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大凍亜連合編・承
ep165 怪物用心棒がまた現れた!
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「そっちこそ、この間アタシ達にボコボコにされたのに、もうピンピンしてんだね……!」
「キハハハ! あの時かてワイが敗れはしたが、どない見ても姉ちゃんの方がボロボロやったやないかい?」
アタシ達の前に姿を現したのは、最悪なことに大凍亜連合最恐の用心棒、牙島だった。
今回は普段と同じく、迷彩コートで全身を覆い隠している。ただその態度から、もうとっくにアタシと戦った時のダメージは回復しているのは分かる。
本当にタイミングが悪い。ただでさえこいつの相手は骨が折れるのに、今は洗居さんだっている。
これは交戦している余裕もない。どうにかして、逃げるのが優先か。
――逃げてばかりのヒーローだけど、洗居さんの命には代えられない。
「悪いんだけどさ、今回はこっちも大凍亜連合の邪魔をするつもりはないのよ? というわけで、もうアディオってもいいかな?」
「『アディオる』ってなんやねん? つうか、ワイがそない簡単に見逃すわけがないやろ?」
「まさか、いつぞやみたいに洗居さんの血がお望みとか? そういう変態気質、やめといた方がいいよ?」
「キーハハ! そういや、そないなこともあったわなぁ! なんや姉ちゃん達との因縁も、随分と続いたように感じてまうわ!」
アタシは洗居さんの眼前へと回り込み、まずは洗居さんを守るように身を挺する。
そこからどうにか逃げ出す口実を作ろうとするも、牙島はアタシの言葉を笑い飛ばしながらも逃がす様子は見えない。
こいつ、氷山地と違って単純かつ純粋に強い上に、生粋の戦闘狂だから厄介なんだよね。
「そ、空鳥さん……。だ、大丈夫でしょうか?」
「……安心して。アタシもこいつ相手には、最大レベルで警戒して動いてるところだから」
アタシの後ろで洗居さんは怯えた声で尋ねてくる。そりゃそうだ。洗居さんは一度、牙島に噛み殺されそうになってるんだ。
アタシのために色々と便宜を図るような恩人でもある洗居さんを、アタシは意地でもこの窮地から逃してみせる。
でも、牙島相手にただで見逃してもらうってわけにはいかないか。
こうなったら、アタシも用意しておいたものを使って――
ブゥゥウウン!!
「ど、どわぁ!? な、なんや!? 斬撃か!?」
「え!? 斬撃!?」
――そうこうアタシと牙島が睨み合った膠着状態が続いていたのだが、突如そこに割り込むように響く何かを振るう音。
どうやら牙島目がけて誰かの刀が襲い掛かったらしく、牙島自身も慌ててそれを回避した。
そして、その牙島に斬撃で襲い掛かった人物なのだが――
「ショーちゃ――って、あれ?」
「ボク、何もしてない」
――驚くことに、ショーちゃんではない。
この場において牙島にこんな強襲斬撃を放てる人間なんて、ショーちゃん以外に思いつかなかったのに、なんとそのショーちゃんではない。
ショーちゃんはアタシの隣で居合の構えをとり、ただ機会を伺って待っていただけだ。
となると、一体誰がやったのよ? 牙島ほどのヴィランの不意を突いて、刀で襲い掛かれる人間なんて――
「牙島ぁ! テメェ、俺を本気で怒らせてえのか……!?」
「……いや!? 本当にどちら様!?」
――そんな疑問を抱きつつも牙島の背後に目を向けると、その正体と思われる人物がそこに立っていた。
いや、この人もこの人で正体が分からない。顔に狐面をつけて、黒のレインコートで全身を覆い隠した人影。
声を聞く限り、アタシやタケゾーと同い年ぐらいの若い男のものに聞こえる。
でも、牙島と同じように全身を隠しているから、誰なのかは分からない。そもそも、こんな人には会ったことがない。
――もしかして、いつだったかに電話越しで牙島に怒鳴りつけてた人?
でもだったら、どうして牙島に襲い掛かってるわけよ? 話の内容は忘れたけど、一応は仲間じゃなかったっけ?
「な、なんや……。誰かと思うたら、フェ――」
「余計な口を叩くなぁ! 牙島ぁ! 今の俺は……えーっと……ダークヒーロー、フェイクフォックスだ!」
「フェイク……フォックス……? すんまへん。その名前、今考えたでっしゃろ?」
「グ、グダグダうるせえ野郎だなぁ!? ともかく、これ以上そこの眼鏡女に手を出してみろ! たとえテメェであろうとも、この高周波ブレードの錆にしてやるよぉお!!」
牙島の様子を見る限り、どうにも本当に以前電話で話し合っていたお仲間同士っぽい。
ただ、そんなダークヒーロー、フェイクフォックス(仮)さんはその手に高周波ブレードを持って、牙島と向かい合っている。
てか、これって本当にどういう状況よ? 仲間割れ? 何が理由で?
