空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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想い続けた幼馴染編

ep66 タケゾー「あの日の傷はまだ癒えてない」

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「服を脱ぎたくない……ですか? ですがそのままですと、空鳥さんも不快なままかと思います」
「俺と武蔵は当然外に出ててやるから、隼ちゃんも洗居に遠慮せず、ちょっと綺麗にしてもらった方がいいだろ? な?」

 洗居さんは善意で隼の服を洗おうとしてくれている。玉杉さんも同じように悪意はない。
 それでも隼にとって『人前で服を脱ぐという』ことは、他の人とは違うことを意味してしまう。

「二人の気持ちは嬉しいけど、アタシはその……肌を見せたくないというか……」
「洗居さん、玉杉さん。お気持ちはありがたいのですが、隼も嫌がってるので、どうかここは黙ってそのままにしてはくれませんか?」

 隼も二人が決して悪気があって言っているわけではないことは理解しているが、それでも頑なにその厚意を断る続ける。
 俺も隼がこうなる事情は知っているので、どうにか二人にも察してもらおうと口を挟む。
 本当は詳しい事情も説明した方がいいのだが、洗居さんも玉杉さんもお互いに顔を見合わせると、空気を呼んでこれ以上の言及は控えてくれた。

「だったらよ、俺の車で二人を家まで送ってやろうか? このままデートを続けるのも厳しいし、残念だけど今日の所はお開きにしてさ?」
「玉杉店長もご家族とここに来られているはずですが、そちらはよろしいのですか?」
「なーに。嫁と娘にはしばらくここでうろついてもらってるし、俺も事情を説明すれば二つ返事で納得してくれるさ。家族の迎えについては、また俺がここに戻って来ればいいだけの話だしな」

 この場で服の洗濯が無理だと判断すると、玉杉さんが今度は車で俺と隼を送ってくれることを提案してくれた。
 そのためにわざわざご家族の了承まで取ってくれる辺り、玉杉さんは本当にいい人だ。人は見かけによらないとは、よく言ったものである。

 ――でも、それも隼にはあまり都合のいい話ではない。



「……ごめん、玉杉さん。アタシ、車もちょっと……」
「やっぱり、まだ厳しいのか?」
「乗ってるだけならなんとかなるけど、動くとどうしても怖くなる……」



 俺も軽く尋ねてみたが、やはり隼は今でも車を乗ることへの抵抗は持っているようだ。
 玉杉さんの厚意に対しても、申し訳なさそうに断る隼。普段からは想像もできない姿を見て、玉杉さんも洗居さんもこれ以上は何かを提案したりはしないでいてくれた。

「……隼ちゃんにも、何か事情があることは俺も分かった」
「タケゾーさん。私達では空鳥さんの詳しいことまでは理解できません。申し訳ございませんが、後のことをよろしくお願いします」
「いえ、お二人の気遣いには感謝してます。また機会があれば、俺からも説明します」

 その後、俺は隼を連れて玉杉さんと洗居さんのもとを後にした。
 その間、隼はずっと落ち込んでしまっていた。失くしたキーホルダーも戻って来たが、それとは別の落ち込み方だ。

 ――俺は隼がこうなってしまったことについて、よく理解してる。

「……ごめんね、タケゾー。なんだか、アタシのことでばっかり、心配させちゃったみたいでさ……」
「気にするな。それよりも、やっぱりまだあの日のことは辛いか?」
「うん……辛い。タケゾーは知ってるから話せるけど、やっぱり火傷や車のことはどうしても切り離せなくって……」

 ショッピングモールも後にし、俺と隼は帰りの電車に乗るために駅へと向かう。
 その最中、隼は俺にだけ聞こえるような小さな声で、少しだけ自らの心境を語ってくれた。
 俺もそのわずかな言葉から、隼の心の中に今もあの日のトラウマが根付いていることを確信する。

 ――今から二年程前、隼とその両親の運転する車が山道を走っていると、崖下へと転落する事故が発生した。
 原因は対向車のトラックを避けようとした間際、雨で滑りやすくなっていたカーブでスリップしたことによるもの。
 その事故により、隼の両親は他界。隼自身は一命をとりとめたが、それでも大きな後遺症が残ってしまった。

「やっぱ、この火傷はあんまり人に見せたくないんだよね……」

 一つは事故による火災に隼が巻き込まれてしまったことによる、下腹部の火傷跡。
 今でも隼は気にしているらしく、自らの太もも辺りを触りながら、どこか悲しそうな声で語っている。

