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VRワールド編
ep266 VRゲームがどこにも売ってない!
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「申し訳ございませんが、あのフルダイブVRゲームは大変ご好評でして、もうすでに予約分も完売で……」
「だ、だよね……。すみません。失礼しました……」
ヒーロー制定法の裏側に潜む、将軍艦隊という他国から来た傭兵軍団の存在。
そのことが気になって調査するための手段として思いついたのが、それらに大きく関わっているフルダイブVRゲームへ潜入するということ。
発案自体は悪くないんだけど、肝心のVRゲームを購入する手段がない。ネットがダメならとアタシも一人で直接店を回って商品を探し求めるも、どの店も当然のごとく完売。
「おのれ、転売ヤー! ああいうのがいるから、アタシみたいな正統派ユーザーが品薄に悩むんじゃないか!」
思わず街中で叫んでしまうが、このままではアタシの華麗なる潜入計画がオジャンになってしまう。
世間じゃもうVRゲーム自体は稼働してる頃なのに、こっちはログインもできやしない。
こんなことなら、アタシももっとヒーロー制定法について真面目に考えておくべきだった。そうすれば、予約をとることだってできたかもしれない。後悔しても遅いけど。
「しっかし、どうしたもんかねぇ? もうVRゲームへの潜入は諦めて、素直に迫って来る脅威にだけ対応するしかないのかねぇ?」
VRゲームをゲットすることができれば、そこから固厳首相やフロスト博士の計画を覗き見ることだってできる。
星皇社長のデッドコピーであるマザーAI、コメットノアで作り出された世界ってのも気になるし、複雑な事情やら何やらを全部含めても、VRゲームから色々と手掛かりは得られるはずだ。
とはいえ、そのVRゲームが超絶品薄状態で入手不能となってる以上、捕らぬ狸の皮算用。事前調査にもってこいと思ったのに、これでは埒が明かない。
転売ヤーの法外な販売価格に手を出すのも無茶な話だし、ここはおとなしくいつも通りにヒーロー活動を続けて――
「そこ行く令嬢殿。よければ、私に道案内をしてくれぬかな?」
「……へ? ア、アタシのこと?」
――などと考えながら街を一人でブラブラしていると、誰かが声をかけてきた。
『令嬢殿』なんて呼ばれたから思わず本当にアタシのことかと疑ったけど、周囲にはアタシ以外の女性などいない。
アタシは令嬢なんてガラじゃないけど、確かに今はお買い物用に着飾ってるからね。そう見えなくもない……のかな?
とりあえずは声のした方向に振り向いてみると、そこにはドレスを着て杖をついたザ・貴婦人とも言うべき女性が立っていた。
青みがかったセミロングヘアをした美人さんだけど、道に迷ったのかな?
「え、えーっと……? アタシに声をかけたので合ってるんだよね?」
「君以外に令嬢殿と呼べる人などいないだろう? 見たところ、君はこの街を歩き慣れていると見た。私には初めての場所ゆえに、少々案内を頼みたい」
「道に迷たってことかい? だったら、近くに交番があるからそこで――」
「いや、私が申し願いたいのは観光案内だ。どうせならこの街に詳しい人間に案内願いたく、君に声をかけたのだ」
「さ、さいですか……」
ドレスに杖という中世的なコーディネートもこの街並みに合ってないけど、偶然出くわしたアタシへの依頼もどこか世間とズレた人だ。
普通、初対面の相手に観光案内とか頼むかね? そういうのはツアー会社とかの専売特許じゃない?
顔立ち的にもどこか海外っぽいような、そうでもないような微妙な感じだし、浮世離れした容姿や態度も含めて、一体何者なんだろうか?
――ただ、この人の顔立ちは誰かに似てるんだよね。それが誰だか思い出せないんだけど。
「まあ、アタシも丁度暇してた感じだし、ここは地元民として案内してあげるよ」
「おお! 助かるぞ、令嬢殿よ!」
「アタシの名前は『空鳥 隼』ね。令嬢殿なんて呼ばれるような大層なご身分でもないさ。お姉さんこそ名前は?」
「私の名か? そうだな……『クジャク』とでも呼んでくれたまえ」
「……それ、絶対偽名だよね? なんだか、アタシもまた面倒事に首を突っ込んじゃったみたいだ……」
軽い気持ちで引き受けた観光案内だけど、どうにもキナ臭さを感じてしまう。
このお姉さん自身は特段怪しい――いや、実際のところは場違いな風貌と態度で怪しいんだけど、なんとなく悪い人には見えない。
それなのに『クジャク』などという偽名を使ってアタシに接してくるあたり、絶対に裏で面倒事が控えている気配がビンビンだ。
少し前に会ったフクロウさんのことを思い出す。
どうにもヒーロー稼業なんてやってるせいか、こういう気配には敏感なってしまったらしい。
むしろ、面倒事が向こうから来てるんじゃない? アタシの磁気能力で面倒事まで引き寄せてない?
