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星皇カンパニー編・結

ep219 託された意志はアタシが必ず成し遂げてみせる!!

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「そ、そんな……嘘……? ア、アタシ……夢でも見てんの……?」

 ゆっくりと顔を上げ、アタシは声をかけてきた二人に目を向ける。
 一人は男性で、アタシが落とした三角帽を手に持っている。もう一人は女性で、その男性と寄り添うように立っている。

 いや、この二人が誰かなんて、アタシには一目瞭然だ。忘れるはずがない。
 あの日からアタシが胸に抱いていた後悔と、アタシに可能性を託してくれた人。
 それ以上に、アタシにとって誰よりも馴染み深いこの二人は――



「と、父さんに……母さん……?」
「ああ、そうだ。まさかこんな形でお前に会えるとは、僕達も思わなかったよ」
「隼ちゃんには辛い思いをさせちゃったみたいで、本当にごめんね……」



 ――アタシを産んで育ててくれた両親だった。
 デザイアガルダによって命を落とした二人が、今こうしてアタシの前に立っている。
 思わず夢じゃないかと自分の頬をつねってしまうが、確かに痛みはある。てか、この方法で夢とか本当に判断できるのかな?

「ハハハ。思わず夢じゃないかと頬をつねるだなんて、相変わらず隼らしいな」
「夢ではないけど、現実でもないと言えばいいのかしら? 隼ならば、この空間と私達がいる意味も理解できるんじゃない?」
「ま、まさか……ワームホールによる時空の歪みで……?」

 頬をつねって現実逃避したくなるアタシの態度を見て、目の前の二人はアタシが知る懐かしい態度で接してくれる。
 間違いない。間違えるはずがない。ワームホールという時空の歪みが、このアタシにとんでもない奇跡を見せてくれた。
 時間どころか場所の座標も超えて、アタシに過ぎ去りし日々を想起させてくれた。



 ――この二人は間違いなく、アタシの両親だ。



「と、父さん……母さん……! ア、アタシ……パンドラの箱で星皇社長を止められなくて……ううぅ、うああぁぁ……!」
「この事態からおおよそのことは見当がつく。だが、これは隼の責任じゃない。むしろ、隼は僕達夫婦が背負うべきだった業を、誰よりも理解してここまで来てくれたのだろう?」
「とっても辛いことがあってここまで来たのよね? お母さん達はこうして話すことしかできないけど、隼ちゃんがたくさんの苦難を乗り越えて私達の願いを受け取ってくれたことは、語らずとも理解できるわ」

 これはワームホールが見せた幻影に近いもので、現実に両親が蘇ったわけじゃない。イレギュラーが重なり合って今この場所に、過去の両親の姿を映し出したに過ぎない。
 それでも、アタシはやっぱり嬉しい。嬉しくて仕方ない。
 自らの感動も後悔もまともな言葉にはならず、ただただ泣き叫ぶことしかできない。

 ――そんなアタシを見ても、両親は昔と同じように頭を撫でてなだめてくれる。
 その感触も耳に入る優しい声も、歪んだ時空に記憶されたプログラムのゴーストに過ぎない。
 だけど、アタシにとっては本物と相違ない。

 ――不思議と体も軽くなる。さっき吹き飛ばされた痛みも飛んでいく。
 入り混じった感情で泣きじゃぐりながらも、体に力が満ち溢れていくのを感じる。

「隼。父さんと母さんはお前に何と言えばいいのか分からない。辛い思いをさせたことを謝罪すればいいのか、僕達の想いを汲んでくれたことを感謝すればいいのか……」
「そ、そんなの……エグッ……感謝してくれていいに決まってるし、アタシの方こそ感謝したいよぉ……!」
「あらあら。隼ちゃんはいつまでたっても泣き虫ね。……だけど、お母さん達がこうして一緒にいられるのも、ほんのわずかな時間だけね……」
「うん……分かってる……! アタシも分かってる……! でも、こうしても一度でも会ってくれて、本当にありがとう……!」

 本当はアタシも父さんや母さんともっと話していたいが、そんな甘いことは許されない。
 両親との再会など偶然に過ぎず、ここでその想いにすがるのはアタシが止めようとしている星皇社長と同じ行いになる。

 ――奇跡的な再会も束の間、両親の姿も光となって消えていく。
 だが、これでいいんだ。これが本来の世界なんだ。
 死んだ人間は戻ってこない。死んだ人間を戻すために世界を犠牲にしていいはずもない。
 そのことを改めて実感し、アタシは泣きながらも胸に誓う。

「……その目を見る限り、隼に迷いはないみたいで安心した。どうか父さん達が果たせなかった責任を、隼が代わりに果たしてくれ。……本当に愛してる」
「……うん。ありがとう、父さん」
「星皇社長の想いについても、隼ちゃんが理解してくれてるのをお母さんも感じるわ。……愚かな親だけど、後のことは任せたわね」
「……愚かじゃないさ、母さん。二人とも、アタシのことを愛して……そして託してくれて、本当にありがとう……!」

 父さんに三角帽を被せてもらいながら、アタシは消え行く両親と最後の言葉を交わしていく。
 これでもうお別れだ。アタシにだってまだやることが残っている。

 ――父さんも母さんも星皇社長を止めたくて、アタシにパンドラの箱を託してくれたんだ。
 まさか自分がヒーローなんかになって、こうしてそのパンドラの力を身に纏ってその役目を担うことになるとは思わなかったけど、ここまで来て想いを揺らがせるわけにもいかない。



 ――涙を拭い、アタシは両親に背を向けて、星皇社長のいる方角へ体を向け直す。



「父さん、母さん……。アタシは幸せにやってるよ。この騒動も絶対に終わらせて、その幸せの続きを手にしてみせるさ……!」
「ああ、頑張ってくれ……隼!」
「お母さん達は隼ちゃんのこと、ずっと信じてるから……!」

 もう振り返ることはしない。ここで振り返ったら、アタシの覚悟は揺らいでしまう。
 覚悟を揺らがすわけにはいかない。この覚悟こそ、両親がアタシに託してくれた全てだ。



 ――そして、娘のアタシを愛してくれた証だ。
 その証を胸に抱き、アタシは宙に浮く地面を踏みしめ、再び滑空の態勢をとる。



「さあ……星皇社長。あんたのことはアタシが止める。絶対にあんたを救い出してみせる。覚悟しておくんなよ! これが空色の魔女による、一世一代の大一番だぁああ!!」
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