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第28章 勇者が誘う、最後の舞台
第420話 愛するがために
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「自分の負けですか……」
「ですが、いい勝負でした。あなたにとっても、いい経験になったでしょう」
倒れていた自分の顔を、ユメ様が覗き込みながら優しく語り掛けてくれます。
そして手を差し伸べて、自分の体を起こすのを手伝ってくれました。
――ここが夢の世界と理解していても、不思議なものです。
自分の体には斬られた傷も無ければ、もうダメージもありません。
「さてと……ラルフル君の方はこれで良いでしょう」
自分が立ち上がったのを確認すると、ユメ様は今度はお姉ちゃんの方へと歩み寄りました。
「ラルフル君には"力で止める"という役割をお願いしましたが、それだけでは不十分です。ですので、マカロンさん。あなたには"心で止める"役割をお願いしたいのです」
「わ、私にですか? "心で止める"って、どうやって――」
「簡単な話ですよ。あなたの胸の内を、はっきりとあの人に伝えればいいのです」
ユメ様にはお姉ちゃんの思いも筒抜けのようです。
お姉ちゃんがゼロラさんに抱いている恋心――
それを伝えることが、万一の時にゼロラさんを引き留める要因になるということですか――
「で、でも、ユメ様。ゼロラさん――かつてのジョウインさんには、あなたという立派な相手が――」
「その点については気にしなくて結構ですよ。私はすでに他界した身。まだまだこれからを生きていくあなた達に、私が愛する二人のことを託したいのです」
ユメ様は笑顔で――ですが、どこか寂しそうにお姉ちゃんへと願いました。
この人だって、本当はゼロラさんやミライちゃんと一緒にいたいはずです。
それなのに二人のことを思い、こうしてお姉ちゃんに自らの果たせない願いを託しています。
「ほ、本当に……私でいいんですか?」
「むしろ、"あなただから"お願いしています。あなたの思いは本物で、お互いに結びつくことができます。何より、ミライちゃんがあなたのことを気に入ってますからね」
寂しさを払拭するかのように、優しくお姉ちゃんを諭すユメ様。
ゼロラさんとミライちゃんを愛しているからこそ、こうしてお姉ちゃんにその思いを託せる心――
――【慈愛の勇者】。
ユメ様がそう呼ばれる所以が、よく分かりました。
「改めて言いますが、もしレイキースが凶行に走り、ゼロラさんがルクガイア王国を去ろうとした時、止められるのはあなた達姉弟だと考えています」
ユメ様は自分とお姉ちゃんを見つつ、最後に願い出るように話してきました。
「ジョウインさんがレイキースに刺され、生死の淵をさまよっていた時、あの人はあなた達二人の声で目を覚ましました。それだけあの人にとって、あなた達の存在は特別な意味を持っています」
ユメ様の透き通った声は、自分の耳によく届きます。
こうして自分達の前に現れてまで託された、ユメ様の思い――
無駄にするわけにはいきません。
自分だって、ゼロラさんとのお別れは嫌ですから――
「――ただ、ここは夢の世界。ここでの出来事を、そのままあなた達がすべて覚えているわけではありません」
「そ、そうなんですか……」
「折角、ユメ様とこうしてお話しできたのに……」
ユメ様は笑顔から一転して、少し悲しそうな顔になります。
こうして自分とお姉ちゃんに託した思いも、目が覚めた時には忘れてしまっているかもしれない――
「――ですが、今回の出来事はそもそも、私の個人的なわがままで行ったことです。あなた達が気に病む必要はありません。覚えていなければ、気に病むこともありませんが」
「は、はあ……」
そんな自分達の不安を慰めるかのように、ユメ様は冗談交じりに話し始めました。
「それでも、"何も残らない"ということはありません。ラルフル君の力はしっかり"経験"として残るはずです。マカロンさんにも何か残したいのですが―― そうだ!」
ユメ様は何か思いついたようです。
自分が新たに得た、この<緑色のオーラ>とは別に、お姉ちゃんにも何か送りたいようですが――