「おや? 隼殿は私の案内が面倒か? そうであるならば、こちらも無理強いをするつもりはないぞ?」
「ああ、いや。アタシにも色々と事情があるもんでさ。気を悪くしないでね。アタシも一度引き受けた以上、キッチリと観光案内してあげるさ」
「ハハハッ! 麗しい見た目に似合わず、中々寛容で豪気な令嬢であったか! では、私もお言葉に甘えるとしよう」
「ご、豪気って……。クジャクさんには言われたくないかな……」
初対面のアタシに対しても馴れ馴れしいクジャクさんに気圧されちゃうけど、アタシも一度口にしたことはしっかり全うしたい。
もうすでに気疲れしてるけど、本当に何者なんだろうね? まあ、偽名を使ってる時点で教えてくれる気配はゼロだけどね。
「それで? どんなところを観光したいわけさ?」
「この地の庶民の生活を垣間見たい。そのような場所に心当たりはないかね?」
「庶民の生活って……まるで貴族みたいな物言いをするもんだ。まあ、それならショッピングモールにでも行くとしますかねぇ」
そんなこんなで突如として始まってしまった、謎の貴族風なお姉さんの観光案内。
アタシはVRゲームを探しに来ただけなんだけどね。まあ、面倒事に巻き込まれるのはヒーロー活動で慣れている。
本日は今のところ平和だし、VRゲームゲット計画も鎮座してしまったのだから、たまには案内ついでに街を歩いて見て歩くのも悪くはないか。
とりあえずショッピングモールはすぐ近くだし、まずはそこまで歩いて――
「おお、隼殿! あそこに見えるのは、もしや『コンビニエンスストア』というものではないか? 少々、私も立ち入りたく思う」
「コ、コンビニにここまで興味津々な人、アタシも初めて見たや……」
――いく途中でも、クジャクさんはどこか浮世離れした態度をとってくる。
ただの観光案内と思って引き受けたけど、これは想像以上に骨が折れそうだ。
「だ、だよね……。すみません。失礼しました……」
ヒーロー制定法の裏側に潜む、将軍艦隊という他国から来た傭兵軍団の存在。
そのことが気になって調査するための手段として思いついたのが、それらに大きく関わっているフルダイブVRゲームへ潜入するということ。
発案自体は悪くないんだけど、肝心のVRゲームを購入する手段がない。ネットがダメならとアタシも一人で直接店を回って商品を探し求めるも、どの店も当然のごとく完売。
「おのれ、転売ヤー! ああいうのがいるから、アタシみたいな正統派ユーザーが品薄に悩むんじゃないか!」
思わず街中で叫んでしまうが、このままではアタシの華麗なる潜入計画がオジャンになってしまう。
世間じゃもうVRゲーム自体は稼働してる頃なのに、こっちはログインもできやしない。
こんなことなら、アタシももっとヒーロー制定法について真面目に考えておくべきだった。そうすれば、予約をとることだってできたかもしれない。後悔しても遅いけど。
「しっかし、どうしたもんかねぇ? もうVRゲームへの潜入は諦めて、素直に迫って来る脅威にだけ対応するしかないのかねぇ?」
VRゲームをゲットすることができれば、そこから固厳首相やフロスト博士の計画を覗き見ることだってできる。
星皇社長のデッドコピーであるマザーAI、コメットノアで作り出された世界ってのも気になるし、複雑な事情やら何やらを全部含めても、VRゲームから色々と手掛かりは得られるはずだ。
とはいえ、そのVRゲームが超絶品薄状態で入手不能となってる以上、捕らぬ狸の皮算用。事前調査にもってこいと思ったのに、これでは埒が明かない。
転売ヤーの法外な販売価格に手を出すのも無茶な話だし、ここはおとなしくいつも通りにヒーロー活動を続けて――
「そこ行く令嬢殿。よければ、私に道案内をしてくれぬかな?」
「……へ? ア、アタシのこと?」
――などと考えながら街を一人でブラブラしていると、誰かが声をかけてきた。
『令嬢殿』なんて呼ばれたから思わず本当にアタシのことかと疑ったけど、周囲にはアタシ以外の女性などいない。
アタシは令嬢なんてガラじゃないけど、確かに今はお買い物用に着飾ってるからね。そう見えなくもない……のかな?
