 てなわけで、アタシはしばらくの間クジャクのおばちゃんとの会話タイムにしよう。屋上で戦った後は長々とできなかったからね。
 クジャクのおばちゃんも持ってる空色のキーホルダーを見せ合いっこしながら、ちょいとした憩いのひと時だ。
 タケゾーも一緒で少し呆れ顔をされちゃうけど、アタシとしても二十年間触れ合えなかった分を取り返したいのよ。そこが分かってるからか、邪険にされることもない。

 ――すまぬ、タケゾー。新婚旅行とはいえ、やっぱずっとできなかった叔母さんと姪っ子の交流もしたいんだ。

「あっ、そうだ。アタシ達、日本に帰ったら結婚式を挙げるつもりなのよね。クジャクのおばちゃんも来れる?」
「ああ、もちろんだ。無理に予定を空けてでも出席しようぞ」
「それはありがたいんだけど、前みたいに急に来日とかはしないでね? あの時みたいに、ラルカさんや牙島が――あっ」

 予定している結婚式の話も出てくるんだけど、その最中に自らが口にした言葉でハッとしてしまう。
 せっかく楽しく話ができたのに、あの二人の裏切ったショックが蘇ってしまう。特にラルカさん。
 牙島はその性格から、やっぱ『天鐘についた方が戦う機会が増えるから』とかそんな理由だろう。あいつ、戦闘欲求を満たしたがる面が強いし。
 ただ、ラルカさんの方はどうにも納得できない。結局は孤児院で理由になりそうな話を聞けなかったし、本当になんで裏切ったんだろ?
 確かに給料面での不安は述べてたけど、それだけが理由とは思えない。なんだか、もっと深い裏がありそうだ。

 ――母さんの孤児院で育った話を聞くと、尚更あの人のことが気になってしまう。

「……ふむ。隼はあの二人のことが心配と見えるな。いずれにしても、ラルカ右舷将も牙島左舷将も天鐘一派に与したままだ。先のことを考えるためには、あの二人を倒さぬことには始まらない」
「ある意味、あの右舷左舷コンビが天鐘の切り札みたいになってるからね。まあ、アタシも今はクヨクヨするより、絶対に打ち倒す心で挑むさ。……ただ、あの二人ってかなり強いのよね」

 それでもこの騒動において明確な敵である以上、もうアタシが悩むのもやめよう。洗居さんとウォリアールの未来のためにも、あの二人を倒す方法を考える方が建設的だ。
 いくらクジャクのおばちゃんがこっちに味方し、天鐘の護衛だった先代右舷左舷コンビがいなくなったところで、当代右舷左舷コンビの恐ろしさは侮れない。
 一応はこっちにもフレイムやベレゴマといった五艦将の皆さんはいるけど、あの二人には最高幹部としての役割だってある。そうそう全部頼れないよね。

「なあ、隼。仮にラルカさんや牙島との直接対決になった時、何か勝算はあるのか?」
「そこなんだよねぇ……。モデル・パンドラを持ち出しても、まだ一歩及ばない感じか。何かこう……今からでも用意できる新能力とかがあれば……」
「そんな都合のいいものなんてないだろ?」
「あっ! GT細胞のアポカリプスを使って、もう一度クリムゾンウィッチの力を――」
「なあ、流石に怒っていいか?」
「……サーセン」

 仮説としてアタシが戦う場合のシミュレートをしてみるも、これまたいい案が出てこない。
 挙句の果てにはついついクリムゾンウィッチのパワーを使う案なんて出してしまい、タケゾーにガチ目で睨まれてしまう始末。すんません、軽い気持ちだったんです。
 アタシもあの時のことはうろ覚えだけど、確か周辺に超強力磁場を自在に発生させてたんだっけ。
 あの能力って、空間一体を支配してるようなもんだからね。使いこなせればかなり強い。

 ――それができないって話だけどさ。アポカリプスによる脳のリミッター解除&暴走なんてもう御免だ。
 ただ仮説として、クリムゾンウィッチはアタシの『脳機能の拡張』で発現した能力だ。もしもリミッター解除以外の方法でそれができれば、理論としては可能と言える。

「隼が考える心意気は良いものだ。とはいえ、今はフロスト艦橋将を信じよ。かの者はウォリアール国王からも全権を任されるほど、信頼を置ける人材だ」
「そういや、国王様は出てこないんだよね。国家の一大事だけど、フロスト博士で事足りるってことかな?」
「それと、隼やフェリアの存在だな。もしかすると、若き王家の血筋が奮闘する姿を見て、極限まで余計な口は挟まぬつもりかもしれぬぞ」
「今はクジャクのおばちゃんもいてくれるからね」

 まあ、今回はいつものヒーロー活動と違い、国家規模での内戦って感じだ。アタシなんかよりも適任者がいるし、下手に考えすぎるのもよろしくない。
 アタシも王族に戻らないと決めたとはいえ、この騒動の結末自体は最善の形を望む。
 それこそが王家の血を引く者として、最初で最後のお仕事ってことで――



「そういや、フェリアさんはどうしてるんだろ? アタシとあの人って、遠い親戚にはなるんだよね。……気になるし、ちょっと様子見てこよっと」
「まーたどこまでも思い付きで行動に移して……」
「ハハハ! 実に隼らしい!」
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