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魔女と家族の新たな日常編
ep233 アタシは捨てられた憐れな女さ……。
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「……ここで見たことは、アタシも帰ってからタケゾーに問い詰めるとするかねぇ……」
もう完全にタケゾーとフェリアさんの交際は確定。アタシももうじき、タケゾーに離婚話を切り出されるのだろう。
ならばいっそアタシがここで中に突撃してもいいんだけど、そこまでする気力がアタシには残っていない。
涙が止まらず、心も完全に折れてしまった。今は傍にいてくれるショーちゃんだけが、アタシにとって唯一の心の支えだ。
――ここまで裏切られたのに、アタシはタケゾーとフェリアさんの仲を引き裂こうとは思えない。
むしろ、タケゾーが本気で選んだ相手ならば、アタシはその背中を押してあげたい。相手がフェリアさんのような素晴らしい女性なら尚更だ。
本当にアタシって弱い女だとつくづく思う。自分を裏切った相手のことを、今でも心のどこかで愛してしまう。
これが依存症という奴なのかもね。でもまあ、自分に嘘はつけないや。
――アタシはただ涙を呑めばいい。
「洗居さんにどう説明しよっかなぁ……。そこだけはきちんと考えないとねぇ……」
「ねえ、隼さん。多分、物凄い勘違いをしてると思う。ボク、ちょっと中にいる武蔵さんに話聞いてくる」
「ダメだよ、ショーちゃん……。今は二人の時間なんだ……。アタシ達が邪魔しちゃいけないよ……」
アタシはその場を立ち去ろうとするけど、ショーちゃんは袖を引っ張って止めてくる。
話を聞くも何も、もしかしたらこれからタケゾーとフェリアさんはお楽しみの営みタイムかもしれないんだ。
そんな場所に捨てられた女がどの面下げて乗り込むんだい? 生憎、アタシにはそこまでの根性はない。
――世間じゃ正義のヒーローでも、一皮むけばただの憐れな末路を辿った女さ。
ヤバい。涙が止まらない。
今はとにかく、この場所から早々に立ち去って――
ガシャァァアアン!!
「え!? え!? な、何事!?」
――と思って教会に背中を向けたタイミングで、突如中から響き渡る物々しい物音。
まさか、そんなに激しい営みタイムをしてるってこと? それはいくらなんでも激しすぎじゃない?
そう思ってたんだけど、再度窓に映る二人の影に目を向けてみると――
「あ、あれってもしかして、タケゾーとフェリアさんが揉めてる!?」
――さっきまで仲良さげに手を取り合っていた二つの人影が、胸倉を掴むように揉め合っていた。動きもかなり激しいし、これはもうプレイとかじゃなくて喧嘩だろう。
これって、どういう展開? アタシにも全然分かんないんだけど?
「そもそも、武蔵さんはいつでも隼さん一筋。不倫とかありえない」
「だ、だったら、今の中の状況はどういうことさ!? なんで二人が喧嘩してるのさ!?」
「それは分からない。でも、隼さんのそもそもの考えが違う気が――」
「ハッ!? ま、まさか……!?」
ショーちゃんの慰めが再び耳に入るが、その途中でアタシはさらなる仮説に辿り着いてしまった。
こういう極限状態だからこそなのか、アタシの女の勘はビンビンに働いてくれる。
だが、もしもその通りだとしたら――
〇===
「ダ、ダメだ! やっぱり、俺には隼とショーちゃんを裏切ることなんて……!」
「え~? 今更になって~、私との関係を~、取り消すのですか~?」
「だ、だが……! くっそ! こうなったら……!」
「ふんぎゅ~!? む、武蔵さん~……!? ど、どうして私の首を~……!?」
「お、お前さえいなければ……! お前さえ……!」
===〇
――という、昼ドラも真っ青な泥沼展開が繰り広げられているんだ。間違いない。
今日のアタシは本当に冴えてる。だけど、この事実が分かったのならば、もうアタシのやることは決まった。
――アタシは正義のヒーロー、空色の魔女。人の命を守り、人の日常を守る者。
タケゾーに人殺しなんてさせない。フェリアさんも死なせはしない。
「ショーちゃん! ここで待ってて! アタシ、タケゾーを止めてくる!!」
「隼さん。お願いだから、一度ボクの話をしっかり――もういいや」
なんだかショーちゃんに妙なことを言われた気もしたけど、こうなってくるとアタシも気弱でなんていられない。
中の状況はそれこそ、スリルでショックなサスペンス現場。ショーちゃんに見せるわけにはいかない。
アタシは助走をつけて窓へと飛び込み、この悲劇を食い止めにかかる。
パリィィィイイン!!