とりあえずは声のした方向に振り向いてみると、そこにはドレスを着て杖をついたザ・貴婦人とも言うべき女性が立っていた。
青みがかったセミロングヘアをした美人さんだけど、道に迷ったのかな?
「え、えーっと……? アタシに声をかけたので合ってるんだよね?」
「君以外に令嬢殿と呼べる人などいないだろう? 見たところ、君はこの街を歩き慣れていると見た。私には初めての場所ゆえに、少々案内を頼みたい」
「道に迷たってことかい? だったら、近くに交番があるからそこで――」
「いや、私が申し願いたいのは観光案内だ。どうせならこの街に詳しい人間に案内願いたく、君に声をかけたのだ」
「さ、さいですか……」
ドレスに杖という中世的なコーディネートもこの街並みに合ってないけど、偶然出くわしたアタシへの依頼もどこか世間とズレた人だ。
普通、初対面の相手に観光案内とか頼むかね? そういうのはツアー会社とかの専売特許じゃない?
顔立ち的にもどこか海外っぽいような、そうでもないような微妙な感じだし、浮世離れした容姿や態度も含めて、一体何者なんだろうか?
――ただ、この人の顔立ちは誰かに似てるんだよね。それが誰だか思い出せないんだけど。
「まあ、アタシも丁度暇してた感じだし、ここは地元民として案内してあげるよ」
「おお! 助かるぞ、令嬢殿よ!」
「アタシの名前は『空鳥 隼』ね。令嬢殿なんて呼ばれるような大層なご身分でもないさ。お姉さんこそ名前は?」
「私の名か? そうだな……『クジャク』とでも呼んでくれたまえ」
「……それ、絶対偽名だよね? なんだか、アタシもまた面倒事に首を突っ込んじゃったみたいだ……」
軽い気持ちで引き受けた観光案内だけど、どうにもキナ臭さを感じてしまう。
このお姉さん自身は特段怪しい――いや、実際のところは場違いな風貌と態度で怪しいんだけど、なんとなく悪い人には見えない。
それなのに『クジャク』などという偽名を使ってアタシに接してくるあたり、絶対に裏で面倒事が控えている気配がビンビンだ。
少し前に会ったフクロウさんのことを思い出す。
どうにもヒーロー稼業なんてやってるせいか、こういう気配には敏感なってしまったらしい。
むしろ、面倒事が向こうから来てるんじゃない? アタシの磁気能力で面倒事まで引き寄せてない?
「おや? 隼殿は私の案内が面倒か? そうであるならば、こちらも無理強いをするつもりはないぞ?」
「ああ、いや。アタシにも色々と事情があるもんでさ。気を悪くしないでね。アタシも一度引き受けた以上、キッチリと観光案内してあげるさ」
「ハハハッ! 麗しい見た目に似合わず、中々寛容で豪気な令嬢であったか! では、私もお言葉に甘えるとしよう」
「ご、豪気って……。クジャクさんには言われたくないかな……」
初対面のアタシに対しても馴れ馴れしいクジャクさんに気圧されちゃうけど、アタシも一度口にしたことはしっかり全うしたい。
もうすでに気疲れしてるけど、本当に何者なんだろうね? まあ、偽名を使ってる時点で教えてくれる気配はゼロだけどね。
「それで? どんなところを観光したいわけさ?」
「この地の庶民の生活を垣間見たい。そのような場所に心当たりはないかね?」
「庶民の生活って……まるで貴族みたいな物言いをするもんだ。まあ、それならショッピングモールにでも行くとしますかねぇ」
そんなこんなで突如として始まってしまった、謎の貴族風なお姉さんの観光案内。
アタシはVRゲームを探しに来ただけなんだけどね。まあ、面倒事に巻き込まれるのはヒーロー活動で慣れている。
本日は今のところ平和だし、VRゲームゲット計画も鎮座してしまったのだから、たまには案内ついでに街を歩いて見て歩くのも悪くはないか。
とりあえずショッピングモールはすぐ近くだし、まずはそこまで歩いて――
「おお、隼殿! あそこに見えるのは、もしや『コンビニエンスストア』というものではないか? 少々、私も立ち入りたく思う」
「コ、コンビニにここまで興味津々な人、アタシも初めて見たや……」
――いく途中でも、クジャクさんはどこか浮世離れした態度をとってくる。
ただの観光案内と思って引き受けたけど、これは想像以上に骨が折れそうだ。
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