――いやまあ、一つだけ理由と思われることに心当たりはある。
「ねえ、洗居さん。あのフェイクフォックスって人と知り合い?」
「いいえ……。私には狐面と黒レインコートを着た知り合いなんていません」
「そりゃあ、あんな怪しい格好の知り合いなんているわけないだろうね。だけど、近い感じの知り合いはいない? アタシやタケゾーと同年代の男の人とか?」
「それに関しましても、タケゾーさん以外にはいないのですが……?」
あのフェイクフォックスさん、何と言うか『アタシ達を守るために現れた』って言うより『洗居さんを守るために現れた』って感じが強いのよ。牙島に対する怒りの矛先も『眼鏡女が襲われた』ってことに向いてるぽいし。
でも、洗居さん本人はこのフェイクフォックスさんが何者なのかは不明とのこと。
てことは、洗居さんの隠れファンか何か? だけど、そのために高周波ブレードまで持ち出す?
――いや、高周波ブレードもそうだけど、牙島に一瞬で斬りかかれるほどのスキルも侮れない。
少なくとも一般人ではない。そういう意味では牙島のお仲間説が濃厚か。
「すみません。フェイクフォックス様は何者でしょうか?」
「お、俺は通りすがりのただのダークヒーローだ! それ以上でも以下でもねえ!」
「いや、ダークどころか、ヒーローがそう簡単に通りすがることなんてないでしょ……」
「でも隼さん、今ここで通りすがってる。ヒーローが通りすがってる」
そんなこんなで突如として登場した謎のダークヒーローにより、妙な空気になってしまった。
さっきまで牙島との間にあった張りつめた空気はどこへやら。それぞれの疑問の言葉やらボケやらツッコミが飛び交う始末。
――いや、アタシも別にふざけたいわけじゃないのよ? でもさ、さっきからアタシの頭の中は疑問符でいっぱいなのよ。
『どうして、この人はショーちゃんと同じ高周波ブレードなんて持ってるのか?』とか『どうして、全身を隠して変装してるのか?』とか『そもそも、ダークヒーローの定義って何だろう?』とかさ。
まあなんにしても、フェイクフォックスの登場で場の空気が一瞬で冷めちゃったね。ちょっとアタシも寒暖差に耐えづらい。
ただ、一番この寒暖差に耐えられなかったのは――
「……もうええわ。やめや。興ざめや」
――誰よりも戦う気満々の牙島だった。
「キハハハ! あの時かてワイが敗れはしたが、どない見ても姉ちゃんの方がボロボロやったやないかい?」
アタシ達の前に姿を現したのは、最悪なことに大凍亜連合最恐の用心棒、牙島だった。
今回は普段と同じく、迷彩コートで全身を覆い隠している。ただその態度から、もうとっくにアタシと戦った時のダメージは回復しているのは分かる。
本当にタイミングが悪い。ただでさえこいつの相手は骨が折れるのに、今は洗居さんだっている。
これは交戦している余裕もない。どうにかして、逃げるのが優先か。
――逃げてばかりのヒーローだけど、洗居さんの命には代えられない。
「悪いんだけどさ、今回はこっちも大凍亜連合の邪魔をするつもりはないのよ? というわけで、もうアディオってもいいかな?」
「『アディオる』ってなんやねん? つうか、ワイがそない簡単に見逃すわけがないやろ?」
「まさか、いつぞやみたいに洗居さんの血がお望みとか? そういう変態気質、やめといた方がいいよ?」
「キーハハ! そういや、そないなこともあったわなぁ! なんや姉ちゃん達との因縁も、随分と続いたように感じてまうわ!」
アタシは洗居さんの眼前へと回り込み、まずは洗居さんを守るように身を挺する。
そこからどうにか逃げ出す口実を作ろうとするも、牙島はアタシの言葉を笑い飛ばしながらも逃がす様子は見えない。
こいつ、氷山地と違って単純かつ純粋に強い上に、生粋の戦闘狂だから厄介なんだよね。
「そ、空鳥さん……。だ、大丈夫でしょうか?」
「……安心して。アタシもこいつ相手には、最大レベルで警戒して動いてるところだから」
アタシの後ろで洗居さんは怯えた声で尋ねてくる。そりゃそうだ。洗居さんは一度、牙島に噛み殺されそうになってるんだ。
アタシのために色々と便宜を図るような恩人でもある洗居さんを、アタシは意地でもこの窮地から逃してみせる。
でも、牙島相手にただで見逃してもらうってわけにはいかないか。
こうなったら、アタシも用意しておいたものを使って――
ブゥゥウウン!!
