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最後への架け橋編
ep207 タケゾー「できることをやるしかない」
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「本当にこの世界はどうなっちまうんだ? 正直、隼ちゃんが目を覚まさねえことには……」
「空鳥さんに頼ってばかりなのも申し訳ないですが、私達だけではどうすることも……」
玉杉さんや洗居さんも俺と同じように考え、同時にこの先への不安を募らせている。
俺達には星皇社長の目的が見えないが、隼でも苦戦するヴィランが二人も脱獄し、配下を率いて街で暴れ回っているのだ。
テレビでその光景を見ても、冗談抜きで出てくる言葉は『この世の終わり』
――もうそう思いたくなるほど、悲惨な未来が見えてしまう。
「ううぅ……隼さん……。ボ、ボク、怖いけど、一人で隼さんの代わりに――」
「ダ、ダメよ~……! ショーちゃんは隼ちゃんと一緒にここにいて、どうか目を覚ますのを待ってあげてよ~……! お、お願いだから……!」
隼がいない現状で唯一戦えそうなのはショーちゃんだけだが、敵はあまりにも強大すぎる。
大凍亜連合が再び組織として息を吹き返した今、ショーちゃん一人で立ち向かっても無駄に命を落とすだけだ。
さっきは俺に喝を入れてくれたおふくろも、この迫りくる危機に心が折れかけている。
孫であるショーちゃんを抱きかかえながら、必死に気持ちを持ちこたえさせている。
今は警察が事態を抑え込んでくれているが、それもいつまでもってくれる分からない。
いずれは自衛隊レベルも動きそうだが、はたしてそれでも敵うかどうか。
――隼の叔父さんも氷山地も、それぐらいとんでもない怪物なのは事実だ。
立ち向かえるのは、空色の魔女をおいて他にいない。
「……よし。俺も腹を括るか」
こうなったら、俺も俺で動くとしよう。ただ待ってるだけなんて釈然としない。
隼は必ず目を覚ます。俺やショーちゃんを置いて、先に逝くはずがない。
それを信じて、今打てる限りの手を打とう。
「お、おい、武蔵? まさか、ヤケを起こしたりしてねえよな?」
「安心してください。俺には一つ、確かめたいことがあるんです。そのためにも、少し一人で出かけてきます」
「お、お一人でですか!? 外は危険ですよ!?」
「今ならまだ、警察のおかげで被害の拡大は抑えられてます。俺一人でバイクを飛ばせば、どうにかなるでしょう」
玉杉さんや洗居さんに心配されてしまうが、俺はある場所に向かうためにヘルメットを手に取る。
実際に戦うことは隼にしかできない。ならば、俺は隼が目を覚ました時に少しでも役に立つ情報を手に入れておきたい。
――ラルカや牙島、そしてフェリアさんといったウォリアールという軍事国家の存在。
星皇社長と繋がっているのならば、今起こっているヴィランの暴動についても何か手掛かりがあるはずだ。
――それにもう一人、ウォリアールに関わっている人間が残っている。
俺にはそいつの目星がついており、まずはその化けの皮を剥がして接触を図ることしかできない。
「……ショーちゃん。悪いんだが、俺の分まで隼の傍にいてやってくれ。おふくろと――おばあちゃんと一緒に頼む」
「武蔵さん……?」
「……大丈夫よ~。この子はやる時はやる子よ~。もう腑抜けた様子もないし、お母さんは武蔵を信じてるからね~」
ショーちゃんに対してもしっかり言葉を伝え、せめて父親らしく頭を撫でてやる。
俺が今この場を離れることで、不安が募るのは百も承知だ。だが、俺も隼のために動ける限りは動きたい。
おふくろも俺の気持ちを尊重し、涙を浮かべながらも笑顔で見送ってくれる。
――俺は隼のようなヒーローにはなれない。ただ無力なだけの一般人に過ぎない。
それでも、そんなヒーローを支える夫として、やれることは残っている。
■
「……着いたか。幸い、大凍亜連合といった連中には出くわさなかったな。道中で都合のいいものも手に入ったし、これでうまく行けばいいんだが……」
玉杉さんの店を出た俺はバイクを飛ばし、目的の場所へとやって来た。
そこは少し前まで隼の治療をしてくれたフェリアさんが住んでいる教会。さっきは思わず暴力的に振舞ってしまったが、あの人は俺達とウォリアールを――ひいては星皇社長を繋ぐ、唯一の架け橋だ。
