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もう一つの故郷編

ep398 もっとこの国のことを知ってみよう!

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「よっと。準備はこんなもんかな? 新婚旅行も兼ねてたのに、アタシの都合で時間をもらっちゃってごめんね」
「気にするな。隼が納得する選択ができるなら、俺もそれに越したことはない」
「こっちは適当にあしらっておくから、空鳥は自由にウォリアールを見回ってくるといいさ。まあ、ラルカあたりにはすぐにバレちまいそうだが」

 アタシとタケゾーがベランダで話し合った結果、単身でウォリアール内を視察することとなった。
 王位の話が出てしまった以上、何も知らないまま判断するなんて迂闊すぎる。やっぱこういうのは信頼できるデータを集めないとね。どうせなら自分の目でさ。
 そのためにアタシは空色の魔女へと変身し、ベランダから飛び立つ準備を整えている。
 事情が事情だけにあんまり人に知られて騒がれたくもないし、こっそりお忍びで視察させてもらおう。
 すぐにバレそうだけど、そのあたりもフェリアさんは快く了承してくれる。五艦将クラスの目のないところで色々と見てみたい。

「空鳥さん、何かあったらすぐにお戻りください。あなたが王家の血を引くことは国民にまだ周知されていませんが、一部の人間の耳には入っています。不届きな考えを持つ人間と出くわす可能性も……」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。もしそうなっても、今回の空色の魔女はクールに退散させてもらうよ。それにアタシの目的は視察だからね。そういうのも判断材料にしてみるさ」
「どうか、ご無理だけはなさらぬように……」

 洗居さんはアタシが一人で見知らぬ異国を回ることに不安を覚えているけど、こうでもしないとアタシ自身が納得できない。
 仮に一悶着あったとしても、そこは空色の魔女の力で何とかしてみせる。別にヒーローするためにウォリアールに来たわけじゃないからね。

「そいじゃ、しばしのアディオス! 夜には帰ってくね!」
「思い立ったら動かずにはいられない嫁さんだな。まあ、少しは『らしさ』も戻ってくれたか。こっちのことは気にせず、満足するまで見て回るといいさ」

 デバイスロッドもガジェットから出力し、宙に浮かせて腰かける。見送ってくれるタケゾー達に手を振りながら、アタシはタワー側面を急降下していく。
 ちょっとは動くべき指針が見えたおかげで、アタシも気持ちが持ち直してきた。やっぱ、クヨクヨするのはらしくない。
 眼前に向き合うべき問題があるならば、前向きに挑んでこそのヒーローってもんだ。

 ――違うや。アタシはそもそもこういう人間だったや。
 でもまあ、気持ちの盛り返しは感じられるよね。





「はてさて、とりあえずは市街地っぽいところに出てきたけど、ここからどうしたもんかねぇ……」

 目立たないように素早く飛行し、適当な市街地が見えたところでこっそりと変身解除。空色の魔女の姿のままじゃ人目につき過ぎる。
 できる限り将軍艦隊ジェネラルフリートの邪魔もなく視察したいし、ここから先は一般人のフリをして、何気なく情報収集からしてみましょうか。

「それにしても、ウォリアールって本当にゲームの世界が現代に飛び出したような国だよね。だったら情報収集にしても、ゲームみたく住人から聞いて回るのが一番かな? ちょうど広場っぽいところに人だかりも見えるし」

 方法については深く考えてなかったけど、ここはノリと勢いでどうにかしよう。考えなしに動いちゃうのはアタシの悪い癖とはいえ、考えたところでどうにもならないことの方が多い。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦。出たとこ勝負で話を聞いて回ろう。

「こんちはー。なんだか人が集まってるけど、何の話をしてるのかな?」
「ん? お嬢ちゃん、海外の人か? 珍しいな」
「いや、ちょっとこの国のことで色々話題があってね。かなり内輪な話だが、ウォリアールの将来の話さ」
「ウォリアールの将来……か」

