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魔女の誕生編
ep36 なんだか険悪な空気になっちゃった……。
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「ふい~……。今日も一日、疲れたもんだ」
清掃の仕事を抜け出し、オヤジ狩りも無事に撃退。
その後も迷子の親探しをしてたら、すっかり陽が暮れてしまった。
アタシだって超人パワーがあるとはいえ、れっきとした人間だ。疲れは溜まる。
「こういう時は、玉杉さんのところで一杯やろうかね! おっじゃましまーす!」
そして、その疲れを癒すためには酒が一番だ。生体コイル用の燃料をチャージできれば、この疲れも吹っ飛ぶってもんよ。
そんなわけで、意気揚々と扉を開けて店内へと入ったのだが――
「……来たか、空鳥。ちょっと話がある。そこに座れ」
「……はへぇ?」
――最初に目と耳に入って来たのは、テーブルに座るタケゾーのどこか怒った顔と声。
他のお客さんはおらず、実質店はアタシ達知った人間同士の貸し切り状態。
店員である玉杉さんと(例のごとく接客用のメイド服に着替えてる)洗居さんはカウンターの裏で、どこか申し訳なさそうにしている。
――これ、どういう状況?
「タ、タケゾー? そんなに怒って、どしたの?」
「いいからそこに座れ。俺からちょっと言いたいことがある」
「は、はい……」
こんなタケゾーは始めて見るかもしれない。静かな怒りを秘めて、完全にお冠だ。
これはアタシも従わざるを得ない。なんだか怖いので、案内された通り向かいの椅子に腰かける。
「空鳥さ? 最近、本当は何してるわけ?」
「へ? 何してるとはどういう意味で?」
「ここのところのお前の様子はどうにもおかしい。洗居さんとの仕事で忙しいだけかと思ったが、今日も急にどこかへ消えたんだって? あの巨大怪鳥が出た時も急に姿をくらましたし、本当に何をやってるんだ?」
「そ、それは……」
そしてタケゾーから尋ねられるのは、アタシが空色の魔女として活動するために、何度も急にいなくなっていた件だ。アタシが清掃業務中にいなくなったことについてまで言及してくる。
そーっと洗居さんの方に目を向けてみると『申し訳ございません。問い詰められて誤魔化しきれませんでした』といった、本当に申し訳なさそうなアイコンタクトを送ってくる。
まあ、洗居さんを責めるのは違うよね。あの人、真面目過ぎるから問い詰められたら隠しきれる人じゃないもん。
そもそもの話、これはアタシの問題だ。本来ならば、アタシが迷惑をかけずに説明するべきだ。
――とはいえ、流石に本当のことは言えない。
「い、いや~……。実は急に別件で呼び出されたりで――」
「いい加減にしろ! お前が何かを隠してるのは分かってるんだ! 素直に何をしてるのか、俺にも話してくれ!!」
「ひいぃ!?」
なんとか誤魔化そうとはしてみるものの、タケゾーの怒号に遮られてしまう。
これまで長い付き合いだったが、タケゾーがここまで怒りを露にするのは本当に初めてだ。
アタシのことを心配してくれているのは分かる。それでも、限度があるのではないだろうか?
――アタシもちょっと腹が立ってきた。
「何さ! タケゾーはアタシの保護者か何か!? アタシにだって、話したくないことの一つや二つはあるよ!? そんなことまで、タケゾーに言わないといけないわけ!?」
「お前が隠しすぎてるし、自ら危険に飛び込みすぎるからだ! 俺は本当にお前のことが心配なだけなんだ! 何も危険な目に遭ってないのなら、素直に何をしているのかを話せ!」
「いつにも増してうるさい男だねぇ! そっちこそ、部屋にアタシの水着写真を飾ってたじゃんか!?」
「今そのことは関係ない! さあ! 俺の質問に答えてくれ! 空鳥ぃ!!」
そんな苛立ちからか、思わずこちらも語気を強くして言い返してしまう。
次第にヒートアップしてしまい、お互いに机から体を乗り出して叫び合う。
タケゾーの秘密の写真のことも交えてみるが、それでもタケゾーが引く様子はない。
これまでとは明らかに違い、意地でもアタシの秘密を探ろうとしてくる。本当にしつこい。鬱陶しさをも覚えてしまう。
「だったら、なんで……なんであんたはそんなにアタシのことばっかり気に掛けるんだい!? アタシなんて、タケゾーからしてみてもちょっと親しい幼馴染なだけじゃんか!?」
「それがどうこうじゃないんだ! 俺はただ、お前が危ない目に遭ってないか心配で――」
「本っっ当にしつこい男だね! もう知らない! タケゾーのバカァアア!!」
もうアタシも限界だった。気がつけばタケゾーへの怒りが抑えられず、一人で店から飛び出していた。
アタシのことが心配だって? もうお互いいい歳なのに、余計なお世話ってもんだよ。