もしもうまく行けば、フェリアさんから星皇社長とコンタクトをとることもできるかもしれない。
――軽く脅しにはなるだろうが、材料となりそうなものもカバンに詰めてある。
俺の読みが正しければ、相応の効果はあるはずだ。
「……すみません。フェリアさんはいるでしょうか?」
「あ、赤原さんじゃないですか~? 空鳥さんのことで~、何かありましたか~……?」
「いえ、今はまだ何も変化はないです。先程は失礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「気にしなくても~、大丈夫ですよ~。赤原さんの立場から見れば~、私に当たりたくなるのも仕方ありませんので~」
準備を整えて教会に足を踏み入れると、フェリアさんが一人で聖堂内の椅子に腰かけていた。
こんな夜遅くだからもう寝てるんじゃないかとも思ったが、フェリアさんにも色々と思うところはあるのだろう。
洗居さんとの関係や将軍艦隊との板挟みで、ある意味この人は被害者か。
「赤原さんもこんな遅くに~、わざわざ謝罪のために来てくれたのですか~?」
「いえ、目的は謝罪じゃないです。丁度他に人もいないようですので、少し腹を割った話をしてもいいですか?」
「は、はい~……? か、構いませんけど~……?」
俺に詰め寄られたり、伊熱田ばさみの立場にありながらも、フェリアさんの穏やかな態度は変わらない。
その姿は言うなれば、洗練されたシスターといったところか。
――ただ、俺にはそんなフェリアさんの態度の中にも、奇妙な違和感を覚えてしまう。
傍から見ればフェリアさんと同じタイプのおふくろでも、感情的になれば大きく取り乱す。だが、フェリアさんにそれはない。
そこまでメンタルが強いということだろうか? 確かにそうかもしれないが、俺にはどこか『猫を被っている』という印象が強い。
これまでこの人に抱いていた妙な違和感も含めて、どうにも俺の中で『もう一人のウォリアール人』と重なってしまう。
――こうなったら深く考えても仕方がない。一か八かの出たとこ勝負だ。
二人で教会の椅子に腰かると、俺は予想していた『フェリアさんの正体』について、思い切って口にする――
「そろそろ、フェリアさんの正体を明かしてもらえませんか? ……ダークヒーロー、フェイクフォックスとしての」
「空鳥さんに頼ってばかりなのも申し訳ないですが、私達だけではどうすることも……」
玉杉さんや洗居さんも俺と同じように考え、同時にこの先への不安を募らせている。
俺達には星皇社長の目的が見えないが、隼でも苦戦するヴィランが二人も脱獄し、配下を率いて街で暴れ回っているのだ。
テレビでその光景を見ても、冗談抜きで出てくる言葉は『この世の終わり』
――もうそう思いたくなるほど、悲惨な未来が見えてしまう。
「ううぅ……隼さん……。ボ、ボク、怖いけど、一人で隼さんの代わりに――」
「ダ、ダメよ~……! ショーちゃんは隼ちゃんと一緒にここにいて、どうか目を覚ますのを待ってあげてよ~……! お、お願いだから……!」
隼がいない現状で唯一戦えそうなのはショーちゃんだけだが、敵はあまりにも強大すぎる。
大凍亜連合が再び組織として息を吹き返した今、ショーちゃん一人で立ち向かっても無駄に命を落とすだけだ。
さっきは俺に喝を入れてくれたおふくろも、この迫りくる危機に心が折れかけている。
孫であるショーちゃんを抱きかかえながら、必死に気持ちを持ちこたえさせている。
今は警察が事態を抑え込んでくれているが、それもいつまでもってくれる分からない。
いずれは自衛隊レベルも動きそうだが、はたしてそれでも敵うかどうか。
――隼の叔父さんも氷山地も、それぐらいとんでもない怪物なのは事実だ。
立ち向かえるのは、空色の魔女をおいて他にいない。
「……よし。俺も腹を括るか」
こうなったら、俺も俺で動くとしよう。ただ待ってるだけなんて釈然としない。
隼は必ず目を覚ます。俺やショーちゃんを置いて、先に逝くはずがない。
それを信じて、今打てる限りの手を打とう。
「お、おい、武蔵? まさか、ヤケを起こしたりしてねえよな?」
「安心してください。俺には一つ、確かめたいことがあるんです。そのためにも、少し一人で出かけてきます」
「お、お一人でですか!? 外は危険ですよ!?」