「空色の魔女の能力で、どうにかならないのか?」
「アタシがこの能力を手に入れたのは、つい最近の話だからねぇ。細胞そのものが『火傷まで含めて正常状態』と判断しちゃったのか、火傷までは回復しないんだよねぇ」

 隼の持つ回復細胞とやらでも、その火傷を治すことまではできないようだ。
 どうにかいつもの調子で話そうとする隼だが、その表情はどこか物悲しい。

 その火傷を背負って以来、隼はそのことを気にして、人前で脚部の露出が増える服装はしなくなった。
 空色の魔女の時のようにスカートを履く時だって、デニムの厚いタイツを履いている。

 ――隼にとって火傷跡は誰にも見られたくなく、触れられたくもない忌まわしい過去の象徴の一つだ。
 火傷のことを考えると、隼も亡くなった両親のことを思い出してしまうらしい。

「車もさ、止まってる分には大丈夫なんだよ。前にタケゾーの親父さんに車内で職質されたけど、あの時はアタシもテンパってたからね。もしも車が動いてたらと思うと、やっぱり怖かったかな……」
「親父もその段階で、空色の魔女の正体が隼だってことには勘付いてたんだろ。だから車を動かさず、誰にも聞かれない場所での話だけで済ませたんだろうな」

 それともう一つ、隼は事故の日以降、車に乗ることを怖がっている。
 空色の魔女として空を飛ぶことはできても、普通の人のように車に乗ることはできない。
 車内という空間とその身に感じる運転の衝撃が、隼のトラウマを想起させてしまうようだ。

「電車やバスはまだ大丈夫なんだけど、自家用車とかになるとどうしても……ね。……本当にごめんね、タケゾー。アタシのせいで、色々と迷惑かけちゃってさ……」
「バーカ。そんなことで謝るなっての。俺も隼の事情については、これでもしっかり理解してる。理解したうえで、お前に告白したんだからな」

 どんなに超人的な空色の魔女という力を持っていても、どんなに正義感に満ち溢れていても、隼にだって辛くて乗り越えきれない過去はある。
 もっとも、俺は隼のそういった側面も支えたくて、交際を申し出たのだ。こんなことは迷惑でもなんでもない。

「別にちょっと肌を見せるのが苦手でも、車でどこかに行けなくても、それ以外にやれることはいくらでもあるだろ? それに、俺は隼が無理をして我慢するのが一番嫌だ」
「……タケゾーって、チョクチョクくすぐったいことを言うよね。これまでずーっとアタシに告白できなかった草食系とは思えないほど『らしくない』発言じゃない?」
「お前の方こそそんなにしおらしいと、普段の破天荒ぶりに対してあまりに『らしくない』だろ。お互い様って奴だ」
「お~? 言うねぇ? でもまあ、車で恋人とどこかに行ったりってのはアタシも憧れてるし、代替案でも考えてみる? アタシが空色の魔女になって、タケゾーと一緒に空を飛んでみるとか?」
「……それはやめてくれ。こっちは普通の人間なんだ。あの高度とスピードは怖い」

 そんな俺の本心も含めて話をしていると、自然と隼の表情にも柔らかさが戻ってくる。
 声の明るさも同じように戻り、俺とのやり取りも普段通りになっていく。

 ――やっぱり、こういったいつも通りのやり取りがないと、俺と隼の関係はしっくり来ない。

「でもまあ、そうだねぇ……。タケゾーになら、特別に許可してもいいかな?」
「許可? 何を?」

 そうこう帰り道を歩いていると、隼が後ろ手に組みながら、俺の前方へと回り込んで来た。
 丁度夕陽と重なり、隼の清楚系お嬢様な恰好と相まって、どこか幻想的にも見えてしまう。

 そんな魅了されてしまいそうな背景をバックに、隼は俺の顔を見ながら笑顔で語る――



「タケゾーなら、アタシの裸を見ても構わないぞ?」
「……そんなことをいちいち言わなくてもいい」



 ――語ってくれた内容はある意味ありがたいのだが、この光景とはビックリするほど合わない。
 せめてもう少しぐらい、ムードを考えて欲しいとも思う。

 ――ただ、そんなところも隼らしい。

「俺も少し、考えてみるか」
「ん? 何を?」
「今は秘密だ」
「え~? ケチ~」

 隼の火傷の件は別として、車に乗れないことについては俺の方でも代替案がある。
 少し金はかかるが、こうやって正式に交際も始めたことだ。俺の方でも準備をしてみよう。



 ――俺だって、隼と二人きりで遠出はしてみたい。
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