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最終章 それが俺達の絆

第462話 月下に思う、二人のゼロ

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 俺はラルフルの後を追い、屋上までやってきた。
 先に上がっていたラルフルは、こちらに背を向けながら夜空を眺めている。

「……綺麗な星空ですね。月も綺麗に輝いてます。あの星も月も、本当はずっと遠くにあって、とても人の手は届かないのですよね」

 ラルフルはどこか物思うような穏やかな口調で話しながら、星空へと手を伸ばす。

「自分にとって、ゼロラさんはあの星空のようなものでした。どれだけ手を伸ばしても届かない、あまりにも遠すぎる目標……。そんなあなたの背中を、自分は追い続けていました」

 俺に背を向けたまま星を掴むように、ラルフルが拳を握る。
 ラルフルの語り口には、どこか希望や願望といった感情が感じられる。
 この様子を見る限り、やはりラルフルがレイキースに操られているようには見えない――

「ラルフル……。お前はレイキースに操られてたんじゃないのか?」
「……操られていますよ。現に今だって、ゼロラさんを倒したい衝動に駆られています」

 ラルフルはそう言うが、その口調はいたって落ち着いている。
 レイキースの洗脳に耐えているのかもしれないが、どこか違うようにも見える。

 ただ、嘘をついているようにも見えない。

 どこか心の中で、もっと別の衝動を押さえ込んでいるような――

「……本当のことを言ってくれ。お前、本当は操られてなんかいないんだろ?」
「……ハァ~。やはりこういうところは、ゼロラさんには敵いませんね。自分との人生経験の差なのでしょう」

 ラルフルはどこか観念した様子で、俺へと向き直って話し始めた。

「全く効いてないわけではありません。実際にゼロラさんが現れるまで、確かに自分はレイキース様の支配下にありました。ですが、玉座の間でゼロラさんと会った時、自分の中で"強い願望"が湧き上がってきて、こうして洗脳から逃れることができました」

 やはりラルフルは、"今は"洗脳されているわけではないようだ。
 俺と会ったことでレイキースの洗脳を超える、"強い願望"がラルフルを正気に戻した。
 それがラルフルの強さだと言えば納得できるが――

「……ラルフル。お前を正気に戻した、その"強い願望"ってのは何だ?」
「そうですね……。ゼロラさんは今回の騒動で、このルクガイア王国から離れようと考えてましたよね? 自分としてはお姉ちゃんと結ばれて、ずっと一緒に暮らしてほしいのです。だからこうして、力づくで止めようと思った……といったところでしょうか?」

 ラルフルはそれっぽい理由を語っているが、どうにもおかしい。
 俺がこのルクガイア王国を離れようと思っていたのは事実だが、今はそうは思っていない。
 ラルフルも俺がそこまで考えていることは知らないから、話の筋は通る。

 だがまるで、『俺と戦うための理由を無理矢理探している』とも言えるその言動――
 ラルフルが俺と戦おうと思っていることは事実だろうが、その理由が見えてこない。

「安心しろ。俺はこの国を出ていくつもりはない。まだまだ苦労はあるだろうが、俺もお前と同じ未来を望んでいる」
「……それは有難い話です。うーん……では、どうしましょうか――」
「『どうしようか』なんて深く考える必要はない。俺と戦うための"理由"が欲しいなら、お前の気持ちをそのまま俺に伝えてくれ」

 俺の気持ちを知って尚、ラルフルは理由を探していたが、俺は率直な気持ちを求めた。
 おそらくラルフルが"俺と戦いたい理由"は、そこまで複雑なものじゃない。
 俺もこいつのことはずっと見てきた。それなりに理解してるつもりだ。
 ラルフルの内に眠る"強い意志"というのも、もっと明快で根源的なもの――

 そんな気持ちを目で訴え続けると、ラルフルはようやく俺に口を開いた。

「……やはり、ゼロラさんに隠し事はできませんね。それではお言葉に甘えて述べましょう。自分があなたと戦いたいと思う、その"本当の理由"を――」

 俺の願い通りに、ラルフルはその理由を話してくれた――










「自分は……あなたを超えたいのです。今一度ここで勝負し、ラルフルというかつて魔法使いだった人間が、どこまであなたに迫れたのかということを、証明するために……!」



◇◇◇



 ――そう。自分がゼロラさんと戦いたい理由なんて、非常に単純です。
 レイキース様の洗脳なんて関係ありません。
 ゼロラさんがこの国から離れないのならば、お姉ちゃんのことも関係ありません。

 ただ、自分は超えたいのです――



 ――かつて【伝説の魔王】と呼ばれたゼロラさん。
 自分が追い続けてきた背中に、どこまで追いつけたのか? 追い越せるようになったのか?
 それを今ここで戦って、証明したい――



 それこそが自分にとって、ゼロラさんと戦う"最大にして唯一の理由"です。



「……本気で言ってるんだな?」
「ええ……本気です」

 ゼロラさんは確認するように問いかけてきますが、そこに"呆れ"といった感情は見えません。
 この人は、こちらの意志を汲んでくれています。

「元々はレイキース様によって起こされた騒動ですが、今回の舞台は自分にとっても都合が良いと思いました。こうやってゼロラさんと戦えるのならば、自分にとっては喜ばしい舞台です……!」

 本当はもっと別の機会を待った方がいいのでしょう。
 レイキース様の起こした騒動を収め、改めて挑んだ方がいいのでしょう。



 ですが、自分の衝動を、自分自身でも押さえられません。
 レイキース様の<ライトブレーウォ>のせいなのか、自分の闘争心には完全に火がついてしまっています。

 もう今の自分は……ゼロラさんと決着をつけないことには、止まれそうにありません――





「……分かった。お前が望むのならば、俺が相手をしてやる」
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