こっちだって、空色の魔女のことで色々と悩んでるんだ。教えられないことだってある。
アタシの正体がタケゾーにも知れ渡れば、あいつも危険に晒される。
どれだけ執拗に問い詰められようとも、タケゾーの身の安全には代えられない。
アタシのせいでタケゾーの身に危険が迫るなんて、そんなことは耐えられない。
――アタシだって、タケゾーのことが心配なんだ。
「ひっく……えっぐ……! タケゾーの……バカァ……!」
いつの間にかアタシは店を出た後、人のいない路地裏で泣きながら座り込んでいた。
本当は分かってる。タケゾーだって、今のアタシと同じ気持ちのはずだ。
タケゾーとアタシの立場が逆だったら、こっちだって問い詰めていたはずだ。
それでも本当のことは言えない。言ってしまえば、これまでの決心が鈍ってしまう。
――本当はタケゾーにも話しておきたいけど、これ以上の心配をかけるのはもっと嫌だ。
「……やれやれ。おーい。隼ちゃんやーい? こんなところで泣いてたら、怪しまれるぞ~?」
「……はえ? 玉杉さん?」
そうやって一人、乱れた心を抱えながら泣きじゃぐっていると、玉杉さんがしゃがみながらアタシの顔を覗き込んで来た。
思えば、アタシも急に店を飛び出してしまったんだった。玉杉さんにまで迷惑をかけてしまった。
「ごめんね、玉杉さん……。アタシとタケゾーのせいで、迷惑かけちゃって……。店の方は大丈夫なの?」
「別に迷惑だとも思ってねえさ。店の方は洗居が見てくれてる。どうやら、あいつが迂闊に口を滑らせたのが原因らしくてな。隼ちゃんにも武蔵にも申し訳なさそうにしてたぞ」
「洗居さんは悪くないよ……。悪いのはタケゾーにちゃんと話ができない、アタシの方だから……」
二十歳になったとはいえ、アタシもまだまだ子供のようだ。
子供みたいに喧嘩して、玉杉さんや洗居さんにまで迷惑をかけている。
タケゾーはまだ怒ってるのかな? 謝ったら許してくれるかな?
本当のことは言えないけど、それでも分かってくれるかな?
――そんなのは全部、アタシのワガママだよね。
「……ハァ~。お前も武蔵も、本当に似たり寄ったりだな。あっちもあっちで『空鳥にきつく言い過ぎた。あいつが言いたくないことを、あそこまで問い詰めなくてもよかった』って、後悔してやがったぞ?」
「え? タケゾーが……?」
「ああ。武蔵も自分で言っててショックを受けたらしく、今日はもうそのまま帰ってったよ」
アタシがまだ悩んでいると、玉杉さんがその後のタケゾーの様子を語ってくれた。
なんでタケゾーが後悔してんの? 悪いのは逆ギレして、何も喋ろうとしないアタシだよね?
「俺は詳しい事情なんて知らねえし、こいつは二人の問題だ。だがよ、結局は隼ちゃんもタケゾーも、お互いのことを考えすぎてるってのは分かる。考えすぎてるから、意見がぶつかることだってある。隼ちゃんが何を言いづらいのかは知らねえが、十分に歩み寄って理解し合える範疇だとは思うぜ?」
「うん……そうだね。やっぱ、玉杉さんは人がいいね。顔は怖いのに、家庭を持つ人間は違うねぇ」
「別にそこまでいい人でもねえし、顔が怖い云々は余計だっての」
玉杉さんの話を聞いていると、アタシもだいぶ落ち着いてきた。
結局、アタシとタケゾーは似た者同士だ。だからこそ、ここまで幼馴染の関係が続いてきたのかもしれない。
――それでも、玉杉さんの言葉で少しだけ勇気が出てきた。
やっぱり、このままは駄目だ。タケゾーも申し訳なく思ってるそうだけど、ここはアタシの方から謝りに行こう。
「ありがとね、玉杉さん。また今度、洗居さんにも謝罪に行くよ。でも、今はタケゾーの方を優先させてもらうね」
「ああ。洗居には俺からも説明してやるから、さっさと行ってこい」
玉杉さんに一度頭を下げ、アタシはタケゾーの家へと走り出す。
もう夜も遅いし、迷惑かもしれない。それでも、アタシはそうせずにはいられない。
――このままタケゾーとの関係にヒビが入ったままなんて、アタシは嫌だ。
清掃の仕事を抜け出し、オヤジ狩りも無事に撃退。
その後も迷子の親探しをしてたら、すっかり陽が暮れてしまった。
アタシだって超人パワーがあるとはいえ、れっきとした人間だ。疲れは溜まる。
「こういう時は、玉杉さんのところで一杯やろうかね! おっじゃましまーす!」
そして、その疲れを癒すためには酒が一番だ。生体コイル用の燃料をチャージできれば、この疲れも吹っ飛ぶってもんよ。
そんなわけで、意気揚々と扉を開けて店内へと入ったのだが――
「……来たか、空鳥。ちょっと話がある。そこに座れ」
「……はへぇ?」
――最初に目と耳に入って来たのは、テーブルに座るタケゾーのどこか怒った顔と声。
他のお客さんはおらず、実質店はアタシ達知った人間同士の貸し切り状態。
店員である玉杉さんと(例のごとく接客用のメイド服に着替えてる)洗居さんはカウンターの裏で、どこか申し訳なさそうにしている。
――これ、どういう状況?
