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魔女と家族の新たな日常編

ep229 我が家の食卓はいつも通り賑やかだ!

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「タケゾー! たっだいまー!」
「武蔵さん、ボクと隼さん、今日も頑張った」
「ああ、二人ともお帰り。テレビにも少し映ってたけど、今回も無事に済んだみたいでよかった」

 アタシとショーちゃんが自宅である工場に戻ると、待っていたのは我が家の優しい旦那様。
 幼馴染の関係から交際を始め、あれよあれよと結婚までしてしまったタケゾーが、リビングに夕食を用意して待ってくれていた。
 度々思うんだけど、本当にアタシはいい旦那様を持ったものだ。まあ、告白してきたのはタケゾーからだけど。

「ほら、隼も体力を使ったんだから、燃料チャージしておけよ」
「おお、冷酒! 夏も近いし、こいつをキューっと一杯やるのもオツなもんだ! タケゾーも飲まない?」
「まあ、軽くもらおうかな。隼、今日も一日お疲れ様」
「タケゾーもお疲れ~」

 そんなタケゾーも交えた一家団欒の場で、お互いに冷酒の盛られたグラスを乾杯させながら、今日一日を労い合う。
 タケゾーも保育士としての仕事があるのに、こうやって料理までしてくれるだなんて、どんだけハイスペックな旦那様なのだか。
 アタシも洗濯や掃除周りはできるんだけど、炊事はどうにも苦手でね。

「武蔵さんのご飯、おいしい。やっぱり、このご飯が一番」
「そうかそうか。ショーちゃんにもそう言ってもらえると、俺も腕を振るった甲斐があるさ」

 これで料理担当がアタシだったら、ショーちゃんがかわいそすぎる。
 ショーちゃんがタケゾーの料理を気に入ってるのもあるけど、アタシの料理の腕って壊滅的なのよ。
 頑張ってレシピ通りに作ろうとしても、何故だかダークマターが発生してしまう始末。

 ――むしろ、全自動料理マシーンでも作った方が適切なぐらい。
 今は我が家の収入もタケゾー頼みだし、これは頭が上がらない。

「そういえば、隼の方でもそろそろ清掃業で復職を考えてるんだろ? そっちはどうなってる?」
「洗居さんとも話を進めてるんだけど、無理しない範囲で復職できるように考えてくれてるって。騒動も落ち着いてきたし、アタシも早い目に復職したいしねぇ」
「まあ、そう慌てなくてもいいさ。空色の魔女様は今でも世間が必要としてる。そっちの都合も考えて、洗居さんとも相談しながら慎重に復職すればいいさ。幸い、隼が我が家のライフラインを整備してくれたおかげで、支出はだいぶ抑えられてる」

 とはいえ、アタシも家庭面でタケゾーに頼ってばかりもいられない。
 現在は上司である洗居さんとも相談し、休職中だった清掃用務員の仕事についても、そろそろ復職の目処が立ってきた。
 大凍亜連合残党の勢いも鎮火の傾向にあるし、アタシも働いて貯金を作っておきたいんだよね。
 もうちょっと余裕ができたら家族で旅行だってしたいし、アタシとタケゾーはまだ結婚式すら挙げていない。
 一生に一度の思い出なんだから、そこは盛大にやりたいのよね。



【我が星皇カンパニーでは、次の世代に向けた技術を配信しています。技術的なご相談は、是非とも星皇カンパニーへ】

「あれ? 星皇カンパニーのCM? こんなの始めたんだ……」



 そうやって家族で夕飯を食べていると、何気なくつけたいたテレビのCMが目に入った。
 しかも、それはアタシとも縁が深い星皇カンパニーのCM。思わず気になって見入っちゃうけど、同時に複雑な感情もこみ上げてくる。

「星皇カンパニーって、これまでこういうCMどころか、広告さえも出してなかったよな? それなのに、急に宣伝に力を入れ始めたというか……」
「これまでは星皇社長の技術力と運営手腕で乗り切ってたけど、あの人がいなくなった影響だろうね。こう言っちゃなんだけど、なんだか俗っぽくなったって気がするよ」