「タケゾー! やめて! アタシのことで争うぐらいなら、捨ててくれても構わないからぁぁああ!!」
教会の中へ飛び込むと、アタシは目を瞑って涙を堪えながらも、必死にその想いを叫んだ。
それ以外の方法なんて思いつかない。アタシはただ、二人に傷ついて欲しくないだけだ。
前もよく見ず、状況も確認しないままに声を張り上げたのだが――
「おいこらぁあ! フェリアァアア!! 隼の胸の方が魅力的に決まってんだろぉおお!?」
「ああぁ!? やるってんのかぁ!? 赤原ぁああ!! デカけりゃいいってもんじゃねえだろ!? 栗阿のサイズが丁度いいに決まってんだろがぁああ!?」
「いい加減にしろよ……! 人の嫁の胸を治療の時に見ておいて、その言い草はなんだぁぁああ!? 第一、隼の胸はただデカいってだけじゃない!! 形だって、絶対に隼の方が上だぁぁああ!!」
「舐めてんのかぁぁあ!? そこのバランスも含めて、栗阿の方が上に決まってんだろがぁぁああ!!」
――耳に入ってくる声を聴くと、なんだかアタシの想像と違う状況な気がしてくる。
恐る恐る目を開けてみるが、確かにタケゾーとフェリアさんは取っ組み合いの喧嘩をしていた。まあ、そこは一応予想通りだ。
だけど、それ以外は全然予想と違う。
別にタケゾーがフェリアさんを押し倒して首を絞めてるようなことはなく、どちらかというとタケゾーの方が押されている。
てか、二人揃って激しく揉み合ったせいか、お互いに服がはだけまくっている。ほぼほぼ上半身裸といった様子だ。
こうして見てみると、タケゾーって中々セクシーな肉体をしてるもんだ。バランスよく筋肉も付いているのに、どこか女性的にも見えるアンバランスさが実にいい。
――いやまあ、タケゾーの美ボディー談義も今は後だ。それよりももっと注目すべき部分がある。
タケゾーの肉体は確かに男性と分かる。女性的に見えても、確かに男性のものだ。
対するフェリアさんの方なのだが、こっちは本来なら女性的であるはずだよね? でも、何かがおかしい。
さっきタケゾーと胸がどうのこうので言い争ってた時の声もおかしかったけど、フェリアさんの上半身もタケゾーに近い。
女性的に見えて、しっかり男性と分かる魅惑的なボディー。うん、やっぱりおかしいよね。
「あ、あのー……お二人とも? ちょーっといいかな?」
「だ、誰だ!? ……って、隼!?」
「ああぁ!? 今はこの赤原と――って!? え、ええぇ!? な、なんでこいつがここに!?」
思わずアタシの頭も硬直してしまったが、少しずつ熱が引きながら質問するぐらいには回復してくれる。
どうにも申し訳ない気分がこみ上げてくるけど、やっぱりフェリアさんの声がいつもと違う。どう聞いても男性のものだ。
これって、まさかとは思うけど――
「フェ、フェリアさんって……実は男だったの……?」
「あ……あぁ……あああああぁあ!!??」
「お、おい!? フェリア!? 落ち着けって!?」
――やっぱり、そういうことだったらしい。いや、どういうことだったんだろう?
フェリアさんは羞恥心からか絶叫し、まともに話ができそうな状況ではなくなってしまったし。
一応の真実には辿り着いた感じだけど、間がすっぽ抜けてて、アタシには何が何だか分からない。
「……タケゾー。悪いんだけど、まず最初に説明してもらえる?」
「……分かった。ただ、このことは他言無用で頼む。特に洗居さんには」
「うん。なんとなくそうした方がいい気はしてる」
こうなったら、この意味不明な状況の当事者であるタケゾーから話を聞くほかあるまい。
いや、本当にしっかり説明頼むよ? 正直、アタシはマジで意味不明なんだからさ?