「タ、タケゾー? そんなに怒って、どしたの?」
「いいからそこに座れ。俺からちょっと言いたいことがある」
「は、はい……」
こんなタケゾーは始めて見るかもしれない。静かな怒りを秘めて、完全にお冠だ。
これはアタシも従わざるを得ない。なんだか怖いので、案内された通り向かいの椅子に腰かける。
「空鳥さ? 最近、本当は何してるわけ?」
「へ? 何してるとはどういう意味で?」
「ここのところのお前の様子はどうにもおかしい。洗居さんとの仕事で忙しいだけかと思ったが、今日も急にどこかへ消えたんだって? あの巨大怪鳥が出た時も急に姿をくらましたし、本当に何をやってるんだ?」
「そ、それは……」
そしてタケゾーから尋ねられるのは、アタシが空色の魔女として活動するために、何度も急にいなくなっていた件だ。アタシが清掃業務中にいなくなったことについてまで言及してくる。
そーっと洗居さんの方に目を向けてみると『申し訳ございません。問い詰められて誤魔化しきれませんでした』といった、本当に申し訳なさそうなアイコンタクトを送ってくる。
まあ、洗居さんを責めるのは違うよね。あの人、真面目過ぎるから問い詰められたら隠しきれる人じゃないもん。
そもそもの話、これはアタシの問題だ。本来ならば、アタシが迷惑をかけずに説明するべきだ。
――とはいえ、流石に本当のことは言えない。
「い、いや~……。実は急に別件で呼び出されたりで――」
「いい加減にしろ! お前が何かを隠してるのは分かってるんだ! 素直に何をしてるのか、俺にも話してくれ!!」
「ひいぃ!?」
なんとか誤魔化そうとはしてみるものの、タケゾーの怒号に遮られてしまう。
これまで長い付き合いだったが、タケゾーがここまで怒りを露にするのは本当に初めてだ。
アタシのことを心配してくれているのは分かる。それでも、限度があるのではないだろうか?
――アタシもちょっと腹が立ってきた。
「何さ! タケゾーはアタシの保護者か何か!? アタシにだって、話したくないことの一つや二つはあるよ!? そんなことまで、タケゾーに言わないといけないわけ!?」
「お前が隠しすぎてるし、自ら危険に飛び込みすぎるからだ! 俺は本当にお前のことが心配なだけなんだ! 何も危険な目に遭ってないのなら、素直に何をしているのかを話せ!」
「いつにも増してうるさい男だねぇ! そっちこそ、部屋にアタシの水着写真を飾ってたじゃんか!?」
「今そのことは関係ない! さあ! 俺の質問に答えてくれ! 空鳥ぃ!!」
そんな苛立ちからか、思わずこちらも語気を強くして言い返してしまう。
次第にヒートアップしてしまい、お互いに机から体を乗り出して叫び合う。
タケゾーの秘密の写真のことも交えてみるが、それでもタケゾーが引く様子はない。
これまでとは明らかに違い、意地でもアタシの秘密を探ろうとしてくる。本当にしつこい。鬱陶しさをも覚えてしまう。
「だったら、なんで……なんであんたはそんなにアタシのことばっかり気に掛けるんだい!? アタシなんて、タケゾーからしてみてもちょっと親しい幼馴染なだけじゃんか!?」
「それがどうこうじゃないんだ! 俺はただ、お前が危ない目に遭ってないか心配で――」
「本っっ当にしつこい男だね! もう知らない! タケゾーのバカァアア!!」
もうアタシも限界だった。気がつけばタケゾーへの怒りが抑えられず、一人で店から飛び出していた。
アタシのことが心配だって? もうお互いいい歳なのに、余計なお世話ってもんだよ。
こっちだって、空色の魔女のことで色々と悩んでるんだ。教えられないことだってある。
アタシの正体がタケゾーにも知れ渡れば、あいつも危険に晒される。
どれだけ執拗に問い詰められようとも、タケゾーの身の安全には代えられない。
