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魔女と街のさらなる日常編

ep358 ちょっとの間になんだか凄いことになっちゃった!

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 それなりの人口とそれなりの施設が整うベッドタウン。近くには山や海といった自然だってある。それがアタシ達の住む街だ。
 ここ最近は落ち着いてるんだけど、ちょっと前までは本当に色々なことが起ってたのよ。

 巨大怪鳥が多大な不幸をバラまいたり、反社組織が暴れまわったり、過去と現在を繋ぐワームホールができたり、大企業の社長に悲劇があったり。
 お国がヒーローを創ろうとしたり、海外の傭兵軍団と戦争になりかけたり、戦艦が空を飛んだり、内閣総理大臣が超マッチョになったり。

 ――とまあ、この辺りのことはこの場でアタシが語る話でもないよね。そもそも語りきれる話じゃないし。
 あっ、気になる人は第一部や第二部を読んでみてね。読み直しもオッケーさ。

「……って、アタシはまたしても誰に何を語ってんだか。こっちはこっちでやることもあるのにね」

 そんな独り言を呟くアタシの名前は空鳥そらとり じゅん。まだまだピチピチの新妻だ。
 職業は清掃用務員。ちょっと前まではエンジニアもしてたんだけど、色々あって手が回んなくなっちゃってね。
 でもまあ、満足のいく日常は送れてるよ。変わらない日常のあがりたさを身をもって実感中だ。

 ――そんなアタシの目下の課題なんだけど、最近はちょいと別件で立て込んでてね。

「うーん、まだ来ないのかな? ちょっとこっちが早かったかな?」

 現在、アタシは一人で自宅工場前である人物を待っている。ちょいと別件で仕事が入って協力してもらってるんだよね。
 腕時計型ガジェットで時間を見ると、もうそろそろの時間なんだけど――



「うおおおぉ!? ト、トラックのブレーキが壊れたぁぁあ!?」
「だ、誰か止めてぇぇえ!?」

「なんでこんなタイミングでブレーキ壊れちゃうの!? ウチの工場に突っ込んできちゃってるじゃんか!?」



 ――なんとその待ってた相手の乗ったトラックが、アタシの方目がけて猛スピードで突っ込んで来た。
 アタシの後ろには自宅の工場だってあるのに、このままじゃ激突ブレイク大惨事だ。
 ここは我が家であると同時に両親の形見でもある。易々と壊されていいものではない。

「まったく! トラックのメンテナンスは定期的にやっといてよね! 変身!」

 そんなわけでお披露目しよう、我が能力。ブローチ片手に言葉を唱えれば、あれよあれよと空色の髪をした魔女の姿に大変身。
 まあ、別にセリフは必要ないし、なんだったら変身しなくても能力は使える。
 だけどもうこの姿が様式美でね。この街ではお約束って奴さ。

 ――これぞ正義のヒーロー、空色の魔女。アタシのもう一つの姿だ。

「ほいほーい! 今停車させますよー……っと!」

 腕時計型ガジェットにデジタル収納していたデバイスロッドも取り出し、宙を舞いながら突っ込んでくるトラックへ両足を突き出す。
 こういう時って『トラックに轢かれて異世界転生&チート能力ゲット』みたいなお約束があるけど、アタシにとってはそんなオカルトを信じる信じない以前の話である。
 心臓が発電機関を担い、全身には電力で強化できる細胞が含まれている。さらには腕時計型ガジェットやデバイスロッドを始めとした自作装備を使えば、現実世界で魔法みたいなことまで再現可能。
 だからこうやってトラックが突っ込んできても、空を飛びながら両足で強制停車可能ってもんだ。
 チートっていうほど絶対的じゃないけど、アタシはオカルトを科学的に再現したヒーローなのさ。


 キキィィィイ……!


「ハァ、ハァ……! た、助かった……。ありがとう、空鳥さん」
「ちょっと、今の彼女は空色の魔女よ? 一応その辺りの分別はわきまえて呼ばなきゃ」
「アタシとしてはどっちでもいいんだけどねぇ。でもまあ、二人が無事で何よりさ」

 トラックも無事に停まり、乗っていた男女二人も顔を見せてくれる。
 この二人はアタシの中学同級生で、インフルエンサーやら配信者やらをしてるカップルだ。といっても、今回はそれとは別件で来てもらったんだけどね。
 彼氏の方がトラックの免許を持ってたから、少し荷物運びをお願いしたのよ。

 以前まではアタシも世間に正体を隠してたけど、今となっては同じ街に住む人間にとっては暗黙の事実というものか。
 むしろうまく正体を明かす結果となって、みんなが協力的になってくれた。今回の運送依頼についてもその一つだ。

「せっかく来たのに、トラックのブレーキが壊れちゃったらなー……。空鳥さん、今から修理業者を呼ぶから待っててもらえる?」
「それだったらアタシが直しておくよ。運転免許は持ってないけど、整備士の資格は持ってるからさ」
「流石は空鳥さん……。工業系に関するとなると強いわね……」
「ニシシ~、そいつはどうも。だから二人はアタシがトラックを修理してる間、目的の品を運び出してくださいな」

 知り合いってことで費用をサービスしてもらってるし、修理ぐらいならアタシがいくらでも請け負う。なんだか久しぶりにエンジニアとしての仕事をしてる感じだ。
 変身も解除したし、トラックの修理についてはアタシでパパッとやっちゃおう。二人には本来のお仕事もあるからね。

「ショーちゃーん! 荷物を持ってきてー!」
「うん。分かった」

 アタシも工場内にいる我が息子に声をかけ、運搬してもらう荷物を持ってきてもらう。
 かなりの量だけど、台車もあるから大丈夫だよね。それにショーちゃんはあの荷物のことを、誰よりも大事に扱うからね。

 ――で、その荷物についてはこの工場で作られた商品とでも言うべきか。いや、機械とかそんなんじゃないんだけど。
 それにどちらかと言えば『収穫した』というものだよね。



「お野菜、豊作だった。ボク、頑張った。出荷、お願い」
「おおぉ! ナスビにキュウリにジャガイモに唐辛子か! 種類も豊富だな!」
「色艶もいいし、これは私達でも紹介したいわね!」



 ショーちゃんがどこか嬉々として台車で運んできたのは、モリモリと積まれた野菜の山だ。これ全部、ウチの工場で収穫したものね。
 種類も量も盛りだくさん。質だって保証できる。アタシも結構頂いたし。
 今回の目的はこれらの野菜をトラックで出荷してもらうことだ。

 ――で、なんでこんな大量の野菜を工場で収穫したかのかって話なんだけど、なんだか予想外なことが起こっちゃってね。
 それを説明するためには少しばかり時間を遡る必要がある。



 ――そう、あれは確か先週の話だった。
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