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新世代ヒーロー編
ep257 あの人の知能はまだ残っていた。
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「コメットノア……? 星皇社長のデッドコピーってことは――」
「ネーちゃんなら察しが付くだろーが、そのマザーAIは『星皇社長の知能を模範した人工知能』ってーところだ」
フロスト博士から聞かされた、フルダイブVRシステムを作るための開発環境。それはアタシもよく知り尊敬していた人の忘れ形見とも言うべきもの。
コメットノアと呼ばれるマザーAIには、星皇社長の知識そのものが詰め込まれている。
いや、そんな簡単な話でも終わらない。人工知能を搭載しているのだから、ただデータが詰まった箱というわけでもない。
あのスパコン自体が星皇社長と同じように考え、同じように結論を導き出す力を持っている。
――まさしく、いなくなった星皇社長に代わるデッドコピーだ。
「このコメットノアを星皇カンパニーから借りれたおかげで、大規模なフルダイブVRシステムだろーが構築できる。星皇社長の頭脳そのものがあるどころか、大量のスパコンによる分散コンピューティングで演算速度も桁がちげーからな」
「VRゲーム内の世界も広大なものになるだろうし、そうなってくると必要なのは『世界そのものの構築と演算』だからねぇ……。星皇社長クラスの頭脳とそれを拡張する演算機能があってこそ可能な話か」
「クーカカカ。本当に察しのいーネーちゃんだぜ。膨大なシステムの構築には、それ相応の膨大な開発環境が必要だ。コメットノアならば、それらの条件もクリアできるってーことだ」
そんなとんでもマザーAIがあるからこそ、フルダイブVRゲームの構築もその環境でのフィードバックシステムも搭載できた。
難しい話だけど、その難しい話を解決できる手段がここにある。どこか夢物語に思えたヒーロー育成計画についても、現実味を帯びてきたもんだ。
「まー、このVRゲームを全員がプレイしたからって、その全員がヒーローになれるわけじゃーねー。フィードバックによる適正も含めて、ゲームという形で一般に普及させることで、より多くの人間を参照できるってーわけだ」
「そこの大規模な参照と選定についても、コメットノアなんていう超性能マザーAIがあってこそだろうね。……そんで、そうやってヒーローとしての資質をVRで見抜いた後、どうやってそれを現実の力にするつもりさ? 仮想現実で強くなったところで、本当の現実でそうはいかないでしょ?」
フロスト博士が主導の下、どうやってフルダイブVRシステムの構築と運営を行うかは見えてきた。だけど、それは目的のための手段に過ぎない。
こうなってくると余計に気になるのが、そのVRシステムの中で得た経験をどうやって現実の力にするのかということだ。
あの新人三人組を見る限り、ジェットアーマーのようなパワードスーツを装備しているわけではない。もっと根本的な部分からのパワーアップを図っていると見える。
「……その辺りはあんまり迂闊に話せる話でもねーが、ネーちゃんには特別に話してやってもいーかもな」
「へ? それってどういうことさ?」
「まー、まずは話を聞くこったな。……俺様がここまで話をしてくれるなんて、かーなーりー、珍しい話だぜ? クーカカカ!」
そんなパワーアップ部分については語ってくれるか微妙だったけど、フロスト博士は何かを含むような笑みを浮かべながらも口を開いてくれる。
どうにも、アタシの中の第六感が警鐘を鳴らし始める。マッドサイエンティストなんて呼ばれるだけのことはある。
――この感覚、ヴィランを相手にしている時に近い。