アタシのせいでタケゾーの身に危険が迫るなんて、そんなことは耐えられない。
――アタシだって、タケゾーのことが心配なんだ。
「ひっく……えっぐ……! タケゾーの……バカァ……!」
いつの間にかアタシは店を出た後、人のいない路地裏で泣きながら座り込んでいた。
本当は分かってる。タケゾーだって、今のアタシと同じ気持ちのはずだ。
タケゾーとアタシの立場が逆だったら、こっちだって問い詰めていたはずだ。
それでも本当のことは言えない。言ってしまえば、これまでの決心が鈍ってしまう。
――本当はタケゾーにも話しておきたいけど、これ以上の心配をかけるのはもっと嫌だ。
「……やれやれ。おーい。隼ちゃんやーい? こんなところで泣いてたら、怪しまれるぞ~?」
「……はえ? 玉杉さん?」
そうやって一人、乱れた心を抱えながら泣きじゃぐっていると、玉杉さんがしゃがみながらアタシの顔を覗き込んで来た。
思えば、アタシも急に店を飛び出してしまったんだった。玉杉さんにまで迷惑をかけてしまった。
「ごめんね、玉杉さん……。アタシとタケゾーのせいで、迷惑かけちゃって……。店の方は大丈夫なの?」
「別に迷惑だとも思ってねえさ。店の方は洗居が見てくれてる。どうやら、あいつが迂闊に口を滑らせたのが原因らしくてな。隼ちゃんにも武蔵にも申し訳なさそうにしてたぞ」
「洗居さんは悪くないよ……。悪いのはタケゾーにちゃんと話ができない、アタシの方だから……」
二十歳になったとはいえ、アタシもまだまだ子供のようだ。
子供みたいに喧嘩して、玉杉さんや洗居さんにまで迷惑をかけている。
タケゾーはまだ怒ってるのかな? 謝ったら許してくれるかな?
本当のことは言えないけど、それでも分かってくれるかな?
――そんなのは全部、アタシのワガママだよね。
「……ハァ~。お前も武蔵も、本当に似たり寄ったりだな。あっちもあっちで『空鳥にきつく言い過ぎた。あいつが言いたくないことを、あそこまで問い詰めなくてもよかった』って、後悔してやがったぞ?」
「え? タケゾーが……?」
「ああ。武蔵も自分で言っててショックを受けたらしく、今日はもうそのまま帰ってったよ」
アタシがまだ悩んでいると、玉杉さんがその後のタケゾーの様子を語ってくれた。
なんでタケゾーが後悔してんの? 悪いのは逆ギレして、何も喋ろうとしないアタシだよね?
「俺は詳しい事情なんて知らねえし、こいつは二人の問題だ。だがよ、結局は隼ちゃんもタケゾーも、お互いのことを考えすぎてるってのは分かる。考えすぎてるから、意見がぶつかることだってある。隼ちゃんが何を言いづらいのかは知らねえが、十分に歩み寄って理解し合える範疇だとは思うぜ?」
「うん……そうだね。やっぱ、玉杉さんは人がいいね。顔は怖いのに、家庭を持つ人間は違うねぇ」
「別にそこまでいい人でもねえし、顔が怖い云々は余計だっての」
玉杉さんの話を聞いていると、アタシもだいぶ落ち着いてきた。
結局、アタシとタケゾーは似た者同士だ。だからこそ、ここまで幼馴染の関係が続いてきたのかもしれない。
――それでも、玉杉さんの言葉で少しだけ勇気が出てきた。
やっぱり、このままは駄目だ。タケゾーも申し訳なく思ってるそうだけど、ここはアタシの方から謝りに行こう。
「ありがとね、玉杉さん。また今度、洗居さんにも謝罪に行くよ。でも、今はタケゾーの方を優先させてもらうね」
「ああ。洗居には俺からも説明してやるから、さっさと行ってこい」
玉杉さんに一度頭を下げ、アタシはタケゾーの家へと走り出す。
もう夜も遅いし、迷惑かもしれない。それでも、アタシはそうせずにはいられない。
――このままタケゾーとの関係にヒビが入ったままなんて、アタシは嫌だ。
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