「今ならまだ、警察のおかげで被害の拡大は抑えられてます。俺一人でバイクを飛ばせば、どうにかなるでしょう」
玉杉さんや洗居さんに心配されてしまうが、俺はある場所に向かうためにヘルメットを手に取る。
実際に戦うことは隼にしかできない。ならば、俺は隼が目を覚ました時に少しでも役に立つ情報を手に入れておきたい。
――ラルカや牙島、そしてフェリアさんといったウォリアールという軍事国家の存在。
星皇社長と繋がっているのならば、今起こっているヴィランの暴動についても何か手掛かりがあるはずだ。
――それにもう一人、ウォリアールに関わっている人間が残っている。
俺にはそいつの目星がついており、まずはその化けの皮を剥がして接触を図ることしかできない。
「……ショーちゃん。悪いんだが、俺の分まで隼の傍にいてやってくれ。おふくろと――おばあちゃんと一緒に頼む」
「武蔵さん……?」
「……大丈夫よ~。この子はやる時はやる子よ~。もう腑抜けた様子もないし、お母さんは武蔵を信じてるからね~」
ショーちゃんに対してもしっかり言葉を伝え、せめて父親らしく頭を撫でてやる。
俺が今この場を離れることで、不安が募るのは百も承知だ。だが、俺も隼のために動ける限りは動きたい。
おふくろも俺の気持ちを尊重し、涙を浮かべながらも笑顔で見送ってくれる。
――俺は隼のようなヒーローにはなれない。ただ無力なだけの一般人に過ぎない。
それでも、そんなヒーローを支える夫として、やれることは残っている。
■
「……着いたか。幸い、大凍亜連合といった連中には出くわさなかったな。道中で都合のいいものも手に入ったし、これでうまく行けばいいんだが……」
玉杉さんの店を出た俺はバイクを飛ばし、目的の場所へとやって来た。
そこは少し前まで隼の治療をしてくれたフェリアさんが住んでいる教会。さっきは思わず暴力的に振舞ってしまったが、あの人は俺達とウォリアールを――ひいては星皇社長を繋ぐ、唯一の架け橋だ。
もしもうまく行けば、フェリアさんから星皇社長とコンタクトをとることもできるかもしれない。
――軽く脅しにはなるだろうが、材料となりそうなものもカバンに詰めてある。
俺の読みが正しければ、相応の効果はあるはずだ。
「……すみません。フェリアさんはいるでしょうか?」
「あ、赤原さんじゃないですか~? 空鳥さんのことで~、何かありましたか~……?」
「いえ、今はまだ何も変化はないです。先程は失礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「気にしなくても~、大丈夫ですよ~。赤原さんの立場から見れば~、私に当たりたくなるのも仕方ありませんので~」
準備を整えて教会に足を踏み入れると、フェリアさんが一人で聖堂内の椅子に腰かけていた。
こんな夜遅くだからもう寝てるんじゃないかとも思ったが、フェリアさんにも色々と思うところはあるのだろう。
洗居さんとの関係や将軍艦隊との板挟みで、ある意味この人は被害者か。
「赤原さんもこんな遅くに~、わざわざ謝罪のために来てくれたのですか~?」
「いえ、目的は謝罪じゃないです。丁度他に人もいないようですので、少し腹を割った話をしてもいいですか?」
「は、はい~……? か、構いませんけど~……?」
俺に詰め寄られたり、伊熱田ばさみの立場にありながらも、フェリアさんの穏やかな態度は変わらない。
その姿は言うなれば、洗練されたシスターといったところか。
――ただ、俺にはそんなフェリアさんの態度の中にも、奇妙な違和感を覚えてしまう。
傍から見ればフェリアさんと同じタイプのおふくろでも、感情的になれば大きく取り乱す。だが、フェリアさんにそれはない。
そこまでメンタルが強いということだろうか? 確かにそうかもしれないが、俺にはどこか『猫を被っている』という印象が強い。
これまでこの人に抱いていた妙な違和感も含めて、どうにも俺の中で『もう一人のウォリアール人』と重なってしまう。
――こうなったら深く考えても仕方がない。一か八かの出たとこ勝負だ。
二人で教会の椅子に腰かると、俺は予想していた『フェリアさんの正体』について、思い切って口にする――
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