「マカロンさん。そのブローチに少し触れますね」
「え? あ、はい?」
ユメ様はお姉ちゃんに近づくと、胸元にあるブローチにそっと指を触れました。
お姉ちゃんがゼロラさんにプレゼントしてもらったブローチ――
そこへユメ様の指先から、淡い光が送られていきます。
「こ、これは……?」
「ちょっとしたおまじないです。意味があるかは私にも分かりませんが、これなら現実世界に戻っても、残ってくれるでしょう」
原理は分かりませんが、ユメ様の願いはお姉ちゃんのブローチに残ってくれるようです。
これならもしもユメ様の危惧する事態が起こった時、ユメ様が守ってくれるような気がします。
「――さてと。名残惜しいですが、そろそろお別れのようです」
『やれるだけのことはやり終えた』。
そんなユメ様の様子と共に、この夢の世界に変化が訪れました。
ビキキッ―― ビキィイイ――
「く、空間にヒビが!?」
「こ、これってもしかして――」
「"夢の終わり"――とでも、言いましょうか。時間切れですね」
ユメ様が作り上げたこの世界が、どんどん崩壊し始めました。
足場も壊れ、自分とお姉ちゃんの体は宙を舞います。
ユメ様は一人わずかに残った足場に残り、どんどんと離れて行きます――
「色々私も手出ししましたが、これからの世界をどう生きていくかは、あなた達の意志次第です。あなた達が望むように、願うように、先へと進んでください。それが――私の願いにも繋がってくれるはずですから――」
遠のいていくユメ様は、満面の笑みを作りながら、自分達へと語り掛けていました。
声も聞こえなくなっていきますが、それでもユメ様が託してくれた思いを、無駄にはしたくありません。
「"あの人を超えたい"という思い! "あの人と結ばれたい"という思い! それを信じて……これからも生きてくださいね!!」
「ユメ様! 自分達、あなたのことを忘れません!」
「私もラルフルも、あなたの思いを無駄にはしませんから!」
最後にユメ様から送られた、激励の言葉。
お互いに大声で思いの丈を口にしながら、名残惜しくも別れの時が来ます。
――そして辺り一面を覆う、全てを包み込むような、優しくて白い光。
その光と共に、自分とお姉ちゃんはユメ様がいた世界から、離れて行きました――
「ですが、いい勝負でした。あなたにとっても、いい経験になったでしょう」
倒れていた自分の顔を、ユメ様が覗き込みながら優しく語り掛けてくれます。
そして手を差し伸べて、自分の体を起こすのを手伝ってくれました。
――ここが夢の世界と理解していても、不思議なものです。
自分の体には斬られた傷も無ければ、もうダメージもありません。
「さてと……ラルフル君の方はこれで良いでしょう」
自分が立ち上がったのを確認すると、ユメ様は今度はお姉ちゃんの方へと歩み寄りました。
「ラルフル君には"力で止める"という役割をお願いしましたが、それだけでは不十分です。ですので、マカロンさん。あなたには"心で止める"役割をお願いしたいのです」
「わ、私にですか? "心で止める"って、どうやって――」
「簡単な話ですよ。あなたの胸の内を、はっきりとあの人に伝えればいいのです」
ユメ様にはお姉ちゃんの思いも筒抜けのようです。
お姉ちゃんがゼロラさんに抱いている恋心――
それを伝えることが、万一の時にゼロラさんを引き留める要因になるということですか――
「で、でも、ユメ様。ゼロラさん――かつてのジョウインさんには、あなたという立派な相手が――」
「その点については気にしなくて結構ですよ。私はすでに他界した身。まだまだこれからを生きていくあなた達に、私が愛する二人のことを託したいのです」
ユメ様は笑顔で――ですが、どこか寂しそうにお姉ちゃんへと願いました。
この人だって、本当はゼロラさんやミライちゃんと一緒にいたいはずです。
それなのに二人のことを思い、こうしてお姉ちゃんに自らの果たせない願いを託しています。
「ほ、本当に……私でいいんですか?」
「むしろ、"あなただから"お願いしています。あなたの思いは本物で、お互いに結びつくことができます。何より、ミライちゃんがあなたのことを気に入ってますからね」
寂しさを払拭するかのように、優しくお姉ちゃんを諭すユメ様。