「ど、どわぁ!? な、なんや!? 斬撃か!?」
「え!? 斬撃!?」
――そうこうアタシと牙島が睨み合った膠着状態が続いていたのだが、突如そこに割り込むように響く何かを振るう音。
どうやら牙島目がけて誰かの刀が襲い掛かったらしく、牙島自身も慌ててそれを回避した。
そして、その牙島に斬撃で襲い掛かった人物なのだが――
「ショーちゃ――って、あれ?」
「ボク、何もしてない」
――驚くことに、ショーちゃんではない。
この場において牙島にこんな強襲斬撃を放てる人間なんて、ショーちゃん以外に思いつかなかったのに、なんとそのショーちゃんではない。
ショーちゃんはアタシの隣で居合の構えをとり、ただ機会を伺って待っていただけだ。
となると、一体誰がやったのよ? 牙島ほどのヴィランの不意を突いて、刀で襲い掛かれる人間なんて――
「牙島ぁ! テメェ、俺を本気で怒らせてえのか……!?」
「……いや!? 本当にどちら様!?」
――そんな疑問を抱きつつも牙島の背後に目を向けると、その正体と思われる人物がそこに立っていた。
いや、この人もこの人で正体が分からない。顔に狐面をつけて、黒のレインコートで全身を覆い隠した人影。
声を聞く限り、アタシやタケゾーと同い年ぐらいの若い男のものに聞こえる。
でも、牙島と同じように全身を隠しているから、誰なのかは分からない。そもそも、こんな人には会ったことがない。
――もしかして、いつだったかに電話越しで牙島に怒鳴りつけてた人?
でもだったら、どうして牙島に襲い掛かってるわけよ? 話の内容は忘れたけど、一応は仲間じゃなかったっけ?
「な、なんや……。誰かと思うたら、フェ――」
「余計な口を叩くなぁ! 牙島ぁ! 今の俺は……えーっと……ダークヒーロー、フェイクフォックスだ!」
「フェイク……フォックス……? すんまへん。その名前、今考えたでっしゃろ?」
「グ、グダグダうるせえ野郎だなぁ!? ともかく、これ以上そこの眼鏡女に手を出してみろ! たとえテメェであろうとも、この高周波ブレードの錆にしてやるよぉお!!」
牙島の様子を見る限り、どうにも本当に以前電話で話し合っていたお仲間同士っぽい。
ただ、そんなダークヒーロー、フェイクフォックス(仮)さんはその手に高周波ブレードを持って、牙島と向かい合っている。
てか、これって本当にどういう状況よ? 仲間割れ? 何が理由で?
――いやまあ、一つだけ理由と思われることに心当たりはある。
「ねえ、洗居さん。あのフェイクフォックスって人と知り合い?」
「いいえ……。私には狐面と黒レインコートを着た知り合いなんていません」
「そりゃあ、あんな怪しい格好の知り合いなんているわけないだろうね。だけど、近い感じの知り合いはいない? アタシやタケゾーと同年代の男の人とか?」
「それに関しましても、タケゾーさん以外にはいないのですが……?」
あのフェイクフォックスさん、何と言うか『アタシ達を守るために現れた』って言うより『洗居さんを守るために現れた』って感じが強いのよ。牙島に対する怒りの矛先も『眼鏡女が襲われた』ってことに向いてるぽいし。
でも、洗居さん本人はこのフェイクフォックスさんが何者なのかは不明とのこと。
てことは、洗居さんの隠れファンか何か? だけど、そのために高周波ブレードまで持ち出す?
――いや、高周波ブレードもそうだけど、牙島に一瞬で斬りかかれるほどのスキルも侮れない。
少なくとも一般人ではない。そういう意味では牙島のお仲間説が濃厚か。
「すみません。フェイクフォックス様は何者でしょうか?」
「お、俺は通りすがりのただのダークヒーローだ! それ以上でも以下でもねえ!」
「いや、ダークどころか、ヒーローがそう簡単に通りすがることなんてないでしょ……」
「でも隼さん、今ここで通りすがってる。ヒーローが通りすがってる」
そんなこんなで突如として登場した謎のダークヒーローにより、妙な空気になってしまった。
さっきまで牙島との間にあった張りつめた空気はどこへやら。それぞれの疑問の言葉やらボケやらツッコミが飛び交う始末。
――いや、アタシも別にふざけたいわけじゃないのよ? でもさ、さっきからアタシの頭の中は疑問符でいっぱいなのよ。
『どうして、この人はショーちゃんと同じ高周波ブレードなんて持ってるのか?』とか『どうして、全身を隠して変装してるのか?』とか『そもそも、ダークヒーローの定義って何だろう?』とかさ。
まあなんにしても、フェイクフォックスの登場で場の空気が一瞬で冷めちゃったね。ちょっとアタシも寒暖差に耐えづらい。
ただ、一番この寒暖差に耐えられなかったのは――
「……もうええわ。やめや。興ざめや」
――誰よりも戦う気満々の牙島だった。
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