もう完全にタケゾーとフェリアさんの交際は確定。アタシももうじき、タケゾーに離婚話を切り出されるのだろう。
ならばいっそアタシがここで中に突撃してもいいんだけど、そこまでする気力がアタシには残っていない。
涙が止まらず、心も完全に折れてしまった。今は傍にいてくれるショーちゃんだけが、アタシにとって唯一の心の支えだ。
――ここまで裏切られたのに、アタシはタケゾーとフェリアさんの仲を引き裂こうとは思えない。
むしろ、タケゾーが本気で選んだ相手ならば、アタシはその背中を押してあげたい。相手がフェリアさんのような素晴らしい女性なら尚更だ。
本当にアタシって弱い女だとつくづく思う。自分を裏切った相手のことを、今でも心のどこかで愛してしまう。
これが依存症という奴なのかもね。でもまあ、自分に嘘はつけないや。
――アタシはただ涙を呑めばいい。
「洗居さんにどう説明しよっかなぁ……。そこだけはきちんと考えないとねぇ……」
「ねえ、隼さん。多分、物凄い勘違いをしてると思う。ボク、ちょっと中にいる武蔵さんに話聞いてくる」
「ダメだよ、ショーちゃん……。今は二人の時間なんだ……。アタシ達が邪魔しちゃいけないよ……」
アタシはその場を立ち去ろうとするけど、ショーちゃんは袖を引っ張って止めてくる。
話を聞くも何も、もしかしたらこれからタケゾーとフェリアさんはお楽しみの営みタイムかもしれないんだ。
そんな場所に捨てられた女がどの面下げて乗り込むんだい? 生憎、アタシにはそこまでの根性はない。
――世間じゃ正義のヒーローでも、一皮むけばただの憐れな末路を辿った女さ。
ヤバい。涙が止まらない。
今はとにかく、この場所から早々に立ち去って――
ガシャァァアアン!!
「え!? え!? な、何事!?」
――と思って教会に背中を向けたタイミングで、突如中から響き渡る物々しい物音。
まさか、そんなに激しい営みタイムをしてるってこと? それはいくらなんでも激しすぎじゃない?
そう思ってたんだけど、再度窓に映る二人の影に目を向けてみると――
「あ、あれってもしかして、タケゾーとフェリアさんが揉めてる!?」
――さっきまで仲良さげに手を取り合っていた二つの人影が、胸倉を掴むように揉め合っていた。動きもかなり激しいし、これはもうプレイとかじゃなくて喧嘩だろう。
これって、どういう展開? アタシにも全然分かんないんだけど?
「そもそも、武蔵さんはいつでも隼さん一筋。不倫とかありえない」
「だ、だったら、今の中の状況はどういうことさ!? なんで二人が喧嘩してるのさ!?」
「それは分からない。でも、隼さんのそもそもの考えが違う気が――」
「ハッ!? ま、まさか……!?」
ショーちゃんの慰めが再び耳に入るが、その途中でアタシはさらなる仮説に辿り着いてしまった。
こういう極限状態だからこそなのか、アタシの女の勘はビンビンに働いてくれる。
だが、もしもその通りだとしたら――
〇===
「ダ、ダメだ! やっぱり、俺には隼とショーちゃんを裏切ることなんて……!」
「え~? 今更になって~、私との関係を~、取り消すのですか~?」
「だ、だが……! くっそ! こうなったら……!」
「ふんぎゅ~!? む、武蔵さん~……!? ど、どうして私の首を~……!?」
「お、お前さえいなければ……! お前さえ……!」
===〇
――という、昼ドラも真っ青な泥沼展開が繰り広げられているんだ。間違いない。
今日のアタシは本当に冴えてる。だけど、この事実が分かったのならば、もうアタシのやることは決まった。
――アタシは正義のヒーロー、空色の魔女。人の命を守り、人の日常を守る者。
タケゾーに人殺しなんてさせない。フェリアさんも死なせはしない。
「ショーちゃん! ここで待ってて! アタシ、タケゾーを止めてくる!!」
「隼さん。お願いだから、一度ボクの話をしっかり――もういいや」
なんだかショーちゃんに妙なことを言われた気もしたけど、こうなってくるとアタシも気弱でなんていられない。
中の状況はそれこそ、スリルでショックなサスペンス現場。ショーちゃんに見せるわけにはいかない。
アタシは助走をつけて窓へと飛び込み、この悲劇を食い止めにかかる。
パリィィィイイン!!
