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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第426話 凶行の至り

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「え!? な、何を言ってるのよ、レイキース! そんなことを、リフィーがする訳――」
「かしこまりました……レイキース様」

 レイキースが突然放った、レーコ公爵の殺害命令。
 『そんなことをするはずがない』と信じていたレーコ公爵だが、リフィーはその命令を素直に受け取った。

「じょ、冗談よね……? あなたが私を殺すだなんて――」
「レイキース様の命令は絶対です。勇者の命令は絶対です。わたくしはレーコ公爵を殺します。ウフフフ……!」

 リフィーは虚ろな目をしたまま、不気味に笑ってレーコ公爵の方を見る。
 レーコ公爵もその様子から、命の危機を心底感じ取っていた。

「や、やめて……! こ、来ないで……!」

 レーコ公爵は足を震わせながら、後ろへと下がる。
 そんなレーコ公爵を追うように、リフィーはゆっくりと近づいていく。

 その手に握られているのは、レイキースから渡された<光毒針>。
 針の先端を光らせながら、リフィーはその手をゆっくりと振り上げる――



「い……いやぁああ!!」

 恐怖心に耐えきれなくなったレーコ公爵は、たまらず背を向けて逃げ出す。
 だが――



 ――ブスンッ!



「あ……あがぁ……!?」

 ――その背中に、リフィーの投げた<光毒針>が突き刺さる。
 レーコ公爵は地面へと倒れ込み、もがき苦しむ。
 自身に魅了され、敬愛していたはずのリフィーの凶行――
 薄れゆく意識の中で、レーコ公爵は疑問と絶望の中、全身をめぐる苦痛に蝕まれ――

「アァ……ァ……」

 ――息を引き取った。



「お……おい! レイキース! こ、これはどういうことだ!? レーコ公爵に何を――」
「先程リフィーが使ったのは、<光毒針>という暗器です。並の人間ならこの針の毒で、簡単に命を落とします」
「そういうことを聞いているのではない! 何故、レーコ公爵を殺した!? 何故、リフィーがレーコ公爵を殺した!?」

 急な事態を飲み込めず、立ちつくしていたボーネス公爵が、ようやく口を開く。
 そんなボーネス公爵の問答にも、レイキースは静かに、そして冷酷に答える。

「<ナイトメアハザード>と、この僕の<勇者の光>……。これがあれば、大衆の心も正しく戻せそうだ」

 レイキースは動かなくなったレーコ公爵の死体と、殺人を犯しても落ち着いたままのリフィーの姿を見て確信した。

 今手元にある力を利用し、人心を掌握することも可能である――と。

 そうすることで、改革によって変わってしまったルクガイア王国を、以前の姿に戻そうと画策した。

 "勇者こそが絶対的正義"――
 "古くから続く伝統の復権"――
 その独善的な世界を、再び作り出すことを――

「……さて。もうお前も用済みだな。ボーネス公爵」
「な……!?」

 レーコ公爵の死を確認したレイキースは、今度はボーネス公爵へと剣の切っ先を向けた。
 レイキースが望むのは、"貴族の復権"ではない。
 これまで貴族の後ろ盾を得てきたレイキースだが、そんなものは目的の為の手段でしかない。

 手段として機能しなくなり、自らの力のみで行動を起こせるようになった以上、ボーネス公爵達の存在はもはや不要だった。



「や、やめてくれぇえ――」
「フゥウン!!」

 必死に命乞いをしようとするボーネス公爵の言葉も聞かず、レイキースは手に持った剣を振り下ろし――


 ――ゴトリ……


 ――ボーネス公爵の首をはね落とした。



「後は……お前だけだな。ジャコウ」
「ひ、ひいいぃ……」

 ボーネス公爵も始末したレイキースは、さらにジャコウに対しても刃を向ける。

「ま、待つのじゃ! そもそも、お主が勇者としての地位を築けたのは、このわしの協力もあったからじゃぞ!? ユメを"誘き出してやった"ことを、忘れたのか!?」
「恩着せがましいことを言うな。必要な力が手に入った以上、お前のようなグズも処分する」

 ジャコウの言葉にも耳を貸さず、レイキースは再び剣を振り上げる――





「待ちたまえ、勇者レイキースよ。この者の始末は小生がやろうではないか」

 今にもジャコウを斬り捨てようとするレイキースに、傍で見ていたダンジェロが割って入った。

「……いいだろう。お前の手でジャコウを始末し、僕への忠誠心を見せてみろ」
「御意御意。しかと、ご覧あれ」

 レイキースに進言し、自らジャコウの前へと出てきたダンジェロ。
 腰を落としてジャコウと目線を合わせ、その左手から<詠唱の黒霧>を溢れさせる――

「な、なんじゃ……その魔法は……?」
「ほう? これを見ても、まだ小生のことを思い出せぬの……か?」
「な、何の話じゃ!? それよりも! 貴様もレイキースに従っていると、いつか斬り捨てられるぞ!? じゃから、今ここでわしと協力するのじゃ!」

 ジャコウは今目の当たりにしているレイキースの本性を、ダンジェロにも呼びかけて説得しようとした。
 だが、ダンジェロもそんなことは重々承知の上だった。
 それを承知した上で、レイキースの功名心を利用するために、こうして行動を共にしているのだ。

 ――更なる火種を呼び起こすために。
 "紅の賢者"という、偽りの肩書を名乗った上で――

「卿に心配されるいわれはないな。……もとより、卿はいい加減、小生の正体に気付きたまえ」
「しょ、正体……? "紅の賢者"と名乗る貴様の……?」

 ジャコウを始末する間際、ダンジェロは杖を置いた右手で、僅かにフードから顔をのぞかせた。

 数年前、一度は顔を合わせているはずのジャコウ。
 あの時はただ恐怖に震えていたジャコウには、はっきりと記憶に残っていなかったのだ。



 目の前で"紅の賢者"と名乗る男が、かつて魔王城で見た男と同一人物であることにも、顔を見ることでようやく気付いた。



「っ!? き、貴様は!? 魔王軍の――」


 ドガァアアアン!!


 ジャコウが全てを言い終える前に、その体はダンジェロの手によって、一瞬で炎に包まれる。
 悲鳴を上げる余裕すらなく、炎が鎮まった跡に残ったのは、炭となったジャコウの姿であった――
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