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大凍亜連合編・起
ep125 川の字で寝よう!
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夕食も終わり、三人ともお風呂に入り終え、寝る準備も整えた。
居合君用のパジャマも即席とはいえ用意できたし、後は布団に潜ってグッナイすればいいだけの話。
なのだが――
「ねえ、居合君? 本当にこれでいいの? てか、タケゾーが一番大丈夫?」
「うん。ボク、これがいい」
「お、俺もまあ、間に居合君が入ってるし……」
――居合君の提案により、本日は広いリビングに布団を三つ敷いて寝ることになった。
アタシ、居合君、タケゾー。新たな住人を加えて川の字で寝る光景。まさか、こんな日が来るとは思わなかった。
――ただ気になるのはタケゾーの精神。アタシと一緒に寝ると、狼になっちゃう可能性がある旦那様だ。
一応は一緒に寝てくれてるけど、本当に大丈夫なのかな? 居合君が間に入ってるから、完全な隣同士にはなってないからなんとかなるかな?
「あ、安心しろ。俺もこんな子供がいる場面で理性を失い、隼をお、襲ったりはしない」
「だったら、声を震わせないで言って欲しいもんだねぇ。でもまあ、アタシも流石に居合君がいる場面でのアレコレは勘弁願うよ」
割と本当に大丈夫なのか心配になるタケゾーだけど、かといってこちらからあれこれできることもない。
まあ、タケゾーも居合君のことは気にしてるから、ここで狼化はないと見ていいだろう。
――そもそも、タケゾーって大概ヘタレだし。
「みんなで一緒に寝る。みんなと一緒が安心」
「居合君って、こうやってみんなと一緒にいるのが好きなのかい?」
「うん、好き。お姉さんとお兄さんも好き。ボク、ずっと一緒にいたい」
「健気なことを言ってくれるもんだねぇ。まあ、アタシにも責任があるから、しばらくの面倒は見てやんよ」
肝心の居合君の方については、要望通りに川の字で寝られてご満悦といった様子だ。
その素直で健気な言葉を聞いて、アタシも思わず頭を撫でながら言葉を返す。
――こうやっていると、本当にこの子が人造人間だとは思えない。
確かな感情があり、自らの意志も持っている。ご飯も食べるし、言い聞かせれば心だって成長する。
もしもこの子が本当に大凍亜連合に作られた存在であっても、その裏にどんな思惑が潜んでいたとしても、アタシはこの子を守ってあげたい。
――これが母性というものなのかもね。
■
「ふあ~……よく寝た。……って、あれ?」
「じゅ……隼……。た、助けてくれ……」
そして翌朝。リビングに差し込む陽の光で、アタシも目を覚ました。
三人で横になって寝るなんて、思えばアタシも幼い頃に父さんや母さんとやって以来だった。
あの時からアタシは寝相が悪くて、朝起きるといつの間にか父さんの上に乗っかってたりしたっけ。
「た、頼む……。せめて、顔から胸を……ガクッ……」
「タ、タケゾー!? ご、ごめん! 生きてる!?」
それをまさか、この歳になってまたやるとは思わなかった。
いつの間にやら、アタシはうつ伏せの態勢でタケゾーの真上に。しかも、丁度タケゾーの顔にアタシの胸を押し当てる感じで。
それに気付いて慌てて飛び起きるも、アタシの胸プレスを食らったタケゾーは大の字になってピクリともしない。
なんだか『ガクッ』って力が抜ける声もわずかに聞こえたし、この展開はどう考えてもアレだ。
――ヤバい。新婚なのに、胸で旦那を殺してしまった。
「あ、危うく死ぬかと思った……」
「よ、よかった。生きてた……」
「流石に愛する嫁の胸で死ぬだなんて、死んでも死に切れん。……いや、むしろ本懐ではあったかもしれない」
「朝から何を言ってんだか。脳に酸素が行ってないんじゃない?」
「血液は嫌という程行き渡ってるんだがな……」
「あー。そんだけ言う余裕があるなら大丈夫だねぇ」
とまあ冗談はさておき、タケゾー自身も冗談を言えるぐらいには大丈夫なようだ。
鼻元を押さえながら起き上がり、イソイソと台所へと向かうタケゾー。まさか、鼻血を出しちゃったとか?