「VRゲームでフィートバックしたデータを元に、ヒーローとしての適性があったプレイヤーには強化細胞やナノマシンといったサイボーグ技術を埋め込み、フィードバック結果と同じよーに動ける身体機能を搭載する。そーすることで、あれよあれよとスーパーヒーローの完成ってーわけだ。政府が公表してる三人についてはその技術を用いたプロトタイプってーところだ」
「……簡単に言ってくれるけどさ、その技術って相当危ないもんじゃないかい? 流石は軍事工学の権威だと関心はするけど、一歩間違えればヒーローじゃなくてヴィランの誕生にも繋がるでしょ?」
内心恐れながらもフロスト博士の話を耳にすると、実際に現実的な力に繋げる技術も確かに確立しているのは分かる。
強化細胞やナノマシンといったサイボーグ技術についても、アタシには覚えがある。だけど、あれらは元々ヴィランが持っていた力だ。
デザイアガルダやバーサクリザードがその身に宿していた、ヒトゲノムを解明した果てにあるGT細胞。
ターニングベヒモスが時間逆行のために使っていた、体内埋め込み式のナノマシン。
確かにあれらの力を応用すれば、VRでの体験を現実として使える技術にもできる。
それでも、その先に待つ結果は『力を手に入れること』でしかなく『ヒーローの誕生』とは限らない。そもそも、それらの技術を人間に埋め込んで安全かも確証がない。
アタシとしては過去にヴィランとの戦いの記憶がある分、余計にその辺りが気になってしまうというか――
「……クーカカカ。成程なー。確かにネーちゃんなら、まず真っ先にヴィランの脅威を感じるってーのも無難な話か」
「え……? い、いきなり何の話さ?」
――アタシがそうして不安を抱いていると、フロスト博士はまたしても不気味に笑いながら奇妙なことを述べ始める。
アタシの不安に理解を示しているようには見えるけど、話している言葉自体がおかしい。
「ネーちゃんも察してるだろーが、実際に対象に埋め込むことになるGT細胞にナノマシンには、常人なら得ることのできねー身体能力や超能力みてーな力が備え付けられる。これらの技術については俺様も安定した搭載ができるから、いきなり対象が狂ったりなんてーことはない。まずそこは安心するといーなー」
思わず動揺するアタシなど意に介さないとばかりに、フロスト博士は技術の説明を続けてくる。
その話を聞く限り、アタシも危惧する悪影響などについてもまずは問題ないと語ってくれる。
それはそれでありがたい話なんだけど、さっきからフロスト博士が語る話はまるでアタシの胸の内を読み取っているように聞こえてくる。
――いや、正確にはそれどころか『アタシの正体を知っている』ようにしか聞こえない。
「……あんた、アタシの正体に気付いてるでしょ?」
「クーカカ? ネーちゃんの正体か? そりゃまー、俺様もここでヒーロープロジェクトの総主任なんてやってるわけだし、知っててもおかしくはねーだろ?」
「まあ、確かにそうかもしんないね。……だけど、アタシには何か引っかかるものがあるのさ。GT細胞やナノマシンの技術についてもそこまで自信があるなんて、ただのマッドサイエンティストでもないんじゃない? 本当はもっと『アタシにとっても重大な何か』を隠してたりしないかい?」
「……ラルカや牙島の報告では、ネーちゃんよりもその旦那の方がこーゆー推理の担当だと聞ーてたが、技術的な話が絡むと本当に察しがいーな」
思い切って尋ねてみると、フロスト博士もどこか観念したような態度をとってくる。
この人はアタシが空色の魔女だということに気付いている。それだけならば星皇カンパニーを調べることで気付いたと理解できるけど、おそらくこの人はそれで知ったのではない。
もっと別のルートで――アタシとも因縁深い組織を経由して、アタシの正体を見破ったような発言だ。
――てか、今さっき思いっきり『ラルカや牙島』って言ったよね?
