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大凍亜連合編・起
ep131 何者かが工場に迫って来た!?
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「誰かがここを狙ってるのか!? とりあえず、ウィッチキャットは引き上げさせるぞ!」
「うん、お願い! もしかすると、大凍亜連合がまた居合君を狙ってるのかも……!」
偵察に夢中になっていたのが迂闊だった。
大凍亜連合は巨大な組織だ。アタシ達が偵察している先で大きな動きがあっても、その間に別の人間が動いている可能性だってある。
レーダーの感知によれば、二人の人間が工場の入り口前で待ち構えるように立っている。
もしかすると、片方は毎度のごとくこちらを陰からつけ狙うラルカという正体不明者かもしれない。
これはもう偵察をしているどころではない。タケゾーもそう判断し、すぐにウィッチキャットをビルから退避させるように操縦してくれる。
「居合君。少しの間、この部屋で待っててね」
「何があったの? ボクも気になる」
「安心してて。アタシがいる限り、君のことは守ってあげるからさ」
居合君は状況を理解できていないようだが、狙われている可能性は高い。
今は説明している余裕もないし、ひとまずはこの部屋で待ってもらうしかない。
タケゾーも今はウィッチキャットの退避で手いっぱいだし、まずはアタシが様子を伺うのが先決か。
「相手は今も工場の入り口で待ってるみたいだね。こっちの出方を伺ってるってこと?」
レーダーの情報を見る限り、まだ相手にも大きな動きはない。
何を考えているのか分からないし、正確な正体も分からない。
アタシは工場のドアを開け、まずはコッソリと様子を伺ってみると――
「あら? 空鳥さん? そんなにコソコソして、どうかしたのかしら?」
「ご無沙汰してます。ミス空鳥」
「は……へ? 星皇社長にゼノアークさん?」
――そこにいたのは、コソコソとしてるアタシを不思議そうに眺める、星皇社長と秘書のゼノアークさんだった。
敵が待ち構えていると思ったら、ただの知り合いが待っていてあまりに拍子抜けだ。
ただ、アタシもよく考えなおしてみる。
さっきまでは大凍亜連合を探るために緊張していたから、レーダーの反応を見て敵と誤認してしまったが――
――そもそもレーダーの反応だけでは、その人物が敵か味方も判断できないじゃん。
「あー……いや~……。ちょーっと、立て込んだ用があったもんでして……」
これは恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。むしろ、穴を作るところから始めたい。
まさか憧れの星皇社長を大凍亜連合みたいな反社組織の刺客と間違えるなんて、まさしく一生の不覚。
アタシもイソイソと頭を抱えながらとりあえずは外へと出て、適当に誤魔化さざるを得ない。
「……まあ、私も空鳥さん達の事情に首を突っ込む気はないわ。それに、今日はお祝いのために少し立ち寄らせてもらっただけよ」
「へ? お祝い?」
「あなたと赤原警部の息子さんが入籍したと聞いてね。ゼノアーク、用意しておいたものを」
「かしこまりました、社長」
アタシの恥ずかしすぎる失態はさておき、星皇社長がこの工場へやって来た目的なのだが、どうやらアタシとタケゾーが入籍したお祝いらしい。
おそらくはゼノアークさん辺りから聞いたのだろうが、超大企業の社長がアタシのような一個人相手に律儀なものだ。
一応は両親の縁ってのもあるけど、アタシ自身は以前に星皇社長の勧誘を断った立場でもある。むしろ、立場的には結構失礼なことをした過去があるわけだ。
それでもそんなことはお構いなしと、ゼノアークさんが星皇社長の言葉を聞き、少し抱えるぐらいの箱をアタシに差し出してくれる。
「こ、これは?」
「ちょっとした御利益のある置物よ。金一封でも包もうかと思ったけど、そういう現金なものよりはこういった形あるものの方がいいと思ってね」
受け取った箱を少し開けて中を覗いてみると、そこに入っていたのは高級そうな石でできた置物だ。
青い宝石の原石のようにも見えるし、これっておいくらよ? 絶対に高級品だよね? 目利きのできないアタシでも分かっちゃう。
「それはゼノアークの母国に伝わる縁結びの宝石の原石よ。新婚夫婦には丁度いいと思ってね」
「そ、そんな高そうなものを、アタシなんかがもらっていいの?」
「未来ある若者の新たな門出ですもの。それぐらい、遠慮なくもらっておきなさい。あなたの故郷でもあるこの工場で、どうか末永くお幸せにね」
思わず敵襲と勘違いしてしまったアタシが恥ずかしくなるほど、とても手厚い結婚祝い。
恥ずかしがればいいのか喜べばいいのかも分からないが、とりあえず軽く涙は流してる。
まあ、嬉しいのは事実だけどね。
ゼノアークさんの母国ということは、フェリアさんとも同じウォリアールって国か。
こんな綺麗な石があるなんて話を聞くと、アタシもますます興味が沸いてくる。
――本当にタケゾーとの新婚旅行先にしようかな?