アタシも自分で言う話ではないんだけど、胸には自信があるんだよね。色々な方面で。
タケゾーもおっぱい星人気質だし、物理的にも精神的にもかなりダメージを負ったみたいだ。スケベ的な意味でも。
――まあ、そもそもはアタシの寝相の悪さが原因なんだけどね。
「てか、あれ? 居合君は? 居合君はどこにいったのさ?」
タケゾーとのちょっとした朝の胸事件も落ち着くと、アタシは再度並んだ布団に目を向け直す。
よく考えると、アタシとタケゾーの間では居合君が寝ていたはずだ。それなのに、アタシはそんな居合君の布団も転がり超えてタケゾーのもとまで行ってしまった。
まさかアタシは夜な夜な、居合君のことを転がり潰してしまって――
ブゥン! ブゥン!
「あれ? 庭の方から物音が……?」
――などと心配はしたが、そもそも居合君は布団の上にもいなかった。
代わりに庭の方から聞こえてくる、何かを振るうような物音。
アタシも気になって、窓を開けて確認してみると――
「百三十一、百三十二、百三十三……」
「おお? 朝から剣の稽古をしてたのかい? 真面目なもんだねぇ」
――そこにいたのは、刀で素振りをする居合君の姿だった。
いつからやってるのか知らないけど、もう百回以上も素振りしてるのか。人造人間とはいえ、探求心も持っているとは感心だ。
ただその姿を見てると、やっぱりショーちゃんのことを思い出してしまう。
ショーちゃんも高校時代、朝早くから体育館の裏でこうやって朝練をしてたっけ。
居合君はショーちゃんをベースに作られたっぽいけど、ショーちゃん自身ではない。
それでも、どうしてもその姿がダブって見えちゃうのよね。
「お姉さん、おはよう。勝手に練習するの、ダメなことだった?」
「ダメじゃないさ。でもまあ、練習するならそういう刃のついた真剣はやめた方がいいかな? 危ないからさ」
「危ない……。刀を人に向けることも危ないこと?」
「うん。危ないことだね。昨日だって、アタシだから大丈夫みたいなもんだったし」
「……ごめんなさい。ボク、悪いことばっかりしてた」
「反省してるなら構わないさ。今度から気を付けようね」
居合君もアタシの方に気付くと、素振りをやめてこちらに近づいてきた。
練習に水を差す発言をしてしまったが、そこも説明すると居合君はきちんと理解してくれる。
こういう姿だけ見ると、本当にただ素直な子供だよね。
――そんな居合君が人造人間だと考えると、同時に恐ろしさもこみ上げてくる。
既存の人間を改造したのではなく、完全にゼロから人間を作り出されたのにこの再現度だ。
特に思考を司るその人工知能に関して言えば、本当によくぞここまで再現できたものだと思う。
学習や反省、礼儀や謝罪。ここまでくると最早AIとも呼べない。
そんな新人類とも言うべき居合君を作った技術は素直に恐ろしい。
だけど、こうやって人間と同じように学習できるのなら幸いだ。
これからアタシやタケゾーで、この子をしっかり育てられたらいいなと思えてくる。
――なんだか、子育てしてる気分だ。
「おーい、二人とも。朝食ができたぞー」
「お? いつの間にかタケゾーが朝ごはんを作ってくれたみたいだね。一緒に食べよっか」
「うん。お兄さんのご飯、おいしい。食べる」
ちょっと居合君と庭で語り合っていると、タケゾーが朝食の声をかけてくれた。
これから色々と調べることもあるわけだ。腹が減ったは戦もできぬ。
というわけで、アタシも居合君を連れて食卓に――
「対象発見……。捕縛開始……」
――向かおうとしたその時、工場の屋根の上から誰かの声が聞こえてきた。
それはアタシも耳にしたことのある、どこか機械的な声。
意志があるようなないような、ロボットとも人間とも受け取れるこの声は――
「インサイドブレード……。捕縛任務遂行……」
「ケ、ケースコーピオン……!?」
居合君用のパジャマも即席とはいえ用意できたし、後は布団に潜ってグッナイすればいいだけの話。
なのだが――
「ねえ、居合君? 本当にこれでいいの? てか、タケゾーが一番大丈夫?」
「うん。ボク、これがいい」
「お、俺もまあ、間に居合君が入ってるし……」
――居合君の提案により、本日は広いリビングに布団を三つ敷いて寝ることになった。
アタシ、居合君、タケゾー。新たな住人を加えて川の字で寝る光景。まさか、こんな日が来るとは思わなかった。
――ただ気になるのはタケゾーの精神。アタシと一緒に寝ると、狼になっちゃう可能性がある旦那様だ。
一応は一緒に寝てくれてるけど、本当に大丈夫なのかな? 居合君が間に入ってるから、完全な隣同士にはなってないからなんとかなるかな?
