上 下
436 / 476
最終章 それが俺達の絆

第436話 戦闘・当代勇者②

しおりを挟む
「……え?」

 突然レイキース様が誰かの名前を呼びました。
 "紅の賢者"――
 その人の正体は確か――


 パチンッ

 ボォオオオ!!


「ウアアァ!?」
「ラ、ラルフル!?」

 それに気づこうとした時、自分の体が炎に包まれました。
 お姉ちゃん達も驚いています。
 急いで地面を転がって火を消したおかげで、そこまで大きなダメージはありません。
 ですが、まさかこの人がいたなんて――



「ハッハッハッ……! 君とはどうにも因果があるな、少年よ」
「なぜあなたが……? あなたは――」

 ――『元魔王軍四天王、ダンジェロ』。
 その疑問を口にしようとした時、さらなる事態が襲い掛かりました――


 ガシィ!


「よくもやってくれたな……! <ライトブレーウォ>!!」
「うううぅ!?」

 レイキース様が自分の頭に掴みかかってきました。
 そして放たれた、<ライトブレーウォ>という術――
 自分の視界はどんどんと白い光に覆われて行きます。

 まるで自分の意識を内に閉じ込めるような、白い光――
 何もない、空っぽの世界が広がっていきます――

 この術が……今回の騒動を引き起こした力――

「これで僕の勝ちだ! 残っている<ライトブレーウォ>を全て注ぎ込んだ! 大人しく……【栄光の勇者】レイキースの名のもとに、従えぇえ!!」

 レイキース様が歓喜の叫び声を聞きながら、自分の意識は切り離されていきました――











「……よし、ラルフル。お前を特別に僕の下僕としてやる。この正義の戦いに戦力として、付き従わせてやる」
「はい……レイキース様」

 次にレイキース様の声を聞いた時、自分の意識は戻ってきました。
 ただその口から出てくる言葉は、自分が思ってもいない服従の言葉――

「ラ……ラルフル……!? う、嘘だよね……!?」
「目を覚まして! アンタは操られているだけなのよ!?」

 お姉ちゃんとミリアさんの声が聞こえます。
 すぐにでも顔を向けて、『大丈夫ですよ』と声をかけたいのですが――



「レイキース様……ご命令を」



 ――自分の口から出たのは、レイキース様への服従の言葉。
 どれだけ体を動かそうとしても、言いたいことを言おうとしても、今の自分にはできません。
 ただ俯き、レイキース様の言葉を待ってしまっています。

「そ、そんな……! ラルフルが操られてしまっては……!」
「レイキース! その少年を解放しろ! お主の本当の目的は、その少年にはないのだろう!?」

 ロギウス殿下と国王陛下の声も聞こえます。
 陛下がなんとか助けようと声をかけてくれているのは分かります。

 ――ですが、自分には逆らうことができません。

「呆気呆気。結局、小生を頼らないと、卿には何もできなかったか」
「黙ってろ、"紅の賢者"。僕に従っている以上、お前も僕の力の一部に過ぎない」
「結構結構。卿にはそれがお似合いだ」

 耳に入ってくる話だけを聞く限り、レイキース様は"紅の賢者"の正体に気付いていないのかもしれません。
 この人の正体は、元魔王軍四天王、【欲望の劫火】――ダンジェロ。
 おそらくレイキース様は、この人にいいように動かされている気がします。

 魔王城で一人悪夢にうなされていた、ミライちゃんと同じように――



「さて、勇者レイキースよ。この後はどうするおつもりかな?」
「陛下と殿下には、<絶対王権>の書状を用意させる。他の奴らも、ゼロラを誘き出す餌にはなるだろう」

 レイキース様達が更なる悪巧みを考えています。
 このままでは、皆さんにも被害が及んでしまいますが――

「おい、お前ら。ラルフルに手を出されたくなかったら、大人しく僕に従え」
「ううぅ……!」
「ラ、ラルフル……」

 ――やはり、自分は黙って従うことしかできません。
 それどころか自分のせいで、皆さんにまで危害が及んでいます。



「……レイキース様。玉座の間に、テレポートでの侵入者を確認しました。かなり高度な魔法の使い手のようです」
「『高度な魔法の使い手』……。おそらくは、リョウ大神官だな。よし、僕はこいつらを連れて、玉座の間へと向かう。<絶対王権>の書状にも用があるしな」
「では、わたくしは如何様に?」
「お前は"魔王の娘"を攫ってこい。リョウ大神官と"魔王の娘"……。この二人を揃えておけば、ゼロラの戦力を削ぐこともできる」
「かしこまりました。"魔王の娘"はおそらく、王都から離れた宿場村にいます。わたくしならテレポートですぐに向かえます」
「ああ、頼んだ。しっかり連れてこい」

 レイキース様の命令に従い、リフィー様はテレポートで姿を消しました。
 このままでは、"魔王の娘"と言われているミライちゃんの身も危ないです。

「では、小生はこの少女の身柄を預かるとしよう。小生には彼女こそ、最大の利用価値があるのでね……!」
「好きにしろ。王宮のエントランスにでも待機し、ゼロラを迎え撃て」
「ま、待って! この人は―― ムグゥ!?」

 さらにはお姉ちゃんまで元魔王軍四天王のダンジェロによって口を塞がれ、連れ去られてしまいました。

 こんなことになっているのに、自分には何もできません。
 ただ黙ってこの状況に耐えるだけ――

「おい、ラルフル。お前は僕と一緒に来い。陛下に殿下に聖女。この三人を連れてくるんだ」
「…………」
「……おい? 聞いてるのか?」
「……かしこまりました」

 頑張ってほんのちょっと抵抗してみましたが、少しの間声を出さないのが精一杯です。
 自分の体は勝手に動いてしまいます――



「さあ、早くついてこい。"正義"のためにも、お前らは動いてもらうぞ」
「ぐぅ……!? ラルフルにこんなことをして――」
「ミリア様……今は落ち着きましょう。どうにかして、機会を伺います」
「皆……すまぬ……!」

 ミリアさんもロギウス殿下も国王陛下も、苦虫を潰したような顔をしながら、自分とレイキース様に連れていかれます。

 このままではいけません。
 どうにかしてこの状況を打開する必要があります。



 ――自分も今はただ耐えましょう。
 まだこうして内側に意識が残っている以上、機会が訪れればまだ打つ手はあります――
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...