記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第410話 追憶の果ての再会

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 祖父イトーさんと孫ミライの対面。
 ロギウスとリョウの電撃婚約。
 ……ジフウの入院。

 一日の間に衝撃的な出来事が立て続けに起こり、流石に俺も疲れ気味だった。
 そんなわけで俺はここ数日、部屋でゆっくりしていた。

「パパー! おんぶー!」
「ミライ、お父さんは少し疲れてるんだ。休ませてくれないか? 頭の上に乗るのもやめてくれ」
「ぶ~~」

 そうして休んでいる俺の頭の上で、愛娘のミライがブーブー言っている。
 仕方がないので両手で抱きかかえて眼前に降ろすと、顔を膨らませて不機嫌そうだ。



 ――かわいいな。
 なんだか、疲れが吹き飛んだ。



「仕方ないな……ミライ。今日はお父さんと一緒に、外に出かけてみるか?」
「いいのー!? わたし、お外行きたい! わはーい!」

 ミライも大分落ち着いてくれた。
 テンションは相変わらず高いが、それでも分別はわきまえてくれている。
 この子には、これから多くの出会いが待っている。
 人間の世界で生きていくために、それは必要なことだ。

 そういえば、オクバの子供達とミライは同じぐらいの世代だな。
 いきなり人間の同世代と友達になるのは難しいだろうが、オクバ達のような魔物となら、かえってミライには好都合だろう。
 幸い改革が進んだことで、ルクガイア王国内でも知性を持った魔物との交流が行われつつある。

 そう考えると、俺がミライと再会するまでにたどった道のりは、本当に意味のあるものだったんだな――





「ゼロラ殿。親子団らん中に申し訳ない。少しお時間をよろしいかな?」

 そんな俺とミライの元に、ロギウスがやってきた。

「どうしたんだ、ロギウス? 何か急用でもあるのか? 俺は娘をかわいがるのに忙しい」
「すっかり子煩悩だね、ゼロラ殿……。まあ、いいことだけど。ただ、こちらの要件も重要だ。ミライちゃんと一緒に、ボクについてきてほしい」
「『ついてきてほしい』?」

 俺だけでなく、ミライにも来てほしい要件なのか?
 疑問には思ったが、ロギウスの表情に重苦しい気配はない。
 こいつもリョウとの婚約が決まって忙しい身なのに、わざわざ来てくれたんだ。
 無碍に断るのも失礼だろう。

「分かった。ただ、ミライはまともに外に出るのは初めてなんだ」
「そこは承知してる。馬車を用意してあるから、それに乗ってくれ。まずは目的地まで案内するよ」
「馬車ー!? お馬さーん!? わはーい!」

 ミライも外へ出ることへの抵抗はなくなり、むしろ好奇心が上回っている。
 これなら問題なさそうだ。

 俺とミライはロギウスに案内され、目的地への馬車に乗った――





「着いたね。早速この中に入ろうか」
「ここは確か……"シアの洞穴"だったか?」

 ロギウスに連れられた俺とミライがたどり着いた場所。
 そこはスタアラ魔法聖堂の近くにある、シアの洞穴だった。
 思えばだいぶ前の話だが、ラルフルがここに入ってミリアのために、清白蓮華の花を取りに行ったんだよな。



 ――確かその場所の名前は、"追憶の領域"。
 ここに連れてきたロギウスを始めとする、四人が"共通の目的"のために守られている場所。
 ラルフルが入ったのはそこの手前までらしいが――

「ロギウス。俺達をここに連れてきたのは、"追憶の領域"に関することか?」
「そうだね。ここからは徒歩になるけど、道のりは険しくない。しばらくついてきてほしい」

 ロギウスはそう言って、今度はシアの洞穴の中へと足を進める。

「洞穴ー!? 冒険っぽいー! わはーい!」

 ミライは事態が分からないため、ただただはしゃいでいる。
 俺にも詳しいことは分からないが、"追憶の領域"はこれまで、何人たりとも立ち入らせなかった場所だ。
 そしてそこには、ユメに関する"何か"が守られている。

 そんな場所に俺とミライが招かれている。
 この先にあるものは俺とミライにとって、重大なものであることは想像に難くない――





「フン、やっと来たか。貴様達親子が来るのを待っていたぞ」
「俺もこの日のために、一時的に釈放だ~。"共通の目的"を持った四人全員がいねーと、意味ねーからな~」
「ゼロラ、ミライ。よく、ここまで来てくれたな……」

 洞穴の奥へと進むと、バクト、フロスト、イトーさんの三人が待っていた。
 ロギウスも含めた"追憶の領域"を守る四人――
 それが今、ここに一堂に会している。

 案内された場所は、少し広いスペースだ。
 そしてそこには"清白蓮華"の花が、所どころに咲いている。

 懐かしいな。
 俺もユメに告白された時、送られたんだよな――




「ロギウス。やっぱり、"追憶の領域"に関することなのか?」
「ご名答。ゼロラ殿とミライちゃんには、この"追憶の領域"に入る資格がある」

 感傷に浸りながらも、俺はロギウスに要件を尋ねた。
 俺とミライに資格がある――か。
 やはりこの"追憶の領域"にあるのは、ユメに関係のあるものなんだろう。

「ねーねー? おじいちゃーん? ここに何があるのー?」
「ミライ……。ここにはお前さんにとって、大事なものが守られてるんだよ」
「あまり焦らすことでもないですしね。早速、封印を解くとしましょう」

 興味津々のミライをイトーさんが諭す。
 そんな様子を見て、ロギウス達は早々に何やら準備を始めた。

「――よーし、これで準備できたぜ~。"追憶の領域"を守るシステムの解除工程も、残るは俺達四人の"言葉だけ"だ~」
「やっと準備できたのか。よし、ならさっさと始めるぞ」

 フロストによってその準備が整い、残る最後の工程のためなのか、四人全員が一つの壁の前に並び立つ。

 ロギウス、バクト、フロスト、イトーさん。
 それぞれ違う目的を持ちながら、"追憶の領域"を守るという"共通の目的"を持った四人が、今まさにその封印を解こうとしていた――



「ロギウス"殿"下」
「バクト"公"爵」
「"ドク"ター・フロスト」
「イトー理刀"斎"」



 四人全員が、壁に向かって各々の名前を出す。
 それが合言葉だったのだろう。
 これまで洞窟と一体化していた壁は、その姿を変えていく――



 ジジッ―― ジジジ――



「これは……? 岩の壁が鉄の扉に……?」
「俺が作った擬態装置だ~。俺達四人の合言葉がねーと、これを解除することすらできねーからな~」

 フロストが作った"追憶の領域"を守るためのシステム。
 鉄の扉へと姿が変わった後、その扉がゆっくりと開かれていく――



「すまないが、俺に先に入らせてくれないか? 俺もずっと、"あの子"に会いたかったからな……」
「"あの子"……?」

 扉が開ききると同時に、イトーさんが先に中へと入っていく。
 俺とミライも他の三人に案内され、中へと足を踏み入れる。





 そこにあったものは、外からの光がわずかに差し込む空間――

 そしてその中央にあるものは、一つの墓標だった。

「なあ、これってもしかして――」
「ゼロラ殿のお察しの通りだよ」
「俺達が"追憶の領域"で守り続けてきたものが、これだ」
「余計な輩に、荒らされるわけにはいかねーからな~」

 ロギウス達の言葉で全てを察した。
 先に墓標へと向かったイトーさんも、俺とミライに目の前の墓標の正体を教えてくれる――



「これは……ユメの墓だ」
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