「あ、安心しろ。俺もこんな子供がいる場面で理性を失い、隼をお、襲ったりはしない」
「だったら、声を震わせないで言って欲しいもんだねぇ。でもまあ、アタシも流石に居合君がいる場面でのアレコレは勘弁願うよ」
割と本当に大丈夫なのか心配になるタケゾーだけど、かといってこちらからあれこれできることもない。
まあ、タケゾーも居合君のことは気にしてるから、ここで狼化はないと見ていいだろう。
――そもそも、タケゾーって大概ヘタレだし。
「みんなで一緒に寝る。みんなと一緒が安心」
「居合君って、こうやってみんなと一緒にいるのが好きなのかい?」
「うん、好き。お姉さんとお兄さんも好き。ボク、ずっと一緒にいたい」
「健気なことを言ってくれるもんだねぇ。まあ、アタシにも責任があるから、しばらくの面倒は見てやんよ」
肝心の居合君の方については、要望通りに川の字で寝られてご満悦といった様子だ。
その素直で健気な言葉を聞いて、アタシも思わず頭を撫でながら言葉を返す。
――こうやっていると、本当にこの子が人造人間だとは思えない。
確かな感情があり、自らの意志も持っている。ご飯も食べるし、言い聞かせれば心だって成長する。
もしもこの子が本当に大凍亜連合に作られた存在であっても、その裏にどんな思惑が潜んでいたとしても、アタシはこの子を守ってあげたい。
――これが母性というものなのかもね。
■
「ふあ~……よく寝た。……って、あれ?」
「じゅ……隼……。た、助けてくれ……」
そして翌朝。リビングに差し込む陽の光で、アタシも目を覚ました。
三人で横になって寝るなんて、思えばアタシも幼い頃に父さんや母さんとやって以来だった。
あの時からアタシは寝相が悪くて、朝起きるといつの間にか父さんの上に乗っかってたりしたっけ。
「た、頼む……。せめて、顔から胸を……ガクッ……」
「タ、タケゾー!? ご、ごめん! 生きてる!?」
それをまさか、この歳になってまたやるとは思わなかった。
いつの間にやら、アタシはうつ伏せの態勢でタケゾーの真上に。しかも、丁度タケゾーの顔にアタシの胸を押し当てる感じで。
それに気付いて慌てて飛び起きるも、アタシの胸プレスを食らったタケゾーは大の字になってピクリともしない。
なんだか『ガクッ』って力が抜ける声もわずかに聞こえたし、この展開はどう考えてもアレだ。
――ヤバい。新婚なのに、胸で旦那を殺してしまった。
「あ、危うく死ぬかと思った……」
「よ、よかった。生きてた……」
「流石に愛する嫁の胸で死ぬだなんて、死んでも死に切れん。……いや、むしろ本懐ではあったかもしれない」
「朝から何を言ってんだか。脳に酸素が行ってないんじゃない?」
「血液は嫌という程行き渡ってるんだがな……」
「あー。そんだけ言う余裕があるなら大丈夫だねぇ」
とまあ冗談はさておき、タケゾー自身も冗談を言えるぐらいには大丈夫なようだ。
鼻元を押さえながら起き上がり、イソイソと台所へと向かうタケゾー。まさか、鼻血を出しちゃったとか?