「……悪いんだけど、あんたの正体を教えてくんないかな? ヒーロープロジェクトの主任なんていう、表向きの肩書じゃなくてさ」
アタシの直感が正しければ、フロスト博士にはまだ別の顔がある。
タケゾーみたいに余計な駆け引きなんてアタシには無理だ。だったら、率直にその正体を尋ねるまでだ。
――おそらくはこの人もまた、あのヴィラン二人と同じ立場の人物に違いない。
「……だったら、望み通りに答えてやるよ。俺様こそが将軍艦隊の五艦将が最後の一人、艦橋将にしてボス……フロスト・エアロ様だぁあ! クーカカカ!」
「ネーちゃんなら察しが付くだろーが、そのマザーAIは『星皇社長の知能を模範した人工知能』ってーところだ」
フロスト博士から聞かされた、フルダイブVRシステムを作るための開発環境。それはアタシもよく知り尊敬していた人の忘れ形見とも言うべきもの。
コメットノアと呼ばれるマザーAIには、星皇社長の知識そのものが詰め込まれている。
いや、そんな簡単な話でも終わらない。人工知能を搭載しているのだから、ただデータが詰まった箱というわけでもない。
あのスパコン自体が星皇社長と同じように考え、同じように結論を導き出す力を持っている。
――まさしく、いなくなった星皇社長に代わるデッドコピーだ。
「このコメットノアを星皇カンパニーから借りれたおかげで、大規模なフルダイブVRシステムだろーが構築できる。星皇社長の頭脳そのものがあるどころか、大量のスパコンによる分散コンピューティングで演算速度も桁がちげーからな」
「VRゲーム内の世界も広大なものになるだろうし、そうなってくると必要なのは『世界そのものの構築と演算』だからねぇ……。星皇社長クラスの頭脳とそれを拡張する演算機能があってこそ可能な話か」
「クーカカカ。本当に察しのいーネーちゃんだぜ。膨大なシステムの構築には、それ相応の膨大な開発環境が必要だ。コメットノアならば、それらの条件もクリアできるってーことだ」
そんなとんでもマザーAIがあるからこそ、フルダイブVRゲームの構築もその環境でのフィードバックシステムも搭載できた。
難しい話だけど、その難しい話を解決できる手段がここにある。どこか夢物語に思えたヒーロー育成計画についても、現実味を帯びてきたもんだ。
「まー、このVRゲームを全員がプレイしたからって、その全員がヒーローになれるわけじゃーねー。フィードバックによる適正も含めて、ゲームという形で一般に普及させることで、より多くの人間を参照できるってーわけだ」
「そこの大規模な参照と選定についても、コメットノアなんていう超性能マザーAIがあってこそだろうね。……そんで、そうやってヒーローとしての資質をVRで見抜いた後、どうやってそれを現実の力にするつもりさ? 仮想現実で強くなったところで、本当の現実でそうはいかないでしょ?」
フロスト博士が主導の下、どうやってフルダイブVRシステムの構築と運営を行うかは見えてきた。だけど、それは目的のための手段に過ぎない。
こうなってくると余計に気になるのが、そのVRシステムの中で得た経験をどうやって現実の力にするのかということだ。
あの新人三人組を見る限り、ジェットアーマーのようなパワードスーツを装備しているわけではない。もっと根本的な部分からのパワーアップを図っていると見える。
「……その辺りはあんまり迂闊に話せる話でもねーが、ネーちゃんには特別に話してやってもいーかもな」
「へ? それってどういうことさ?」
「まー、まずは話を聞くこったな。……俺様がここまで話をしてくれるなんて、かーなーりー、珍しい話だぜ? クーカカカ!」
そんなパワーアップ部分については語ってくれるか微妙だったけど、フロスト博士は何かを含むような笑みを浮かべながらも口を開いてくれる。
どうにも、アタシの中の第六感が警鐘を鳴らし始める。マッドサイエンティストなんて呼ばれるだけのことはある。
――この感覚、ヴィランを相手にしている時に近い。
「VRゲームでフィートバックしたデータを元に、ヒーローとしての適性があったプレイヤーには強化細胞やナノマシンといったサイボーグ技術を埋め込み、フィードバック結果と同じよーに動ける身体機能を搭載する。そーすることで、あれよあれよとスーパーヒーローの完成ってーわけだ。政府が公表してる三人についてはその技術を用いたプロトタイプってーところだ」