 まずは目についた広場の人だかりにいた一般ウォリアール人男性二名(仮)に声をかけてみる。
 どんな話題かと何気なく尋ねてみたけど、ウォリアールの将来の話とはね。なんだかアタシにダイレクトな話題だ。

 ――まさか、どこからかラルカさんあたりが仕掛け人になってたりしないよね? 思わず警戒して辺りを見回しちゃう。

「あー、もしかしてお嬢ちゃん、どうしてこんな場所でお国の話なんてしてるか気になっちゃった?」
「他所の国では珍しいのかもな。あそこに電光掲示板があるだろう? あそこにはウォリアールにおける最新情勢が掲示されるんだ」
「うひゃー。中々ハイテクな電光掲示板なもんだ。情報量も多いし、ホログラム技術まで使ってるの? 流石はウォリアールの科学力だねぇ」

 結果として警戒する必要はなく、別にラルカさんが陰から覗いてたりもしなかった。
 どうやらこの広場にある電光掲示板にはウォリアールの情勢が映し出されており、リアルタイムで様々な情報を閲覧できるようだ。
 こういうところも掲示板というよくあるファンタジー風世界と近未来化学が融合してるよね。日本でもまだここまでは発展してないや。

 ――あっちならスマホでできちゃうからね。こっちはそういう手段が乏しいのかな? 公共の場の掲示板はこんなにハイテクなのに。

「それにしてもフェリア殿下に婚約者ができたってことは、次期ウォリアールのトップもフェリア様に確定なんだよな? クジャク様はこれをどう捉えてるんだ?」
「分からん。俺もどちらかと言えば『マーシャルクイーン』と称されるクジャク様の血統の方が、ウォリアールの次期トップに相応しいとは思うんだがな」

 掲示板の技術力はさておき、アタシが声をかけた男性二人はさらに気になる話を続けていく。
 洗居さんがフェリアさんと婚約したことは民衆にも周知されているらしく、同時に次期トップの存在についても語り合っている。
 その中にはもう一つの王位継承権を持つクジャクさん――アタシの叔母さんの存在も含めてだ。

「確かにクジャク様はウォリアールにおいても一線を画す実力とカリスマの持ち主だからな。そんなクジャク様の血統ならば、優秀な統治者になるだろうな。ただ、あっちの血統に世継ぎはいないはずだろ?」
「妹であるツバメ様も王族から抜けてるしな。でも、もしもツバメ様に子供がいたならば、その人に王位を継いでもらうことなんてできないか?」
「それができれば面白い話だが、ツバメ様が今どうしてるかも分からないだろ? 仮に子供がいたとしても、いきなりウォリアールの王位なんて継いでくれるものか?」

 アタシは黙って聞くしかないけれど、話の中にはクジャクさんの妹――アタシの母さんでもあるツバメ・スクリードの存在まで出てくる。
 この人達はもしもの話をしてるだけだろうけど、まさか本当にクジャクさんの血統で王位を継げる人間がいるなどとは思うまい。

 ――しかもその人物がこのアタシ自身で、現在進行形で王位のことで悩んでるなんてさ。



「おやおや? これはこれは。またこのような場所でお会いできるとは思いませんでしたよ。……空鳥 隼様」
「……あれ? あんたは星皇カンパニーの……?」



 少し離れたところで聞き耳を立てていると、誰かがアタシに声をかけてきた。
 この声、確か昨日も耳にしたよね。どこか胡散臭さを感じるし、振り向いてみれば同じように両脇に白人と黒人の逞しい軍人を従えている。
 さらに近づいてくると、小声でアタシに何かを耳打ちしてくる。



「このように人目につく場所ではなく、少々こちらでワタシと話をしませんか? ……次期ウォリアールトップには、相応の席を用意したく思います」
「……その口ぶりだと、そっちもアタシの正体は知ってるってことか。星皇カンパニーの天鐘さん」
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