アタシも自分で言う話ではないんだけど、胸には自信があるんだよね。色々な方面で。
タケゾーもおっぱい星人気質だし、物理的にも精神的にもかなりダメージを負ったみたいだ。スケベ的な意味でも。
――まあ、そもそもはアタシの寝相の悪さが原因なんだけどね。
「てか、あれ? 居合君は? 居合君はどこにいったのさ?」
タケゾーとのちょっとした朝の胸事件も落ち着くと、アタシは再度並んだ布団に目を向け直す。
よく考えると、アタシとタケゾーの間では居合君が寝ていたはずだ。それなのに、アタシはそんな居合君の布団も転がり超えてタケゾーのもとまで行ってしまった。
まさかアタシは夜な夜な、居合君のことを転がり潰してしまって――
ブゥン! ブゥン!
「あれ? 庭の方から物音が……?」
――などと心配はしたが、そもそも居合君は布団の上にもいなかった。
代わりに庭の方から聞こえてくる、何かを振るうような物音。
アタシも気になって、窓を開けて確認してみると――
「百三十一、百三十二、百三十三……」
「おお? 朝から剣の稽古をしてたのかい? 真面目なもんだねぇ」
――そこにいたのは、刀で素振りをする居合君の姿だった。
いつからやってるのか知らないけど、もう百回以上も素振りしてるのか。人造人間とはいえ、探求心も持っているとは感心だ。
ただその姿を見てると、やっぱりショーちゃんのことを思い出してしまう。
ショーちゃんも高校時代、朝早くから体育館の裏でこうやって朝練をしてたっけ。
居合君はショーちゃんをベースに作られたっぽいけど、ショーちゃん自身ではない。
それでも、どうしてもその姿がダブって見えちゃうのよね。
「お姉さん、おはよう。勝手に練習するの、ダメなことだった?」
「ダメじゃないさ。でもまあ、練習するならそういう刃のついた真剣はやめた方がいいかな? 危ないからさ」
「危ない……。刀を人に向けることも危ないこと?」
「うん。危ないことだね。昨日だって、アタシだから大丈夫みたいなもんだったし」
「……ごめんなさい。ボク、悪いことばっかりしてた」
「反省してるなら構わないさ。今度から気を付けようね」
居合君もアタシの方に気付くと、素振りをやめてこちらに近づいてきた。
練習に水を差す発言をしてしまったが、そこも説明すると居合君はきちんと理解してくれる。
こういう姿だけ見ると、本当にただ素直な子供だよね。
――そんな居合君が人造人間だと考えると、同時に恐ろしさもこみ上げてくる。
既存の人間を改造したのではなく、完全にゼロから人間を作り出されたのにこの再現度だ。
特に思考を司るその人工知能に関して言えば、本当によくぞここまで再現できたものだと思う。
学習や反省、礼儀や謝罪。ここまでくると最早AIとも呼べない。
そんな新人類とも言うべき居合君を作った技術は素直に恐ろしい。
だけど、こうやって人間と同じように学習できるのなら幸いだ。
これからアタシやタケゾーで、この子をしっかり育てられたらいいなと思えてくる。
――なんだか、子育てしてる気分だ。
「おーい、二人とも。朝食ができたぞー」
「お? いつの間にかタケゾーが朝ごはんを作ってくれたみたいだね。一緒に食べよっか」
「うん。お兄さんのご飯、おいしい。食べる」
ちょっと居合君と庭で語り合っていると、タケゾーが朝食の声をかけてくれた。
これから色々と調べることもあるわけだ。腹が減ったは戦もできぬ。
というわけで、アタシも居合君を連れて食卓に――
「対象発見……。捕縛開始……」
――向かおうとしたその時、工場の屋根の上から誰かの声が聞こえてきた。
それはアタシも耳にしたことのある、どこか機械的な声。
意志があるようなないような、ロボットとも人間とも受け取れるこの声は――
「インサイドブレード……。捕縛任務遂行……」
「ケ、ケースコーピオン……!?」
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