上 下
448 / 476
最終章 それが俺達の絆

第448話 明暗夜光のルクガイア・急①

しおりを挟む
「あー! 悪夢ちゃんだー!」
「『悪夢ちゃん』言うナ! ……イヤ、今はソレドコロではナイナ」

 今尚魔法の檻に捕らえられたミライから、『悪夢ちゃん』と呼称されたもう一人のミライ――
 ミライがラルフルから譲り受けて以来、ずっと被り続けていたその帽子にはいつの間にかミライの能力が染みこみ、<ミラークイーン>と同じような能力が宿っていた。

 "自らがいる場に、新たなミライを召還する"能力――

 その能力が現在のミライの窮地で発現し、【正義が生んだ怪物】とも称された、"最強のミライ"をここへと呼び寄せた。

「ミライ……。な、なんでお前が――」
「細かい事情ヲ話してイル時間はナイノダ、父ヨ。リフィーを倒せばコノ檻も破れるカト思ったガ……ソウモ行かないヨウダ」

 父ゼロラに説明する余裕もない状況を、"檻の外のミライ"は理解する。
 リフィーに攻撃を加えたことで効果を失うかと思われた、魔法の檻。
 だが今だに"本来のミライ"とリョウの二人は、檻の中に囚われている。

「ドウヤラ……コノ魔法の檻はリフィーだけでナク、レイキースの力もコモってイルようダナ……」
「つまりレイキースを倒さないと、二人を助け出せないってことか……」

 シシバとの決戦を中断されたゼロラだったが、愛娘の言葉に耳を傾け、冷静に状況を確認する。
 転落したリフィーと、今だに解放されない魔法の檻――
 何よりも優先すべきは、戦いの原因となっているこの状況であった。

 そしてそれは、シシバにとっても同じこと――

「……なあ、ゼロラはん。リフィーの奴、まだくたばってへんみたいやで」
「うぐぅ……! よ、よくもわたくしを……!」

 ミライの攻撃で倒れていたリフィーだったが、肩を押さえてよろめきながらも再び立ち上がる。
 自らに回復魔法をかけ、レイキースの操り人形となりながらも、目を見開いて敵意をむき出しにする。

 リフィー自身の意識はないが、その行動に迷いはない。
 元々ゼロラ達のことを障害としかとらえていなかったリフィーは、迷わず自らの力で立ち向かうように作戦を変える。

「こ……殺してあげるわ……! 賢者であるわたくしの魔法でぇえ!!」

 リフィーは両手を頭上にかざし、極大雷魔法をその間に作り出す。
 邪魔をされた怒りに身を任せ、その雷をゼロラ達に放とうとする――

「下がってイテクレ。ワタシの力で、ナントカしてミセル」
「娘のお前が頼りなのも気が引けるが……」
「せやかて、今はこの白いお嬢ちゃんに任せるしかないやろ」

 ミライ一人が前に立ち、魔法で防御する準備をとる。
 ゼロラとシシバではリフィーの魔法に対抗しきれない。
 今この場にいる戦力で立ち向かえるのは、ミライだけ――





 ――そう思っていた。



「死になさい!!」


 ――バッ!


 リフィーの両手から雷が放たれる直前、ミライのさらに前に何者かが躍り出た。


 バチバチバチィイイ!!


「そ、そんな!? わたくしの極大雷魔法を受けきった……!?」

 その何者かに全ての雷が集中するが、立ったまま完全に耐えきる。
 ゼロラ達三人を守るように現れたその人物は、俯いていた顔を上げながら声を発した――





「あぁ……多少は痒かったなぁ……。どの道、オレには効かねぇんだけどなぁ……!」
「サ、サイバラ!? お前、駆け付けてくれたんか!?」

 ゼロラ達の助けに入ったのはサイバラだった。
 コゴーダから報告を受け、いち早くこの場へと駆け付けたのだ。

「サイバラ……お前、以前にリフィーの雷魔法を食らった時は、黒焦げになってなかったか?」
「ああ、あれッスか? あれは演技ッスよ。当時のオレには、ルクガイア暗部としての立場もあったッスから」
「中々食えへん演技派やな~。せやけど……助かったで~! キシシシ!」
「思ったヨリも雷の本数ガ多かったナ……。助カッタ」

 サイバラの救援に、ゼロラ達も湧き上がる。
 心強い味方の参戦が、皆を勇気づけていた。

「ま、まだよ! わたくしには味方もいますわ! 出てきなさい!」

 そんなサイバラの邪魔を見ても、リフィーはまだ諦めない。
 <ライトブレーウォ>で洗脳した王国騎士団を呼び出し、自らに加勢させようとした――





「その『味方』ってのは、このおかしくなった王国騎士団のことか? 邪魔だから、とりあえず全員の両手両足の関節を外しておいたぞ」
「あ、あなたは……ジフウ隊長!?」

 ――そんな頼みの王国騎士団も、サイバラと同じようにやってきたジフウによって倒されていた。
 物陰に潜ませていたのだが、すでに全員ジフウによって戦闘不能になるまで叩きのめされてしまった。

「ジフウ!? お前も来てくれたのか!」
「今も胃はキリキリ痛むがな。この事態に、俺も寝てるわけにはいかねえよ」
「キシシシ! 病み上がりきってへんとこ、感謝するで~! ジフウの兄貴!」
「コレで戦況はコチラの有利ダナ……賢者リフィー!」

 もう一人のミライとサイバラに続き、ジフウの加勢。
 リフィーは人質からも引き離され、戦力となるのは自身のみ――



 ――戦況は明確に、リフィーの不利となっていた。



「こ、こんなことが……!? このままでは――」
『おい、リフィー。何をしている? 僕の計画を台無しにするつもりか?』
「レ、レイキース様!?」

 焦燥するリフィーの脳内に、リンクさせていたレイキースの声が響いた。
 リフィーが追い込まれたことを理解し、静かな怒りを込めた口調でレイキースが語り掛けてきた。

『お前がそんな奴ら相手に、臆する必要があるのか?』
「で、ですが……加勢も加わり、わたくし一人の力ではどうにも――」
『だったら、"アレ"を使え』

 リフィーが完全に怖気づいていることを感じ取ったレイキースは、次なる作戦をリフィーへ伝えようとした。

 その作戦は、仲間であるはずのリフィーのことすら考えない、レイキースのあまりに独善的な命令――





『ジャコウから奪った薬……お前にも渡したはずだ。あれを使え』
「……かしこまりました。レイキース様」





 脳内でレイキースの言葉を聞き、リフィーは懐から一本の注射を取り出した。
 それはかつてボーネス公爵が異形の怪物となった、禁断の薬――

 ただレイキースの命令に従う傀儡であるリフィーは、迷わずその注射を自らの腕に突き刺した――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

欲しいのならば、全部あげましょう

杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」 今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。 「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」 それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど? 「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」 とお父様。 「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」 とお義母様。 「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」 と専属侍女。 この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。 挙げ句の果てに。 「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」 妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。 そうですか。 欲しいのならば、あげましょう。 ですがもう、こちらも遠慮しませんよ? ◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。 「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。 恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。 一発ネタですが後悔はありません。 テンプレ詰め合わせですがよろしければ。 ◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。 カクヨムでも公開しました。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

処理中です...