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魔女の誕生編

ep22 アタシの能力は助けるためにあるんだよ!

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「お、落ちてしまいます……! た、助けて……ください……!」
「あ、洗居さん!? ヤバいって!? 落ちる寸前じゃん!?」

 アタシの目線の先にいたのは、ソニックブームで崩れ落ちた外壁にしがみつく洗居さんの姿。
 必死にしがみついてはいるが、もう今にも落ちそうだ。あの高さから落ちれば無事では済まない。

 ――アタシのせいだ。
 アタシがソニックブームを回避したせいで、洗居さんが命の危機にさらされている。


 バシィンッ!


「つうぅ!?」
「よそ見をしてる場合カ? 魔女の小娘ガァ! この宝石は頂いていくゾ!」

 そんな洗居さんのピンチに動揺して、巨大怪鳥のことが頭から抜けていた。
 アタシが持っていた宝石袋は、再度奪われてしまう。

「チイィ!? 手癖の悪い鳥なこった!」
「どうしタ? 奪い返すカ? だが、ワシとて暇ではないからナァ!」

 巨大怪鳥はアタシに少しだけ言い残すと、背を向けて逃げようとする。
 今から追えばまだ間に合うが――



「そんなことしてる暇……こっちにだってないってのぉお!!」



 ――アタシは後を追わず、百貨店の方向へと迷わず飛んでいく。
 盗まれた宝石はどうするかって? そんなことを考えている場合じゃない。
 アタシのせいで、洗居さんが今にも転落死しそうなんだ。それを助ける方が優先だ。

 超一流の清掃用務員だなんて呼ばれて、清掃魂セイソウルとかの変な造語を使ってて、こっちが心配になるほどの真面目気質で、アタシに仕事を教えてくれて、空色の魔女には不信感を抱いている。
 そうやって思うことは色々とあるが、それらは今この状況で、アタシを突き動かす要因とはならない。それらは何一つ関係ない。



 ――人の命より、重いものなどあるものか。
 アタシは人を救うために、こうして空色の魔女になったんだ。



「も、もうダメです……!」
「洗居さぁぁああん!!」

 洗居さんはとっくに限界だ。もう指先が滑り落ちつつある。
 アタシの頭の中の方も、洗居さんを救い出すことしか考えられない。
 とにかく全速力でロッドを飛ばし、洗居さんのもとへと急ぐ――



 ズルッ――

 ――ガシィ!



「ううぅ!? ……あ、あれ? 落ちてないのですか……?」
「よ、よかった! 間に合った!」



 ――そして間一髪、洗居さんが滑り落ちたところで、アタシはその体をキャッチすることができた。
 本当にギリギリのタイミング。コンマ一秒でも遅れていたら、洗居さんはそのまま地面に真っ逆さまだった。

 そもそもの原因は、アタシが迂闊に巨大怪鳥のソニックブームを回避したせいだ。
 もっと注意を払っていれば、洗居さんがこんな危険な目に遭うこともなかった。

 ――アタシのせいで、洗居さんを死なせてしまうところだった。

「あ、あなたは確か、空色の魔女様でしたか?」
「ああ、そうだよ! アタシのせいで危険な目に遭わせちゃって、本当にごめんね! 洗居さん!」

 洗居さんはアタシに抱えられたまま、目を丸くして驚いている。なんだか、理解が追い付かないって感じ。
 そりゃそうか。洗居さんからしてみれば、こうやって空を飛ぶのだって初めてだ。
 しかも噂の空色の魔女本人が登場してるし、思考回路は情報過多でショート寸前だろうね。

「ほい! お待たせ! もう地上に降りたから大丈夫さ!」
「あ、ありがとうございます……」

 そうこうしているうちに、アタシはロッドの高度をゆっくりと落して、洗居さんを地上へと降ろす。
 これで大丈夫。宝石は巨大怪鳥に盗まれちゃったけど、人の命には代えられない。
 洗居さんは相変わらず目を丸くしたまま、アタシのことを見つめてくる。
 まあ、怪我はないみたいだし、時間が経てば落ち着くでしょ。



「あ、洗居さん! 無事だったんですか!?」
「あなたは……確か、タケゾーさんでしたか」
「げっ!? タケゾー!?」



 洗居さんの無事に安心していると、遠くからタケゾーの声が聞こえてきた。
 そういえば、タケゾーも百貨店にいたんだったね。元気よく走ってるし、あっちも無事でよかった。

「タケゾーさんって……。まったく、空鳥の奴が変なあだ名をつけるから……!」
「私は無事です。一時はどうなることかと思いましたが、こちらの空色の魔女様が助けてくださりました」
「うおっ!? 本当に本物の空色の魔女だったのか! 俺もパニくってるけど、知り合いを助けてくれてありがとうな!」
「イ、イエイエ~。この程度のことなら、お気になさらずに~」

 無事なのはよかったが、今の姿でタケゾーと一緒にいるのはマズい。
 こいつはアタシの幼馴染だ。何かの拍子で空色の魔女アタシの正体がバレかねない。
 今は気付いてないようだが、そうそう長居されるわけにも――

「そ、そうだ! 洗居さん! 空鳥はどこに行ったか知りませんか!?」
「そ、空鳥さん……ですか?」
「ああ! 洗居さんを助けに行くって言って、俺と逃げる途中で別れたんだけど、どこにも見当たらなくて……!」
「……そ、そうですか。残念ながら、私も知りません」
「クッソォ! あいつの身に何かあったんじゃないだろうな!? 俺、もう一回探してきます!」

 ――そうやって懸念していると、タケゾーは再びどこかへ走っていってしまった。
 どうやら、アタシを探しているらしい。まあ、そのアタシはここにいるんだけど。
 でも、これはアタシ=空色の魔女だって、バレてないってことだね。そこは安心だ。
 能力が強大なだけに、身バレしちゃうと面倒なしがらみが増えて嫌だし。

 ――アタシはただ、やりたいからヒーロー活動をしているだけなのだ。

「……まあ、後のことは警察とかにお願いするしかないっしょ。そいじゃ、アタシはこれで失礼するね! アディオッス!」
「……あの、待ってくれませんか? 私はどうしても、あなたにお尋ねしたいことがあります」
「へ? 尋ねたいこと?」

 タケゾーの目も誤魔化せたことだし、これ以上アタシができることはなさそうだ。
 それよりも、今度は空鳥 隼として、タケゾーに会う必要もある。このまま心配させるわけにもいかないよね。

 そんなわけで、一度空を飛んでこの場を離れようとしたのだが、洗居さんに呼び止められてしまう。
 質問があるみたいだけど、何を聞く気なのかな?
 もしかして、身元関係? それだったら、いくら洗居さんの要望でもノーセンキューだ。
 それ以外の質問なら、答えられる範囲で答えるけど。
 洗居さんには迷惑をかけたし、少しぐらいは話を聞いても――



「空鳥さんはどうして、そのような恰好で空色の魔女などと名乗り、こういった活動をしているのですか?」
「んっっげぇぇええ!!??」
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