「タケゾー! やめて! アタシのことで争うぐらいなら、捨ててくれても構わないからぁぁああ!!」
教会の中へ飛び込むと、アタシは目を瞑って涙を堪えながらも、必死にその想いを叫んだ。
それ以外の方法なんて思いつかない。アタシはただ、二人に傷ついて欲しくないだけだ。
前もよく見ず、状況も確認しないままに声を張り上げたのだが――
「おいこらぁあ! フェリアァアア!! 隼の胸の方が魅力的に決まってんだろぉおお!?」
「ああぁ!? やるってんのかぁ!? 赤原ぁああ!! デカけりゃいいってもんじゃねえだろ!? 栗阿のサイズが丁度いいに決まってんだろがぁああ!?」
「いい加減にしろよ……! 人の嫁の胸を治療の時に見ておいて、その言い草はなんだぁぁああ!? 第一、隼の胸はただデカいってだけじゃない!! 形だって、絶対に隼の方が上だぁぁああ!!」
「舐めてんのかぁぁあ!? そこのバランスも含めて、栗阿の方が上に決まってんだろがぁぁああ!!」
――耳に入ってくる声を聴くと、なんだかアタシの想像と違う状況な気がしてくる。
恐る恐る目を開けてみるが、確かにタケゾーとフェリアさんは取っ組み合いの喧嘩をしていた。まあ、そこは一応予想通りだ。
だけど、それ以外は全然予想と違う。
別にタケゾーがフェリアさんを押し倒して首を絞めてるようなことはなく、どちらかというとタケゾーの方が押されている。
てか、二人揃って激しく揉み合ったせいか、お互いに服がはだけまくっている。ほぼほぼ上半身裸といった様子だ。
こうして見てみると、タケゾーって中々セクシーな肉体をしてるもんだ。バランスよく筋肉も付いているのに、どこか女性的にも見えるアンバランスさが実にいい。
――いやまあ、タケゾーの美ボディー談義も今は後だ。それよりももっと注目すべき部分がある。
タケゾーの肉体は確かに男性と分かる。女性的に見えても、確かに男性のものだ。
対するフェリアさんの方なのだが、こっちは本来なら女性的であるはずだよね? でも、何かがおかしい。
さっきタケゾーと胸がどうのこうので言い争ってた時の声もおかしかったけど、フェリアさんの上半身もタケゾーに近い。
女性的に見えて、しっかり男性と分かる魅惑的なボディー。うん、やっぱりおかしいよね。
「あ、あのー……お二人とも? ちょーっといいかな?」
「だ、誰だ!? ……って、隼!?」
「ああぁ!? 今はこの赤原と――って!? え、ええぇ!? な、なんでこいつがここに!?」
思わずアタシの頭も硬直してしまったが、少しずつ熱が引きながら質問するぐらいには回復してくれる。
どうにも申し訳ない気分がこみ上げてくるけど、やっぱりフェリアさんの声がいつもと違う。どう聞いても男性のものだ。
これって、まさかとは思うけど――
「フェ、フェリアさんって……実は男だったの……?」
「あ……あぁ……あああああぁあ!!??」
「お、おい!? フェリア!? 落ち着けって!?」
――やっぱり、そういうことだったらしい。いや、どういうことだったんだろう?
フェリアさんは羞恥心からか絶叫し、まともに話ができそうな状況ではなくなってしまったし。
一応の真実には辿り着いた感じだけど、間がすっぽ抜けてて、アタシには何が何だか分からない。
「……タケゾー。悪いんだけど、まず最初に説明してもらえる?」
「……分かった。ただ、このことは他言無用で頼む。特に洗居さんには」
「うん。なんとなくそうした方がいい気はしてる」
こうなったら、この意味不明な状況の当事者であるタケゾーから話を聞くほかあるまい。
いや、本当にしっかり説明頼むよ? 正直、アタシはマジで意味不明なんだからさ?
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