「お姉さん、黒猫さん、戻って来た」
「こ、こら! 勝手に外に出るなって!」
そうこうアタシが星皇社長達と話をしていると、工場の中から居合君が飛び出してきた。
どうやら、偵察に向かわせていたウィッチキャットが戻ってきたようだ。居合君はそれを抱っこして、アタシに見せるように近寄ってくる。
行きよりもはるかに早い帰還。タケゾーも操縦に慣れたものだ。
そんなタケゾー自身も居合君の後を追うように出てくるが、これは色々と面倒になった。
――この状況、星皇社長やゼノアークさんにどうやって説明するよ?
「あら? 可愛らしいお子さんね」
「こ、この子はその……! し、親戚の子供を預かってて……!」
「別にあなた達の子供じゃないことぐらい、普通に考えれば分かるわよ」
「そ、そうだよね! アハハハー!」
思わずアタシも何かしら弁明しようとするのだが、そもそも何を弁明すればいいのやら。
目的が定まっていなかったせいで、いつものごとく変に墓穴を掘ってしまう。
とにかく、居合君が実は人造人間であることがバレるのはマズい。たとえ星皇社長が相手でもマズい。
もしもバレてしまえば、星皇カンパニークラスの大企業まで動いてしまう。
そんなことになれば居合君の身に何があるか分からないが、幸いと言うべきか星皇社長の話題も違う方向に逸れてくれる。
「ねえ、君。ここのお姉さんやお兄さんのことは好き?」
「うん、好き。ボク、この二人と一緒がいい」
「そんなに気に入ってるのね。……ゼノアーク。これ以上は私達もお邪魔みたいね。そろそろ引き上げるとしましょう」
星皇社長は腰を落として居合君と目線を合わせると、少しだけ言葉を交わす。
ただそれを終えると、ゼノアークさんを連れてそのまま早々に立ち去ってしまった。
その時の表情はどこか寂しそうでもあり、憂いを帯びていたと言うべきか。
――もしかすると、居合君の姿に亡くなった息子さんを重ねたのかもしれない。
もしそうだとしたら、星皇社長には悪いことをしてしまったかもしれない。
あの人にとって息子さんがなくなった過去は、それこそ時を巻き戻してでも取り戻したい過去だ。
「……とりあえず、居合君の正体はバレずに済んだか」
「そうみたいだね。居合君も居合君だよ? 特に問題もなかったからよかったけど、勝手に出てきたらダメじゃんか」
そもそもの話、居合君がアタシの言いつけを守って出てこなければよかった話ではある。
母親でもないアタシが言えた義理ではないが、ここはしっかりしつけの意味でも言い聞かせて――
「ごめんなさい。お姉さんと話してる人、敵じゃないから大丈夫と思った」
――まあ、もっと言えばアタシの勘違いがなければよかった話なんだけどね。
「うん、お願い! もしかすると、大凍亜連合がまた居合君を狙ってるのかも……!」
偵察に夢中になっていたのが迂闊だった。
大凍亜連合は巨大な組織だ。アタシ達が偵察している先で大きな動きがあっても、その間に別の人間が動いている可能性だってある。
レーダーの感知によれば、二人の人間が工場の入り口前で待ち構えるように立っている。
もしかすると、片方は毎度のごとくこちらを陰からつけ狙うラルカという正体不明者かもしれない。
これはもう偵察をしているどころではない。タケゾーもそう判断し、すぐにウィッチキャットをビルから退避させるように操縦してくれる。
「居合君。少しの間、この部屋で待っててね」
「何があったの? ボクも気になる」
「安心してて。アタシがいる限り、君のことは守ってあげるからさ」
居合君は状況を理解できていないようだが、狙われている可能性は高い。
今は説明している余裕もないし、ひとまずはこの部屋で待ってもらうしかない。
タケゾーも今はウィッチキャットの退避で手いっぱいだし、まずはアタシが様子を伺うのが先決か。
「相手は今も工場の入り口で待ってるみたいだね。こっちの出方を伺ってるってこと?」
レーダーの情報を見る限り、まだ相手にも大きな動きはない。
何を考えているのか分からないし、正確な正体も分からない。
アタシは工場のドアを開け、まずはコッソリと様子を伺ってみると――
「あら? 空鳥さん? そんなにコソコソして、どうかしたのかしら?」
「ご無沙汰してます。ミス空鳥」
「は……へ? 星皇社長にゼノアークさん?」
――そこにいたのは、コソコソとしてるアタシを不思議そうに眺める、星皇社長と秘書のゼノアークさんだった。
敵が待ち構えていると思ったら、ただの知り合いが待っていてあまりに拍子抜けだ。
ただ、アタシもよく考えなおしてみる。
さっきまでは大凍亜連合を探るために緊張していたから、レーダーの反応を見て敵と誤認してしまったが――
――そもそもレーダーの反応だけでは、その人物が敵か味方も判断できないじゃん。
「あー……いや~……。ちょーっと、立て込んだ用があったもんでして……」
これは恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。むしろ、穴を作るところから始めたい。