 星皇カンパニーはこれまで世界的な大企業であれど、大々的に宣伝広告を打つようなことはしていなかった。
 それでも絶対的な地位を築けていたのは、ひとえに星皇社長の力が大きい。エンジニア業界において、あの人の存在は世界的な権威であった。
 そのおかげでこれまでは広告に力を入れずとも、仕事なんて向こうから入ってくるという入れ食い状態。だけど、星皇社長がいなくなって役員組織が再編されれば、そういうわけにはいかない。

 他の企業と同じように街頭にも広告を打ち出し、こうやってテレビでCMだって流す。そうしないと、これまでの星皇カンパニーを維持できないということだろう。
 企業としては正しい姿なんだろうけど、アタシとしてはどこか寂しい。

 ――これまで推しアイドルのように憧れていた熱が、なんだか一気に冷めちゃった。
 仕方ないとは割り切っても、ここでも星皇社長がいなくなった寂しさを感じてしまう。

「……って、なんだかしんみりしちゃったね。ほら、ショーちゃん。今日はアニメ版マスクセイバーの日だから、チャンネルを切り替えよっか」
「アニメ版のマスクセイバー、ボクとしては違う気がする。ヒロインに焦点を当てすぎてて、ヒーロー要素が薄い。ボク、あんまり見たくない」
「みょ、妙にこだわるもんだね……」

 せっかくの家族での食卓なのに、星皇カンパニーのCMのせいで妙な雰囲気になっちゃった。
 そんな気持ちを切り替えようと、ショーちゃんの好きなアニメにチャンネルを切り替えようとするが、こっちはこっちで妙なところにこだわっている。
 ショーちゃん、見た目も行動原理も基本的には小学生だけど、変なところでらしくないところを見せてくる。
 まあ、元々のベースとなった精神はアタシ達と同世代だからね。それを踏まえてもよく分かんないけど。

「そういえば、タケゾーも明日は休みだっけ? アタシはちょいと洗居さんと復職の相談に行くけど、午後から空いてる?」
「ああ、空いてるぞ。なんだったら、少しみんなで午後から出かけてみるか?」
「ボクもそうしたい。みんなで買い物とか、行きたい」

 話題の方もテレビから明日の話に変わり、さっきまでの微妙な空気も晴れていく。
 一日中空いてるってわけじゃないけど、アタシも家族の時間を過ごしたいのよね。ひとまずの脅威は去って、ようやく落ち着いてきたしさ。
 タケゾーとショーちゃんも乗り気だし、アタシの用件が済んだらちょっとショッピングモールにでも――



「……ん? 俺宛てに誰かからメッセージ? ……すまん、隼にショーちゃん。やっぱり、俺は明日行けなさそうだ……」
「え? 急に仕事が入ったとか?」
「まあ……そんなところだ。俺にしかできない用事と言うか……」



 ――などと予定を考えていたら、タケゾーが急遽予定を取りやめてきた。
 スマホに誰かから連絡が来たみたいだけど、どうにもタケゾーの歯切れが悪い。
 まあ、家族でお出かけなんて、いつでもできるからね。タケゾーにも事情があるんだから、これはこれで仕方ない。

「気にしなくてもいいさ。じゃあ、明日はアタシとショーちゃんだけで、少しお出かけしよっか」
「うん、する。ついでにパトロールもする」
「本当にすまないな……。この埋め合わせは、またいつかするから……」
「そこまで気にしなくてもいいってのに。タケゾーも何の用事か知らないけど、頑張ってね」

 ただっでさえ一家の大黒柱として苦労してるのに、アタシもこれ以上余計な気遣いはされたくない。
 タケゾーにだって、タケゾーなりの事情ってものがある。たとえ奥さんであっても、深入りして探るのはやめておくべきであろう。
 ただ、アタシの中でも少しだけ気になることがあるのよね。



 ――タケゾーがこうやってアタシ達の予定以外を優先したのって、初めてじゃない?
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