「……簡単に言ってくれるけどさ、その技術って相当危ないもんじゃないかい? 流石は軍事工学の権威だと関心はするけど、一歩間違えればヒーローじゃなくてヴィランの誕生にも繋がるでしょ?」
内心恐れながらもフロスト博士の話を耳にすると、実際に現実的な力に繋げる技術も確かに確立しているのは分かる。
強化細胞やナノマシンといったサイボーグ技術についても、アタシには覚えがある。だけど、あれらは元々ヴィランが持っていた力だ。
デザイアガルダやバーサクリザードがその身に宿していた、ヒトゲノムを解明した果てにあるGT細胞。
ターニングベヒモスが時間逆行のために使っていた、体内埋め込み式のナノマシン。
確かにあれらの力を応用すれば、VRでの体験を現実として使える技術にもできる。
それでも、その先に待つ結果は『力を手に入れること』でしかなく『ヒーローの誕生』とは限らない。そもそも、それらの技術を人間に埋め込んで安全かも確証がない。
アタシとしては過去にヴィランとの戦いの記憶がある分、余計にその辺りが気になってしまうというか――
「……クーカカカ。成程なー。確かにネーちゃんなら、まず真っ先にヴィランの脅威を感じるってーのも無難な話か」
「え……? い、いきなり何の話さ?」
――アタシがそうして不安を抱いていると、フロスト博士はまたしても不気味に笑いながら奇妙なことを述べ始める。
アタシの不安に理解を示しているようには見えるけど、話している言葉自体がおかしい。
「ネーちゃんも察してるだろーが、実際に対象に埋め込むことになるGT細胞にナノマシンには、常人なら得ることのできねー身体能力や超能力みてーな力が備え付けられる。これらの技術については俺様も安定した搭載ができるから、いきなり対象が狂ったりなんてーことはない。まずそこは安心するといーなー」
思わず動揺するアタシなど意に介さないとばかりに、フロスト博士は技術の説明を続けてくる。
その話を聞く限り、アタシも危惧する悪影響などについてもまずは問題ないと語ってくれる。
それはそれでありがたい話なんだけど、さっきからフロスト博士が語る話はまるでアタシの胸の内を読み取っているように聞こえてくる。
――いや、正確にはそれどころか『アタシの正体を知っている』ようにしか聞こえない。
「……あんた、アタシの正体に気付いてるでしょ?」
「クーカカ? ネーちゃんの正体か? そりゃまー、俺様もここでヒーロープロジェクトの総主任なんてやってるわけだし、知っててもおかしくはねーだろ?」
「まあ、確かにそうかもしんないね。……だけど、アタシには何か引っかかるものがあるのさ。GT細胞やナノマシンの技術についてもそこまで自信があるなんて、ただのマッドサイエンティストでもないんじゃない? 本当はもっと『アタシにとっても重大な何か』を隠してたりしないかい?」
「……ラルカや牙島の報告では、ネーちゃんよりもその旦那の方がこーゆー推理の担当だと聞ーてたが、技術的な話が絡むと本当に察しがいーな」
思い切って尋ねてみると、フロスト博士もどこか観念したような態度をとってくる。
この人はアタシが空色の魔女だということに気付いている。それだけならば星皇カンパニーを調べることで気付いたと理解できるけど、おそらくこの人はそれで知ったのではない。
もっと別のルートで――アタシとも因縁深い組織を経由して、アタシの正体を見破ったような発言だ。
――てか、今さっき思いっきり『ラルカや牙島』って言ったよね?
「……悪いんだけど、あんたの正体を教えてくんないかな? ヒーロープロジェクトの主任なんていう、表向きの肩書じゃなくてさ」
アタシの直感が正しければ、フロスト博士にはまだ別の顔がある。
タケゾーみたいに余計な駆け引きなんてアタシには無理だ。だったら、率直にその正体を尋ねるまでだ。
――おそらくはこの人もまた、あのヴィラン二人と同じ立場の人物に違いない。
「……だったら、望み通りに答えてやるよ。俺様こそが将軍艦隊の五艦将が最後の一人、艦橋将にしてボス……フロスト・エアロ様だぁあ! クーカカカ!」
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