ゼロラさんとミライちゃんを愛しているからこそ、こうしてお姉ちゃんにその思いを託せる心――
――【慈愛の勇者】。
ユメ様がそう呼ばれる所以が、よく分かりました。
「改めて言いますが、もしレイキースが凶行に走り、ゼロラさんがルクガイア王国を去ろうとした時、止められるのはあなた達姉弟だと考えています」
ユメ様は自分とお姉ちゃんを見つつ、最後に願い出るように話してきました。
「ジョウインさんがレイキースに刺され、生死の淵をさまよっていた時、あの人はあなた達二人の声で目を覚ましました。それだけあの人にとって、あなた達の存在は特別な意味を持っています」
ユメ様の透き通った声は、自分の耳によく届きます。
こうして自分達の前に現れてまで託された、ユメ様の思い――
無駄にするわけにはいきません。
自分だって、ゼロラさんとのお別れは嫌ですから――
「――ただ、ここは夢の世界。ここでの出来事を、そのままあなた達がすべて覚えているわけではありません」
「そ、そうなんですか……」
「折角、ユメ様とこうしてお話しできたのに……」
ユメ様は笑顔から一転して、少し悲しそうな顔になります。
こうして自分とお姉ちゃんに託した思いも、目が覚めた時には忘れてしまっているかもしれない――
「――ですが、今回の出来事はそもそも、私の個人的なわがままで行ったことです。あなた達が気に病む必要はありません。覚えていなければ、気に病むこともありませんが」
「は、はあ……」
そんな自分達の不安を慰めるかのように、ユメ様は冗談交じりに話し始めました。
「それでも、"何も残らない"ということはありません。ラルフル君の力はしっかり"経験"として残るはずです。マカロンさんにも何か残したいのですが―― そうだ!」
ユメ様は何か思いついたようです。
自分が新たに得た、この<緑色のオーラ>とは別に、お姉ちゃんにも何か送りたいようですが――
「マカロンさん。そのブローチに少し触れますね」
「え? あ、はい?」
ユメ様はお姉ちゃんに近づくと、胸元にあるブローチにそっと指を触れました。
お姉ちゃんがゼロラさんにプレゼントしてもらったブローチ――
そこへユメ様の指先から、淡い光が送られていきます。
「こ、これは……?」
「ちょっとしたおまじないです。意味があるかは私にも分かりませんが、これなら現実世界に戻っても、残ってくれるでしょう」
原理は分かりませんが、ユメ様の願いはお姉ちゃんのブローチに残ってくれるようです。
これならもしもユメ様の危惧する事態が起こった時、ユメ様が守ってくれるような気がします。
「――さてと。名残惜しいですが、そろそろお別れのようです」
『やれるだけのことはやり終えた』。
そんなユメ様の様子と共に、この夢の世界に変化が訪れました。
ビキキッ―― ビキィイイ――
「く、空間にヒビが!?」
「こ、これってもしかして――」
「"夢の終わり"――とでも、言いましょうか。時間切れですね」
ユメ様が作り上げたこの世界が、どんどん崩壊し始めました。
足場も壊れ、自分とお姉ちゃんの体は宙を舞います。
ユメ様は一人わずかに残った足場に残り、どんどんと離れて行きます――
「色々私も手出ししましたが、これからの世界をどう生きていくかは、あなた達の意志次第です。あなた達が望むように、願うように、先へと進んでください。それが――私の願いにも繋がってくれるはずですから――」
遠のいていくユメ様は、満面の笑みを作りながら、自分達へと語り掛けていました。
声も聞こえなくなっていきますが、それでもユメ様が託してくれた思いを、無駄にはしたくありません。
「"あの人を超えたい"という思い! "あの人と結ばれたい"という思い! それを信じて……これからも生きてくださいね!!」
「ユメ様! 自分達、あなたのことを忘れません!」
「私もラルフルも、あなたの思いを無駄にはしませんから!」
最後にユメ様から送られた、激励の言葉。
お互いに大声で思いの丈を口にしながら、名残惜しくも別れの時が来ます。
――そして辺り一面を覆う、全てを包み込むような、優しくて白い光。
その光と共に、自分とお姉ちゃんはユメ様がいた世界から、離れて行きました――
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