まさか憧れの星皇社長を大凍亜連合みたいな反社組織の刺客と間違えるなんて、まさしく一生の不覚。
アタシもイソイソと頭を抱えながらとりあえずは外へと出て、適当に誤魔化さざるを得ない。
「……まあ、私も空鳥さん達の事情に首を突っ込む気はないわ。それに、今日はお祝いのために少し立ち寄らせてもらっただけよ」
「へ? お祝い?」
「あなたと赤原警部の息子さんが入籍したと聞いてね。ゼノアーク、用意しておいたものを」
「かしこまりました、社長」
アタシの恥ずかしすぎる失態はさておき、星皇社長がこの工場へやって来た目的なのだが、どうやらアタシとタケゾーが入籍したお祝いらしい。
おそらくはゼノアークさん辺りから聞いたのだろうが、超大企業の社長がアタシのような一個人相手に律儀なものだ。
一応は両親の縁ってのもあるけど、アタシ自身は以前に星皇社長の勧誘を断った立場でもある。むしろ、立場的には結構失礼なことをした過去があるわけだ。
それでもそんなことはお構いなしと、ゼノアークさんが星皇社長の言葉を聞き、少し抱えるぐらいの箱をアタシに差し出してくれる。
「こ、これは?」
「ちょっとした御利益のある置物よ。金一封でも包もうかと思ったけど、そういう現金なものよりはこういった形あるものの方がいいと思ってね」
受け取った箱を少し開けて中を覗いてみると、そこに入っていたのは高級そうな石でできた置物だ。
青い宝石の原石のようにも見えるし、これっておいくらよ? 絶対に高級品だよね? 目利きのできないアタシでも分かっちゃう。
「それはゼノアークの母国に伝わる縁結びの宝石の原石よ。新婚夫婦には丁度いいと思ってね」
「そ、そんな高そうなものを、アタシなんかがもらっていいの?」
「未来ある若者の新たな門出ですもの。それぐらい、遠慮なくもらっておきなさい。あなたの故郷でもあるこの工場で、どうか末永くお幸せにね」
思わず敵襲と勘違いしてしまったアタシが恥ずかしくなるほど、とても手厚い結婚祝い。
恥ずかしがればいいのか喜べばいいのかも分からないが、とりあえず軽く涙は流してる。
まあ、嬉しいのは事実だけどね。
ゼノアークさんの母国ということは、フェリアさんとも同じウォリアールって国か。
こんな綺麗な石があるなんて話を聞くと、アタシもますます興味が沸いてくる。
――本当にタケゾーとの新婚旅行先にしようかな?
「お姉さん、黒猫さん、戻って来た」
「こ、こら! 勝手に外に出るなって!」
そうこうアタシが星皇社長達と話をしていると、工場の中から居合君が飛び出してきた。
どうやら、偵察に向かわせていたウィッチキャットが戻ってきたようだ。居合君はそれを抱っこして、アタシに見せるように近寄ってくる。
行きよりもはるかに早い帰還。タケゾーも操縦に慣れたものだ。
そんなタケゾー自身も居合君の後を追うように出てくるが、これは色々と面倒になった。
――この状況、星皇社長やゼノアークさんにどうやって説明するよ?
「あら? 可愛らしいお子さんね」
「こ、この子はその……! し、親戚の子供を預かってて……!」
「別にあなた達の子供じゃないことぐらい、普通に考えれば分かるわよ」
「そ、そうだよね! アハハハー!」
思わずアタシも何かしら弁明しようとするのだが、そもそも何を弁明すればいいのやら。
目的が定まっていなかったせいで、いつものごとく変に墓穴を掘ってしまう。
とにかく、居合君が実は人造人間であることがバレるのはマズい。たとえ星皇社長が相手でもマズい。
もしもバレてしまえば、星皇カンパニークラスの大企業まで動いてしまう。
そんなことになれば居合君の身に何があるか分からないが、幸いと言うべきか星皇社長の話題も違う方向に逸れてくれる。
「ねえ、君。ここのお姉さんやお兄さんのことは好き?」
「うん、好き。ボク、この二人と一緒がいい」
「そんなに気に入ってるのね。……ゼノアーク。これ以上は私達もお邪魔みたいね。そろそろ引き上げるとしましょう」
星皇社長は腰を落として居合君と目線を合わせると、少しだけ言葉を交わす。
ただそれを終えると、ゼノアークさんを連れてそのまま早々に立ち去ってしまった。
その時の表情はどこか寂しそうでもあり、憂いを帯びていたと言うべきか。
――もしかすると、居合君の姿に亡くなった息子さんを重ねたのかもしれない。
もしそうだとしたら、星皇社長には悪いことをしてしまったかもしれない。
あの人にとって息子さんがなくなった過去は、それこそ時を巻き戻してでも取り戻したい過去だ。
「……とりあえず、居合君の正体はバレずに済んだか」
「そうみたいだね。居合君も居合君だよ? 特に問題もなかったからよかったけど、勝手に出てきたらダメじゃんか」
そもそもの話、居合君がアタシの言いつけを守って出てこなければよかった話ではある。
母親でもないアタシが言えた義理ではないが、ここはしっかりしつけの意味でも言い聞かせて――
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