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第27章 追憶の番人『殿』

第408話 何故そうなったのですか……

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「う、う~ん……あれ? ここは……自分の部屋ですか?」
「ラルフル! よかった! 気が付いたのね!」

 ミライちゃんの<ミラ・イッテキマス>からの<ミラ・イン・ザ・スカイ>で、気を失ってしまった自分。
 目を覚ますと、ミリアさんに介抱されていました。

「ラルフルにいちゃーん! ごめんなさーい! わたしのこと、きらいにならないでー! うえーん!」

 そして傍には自分が気を失った元凶である、ミライちゃん。
 涙目で自分に謝ってきます。
 あの後何があったかは分かりませんが、とりあえず問題は解決したみたいですね。



「い、いてて……ん? 俺としたことが、気を失っていたのか……」
「おじいちゃーん! うわーん! ごめんなさーい!」

 さらに部屋の中にはイトーさんまでいました。
 なぜいるのかは分かりませんが、様子を見る限り、イトーさんもミライちゃんのせいで気を失っていたようです。





 ――あれ? 今ミライちゃんがイトーさんのことを、『おじいちゃん』って呼びませんでしたか?

「おお! ミライ! 気にするな! おじいちゃんは大丈夫だ! 子供は元気なのが一番だ!」
「ううぅ……。でも、パパに怒られたから、もう<ミラ・イッテキマス>はしない~……」

 イトーさんもミライちゃんのことを自然に受け入れてますね。
 一体、これはどういうことでしょうか……?

「あの、イトーさん。『おじいちゃん』というのは、どういうことで――」
「あ、ああ。そのことか。実はな――」

 イトーさんは事情を話してくれました。
 実はイトーさんは【慈愛の勇者】ユメ様の養父であり、ミライちゃんはお孫さんだったこと。
 ゼロラさんもこのことを知っており、こうやってミライちゃんに会いに来たそうです。

 イトーさんとミライちゃんは仲良くじゃれ合ってます。
 微笑ましい光景ですね。
 孫とおじいちゃんの関係――羨ましいです。

「……あれ? そういえば、ガルペラさんとゼロラさんはどうしたのですか?」
「ガルペラさんは公務をサボらないように、ローゼスさんに連れ去られたわ」

 自分の疑問に、ミリアさんは答えてくれました。
 ガルペラさん……。とりあえず、頑張ってください……。

「ゼロラさんの方はロギウス殿下に呼ばれたわね」
「ロギウス殿下に? 一体何の用事でしょうか?」
「それは俺が説明する……」

 ミリアさんの話を聞いていると、バクトさんがいつの間にか部屋に入ってきました。
 娘のミリアさんがいるといつもいずらそうなバクトさんですが、今回は様子が違います。

 その表情はどこか、深刻で疲れているような――

「バクトさん……。何か重大な問題でもあったのですか……!?」
「お前さんがそんな顔をするなんて、よっぽどのことがあったのか……!?」
「ああ。俺にも全く予想できなかった事態だ……」

 自分とイトーさんの問い掛けに対し、バクトさんは重い口を開きました――










「ロギウス殿下が……リョウ大神官と婚約した」
「……すいません。自分にも分かる言葉でお願いします」

 ロギウス殿下がリョウ大神官と婚約した?
 いえ、ありえませんよね?
 だって、"あの"リョウ大神官ですよ?

 どうやら自分はまだ、意識がハッキリしてないようです。

「お、おい、バクト。お前さんがそんな冗談を言うなんて珍しいな……」
「じょ、冗談よね? だって、"あの"リョウ大神官がロギウス殿下と婚約だなんて……」

 ――イトーさんもミリアさんも、自分と同じように聞こえていたようです。
 まさか本当に、聞き間違いではないのでしょうか?

「俺も耳を疑ったが……事実らしい。すでに王都にも、号外が出回っている」

 そう言って、バクトさんはその号外を見せてくれました。

 自分とミリアさんとイトーさんは、その号外記事に目を通します――



『ロギウス殿下! 電撃婚約! 相手は問題児として有名な、リョウ大神官!』
『婚約を申し出たのは、ロギウス殿下!? 旧貴族令嬢からも不満続出!』
『速報! 令嬢達! リョウ大神官に完全敗北! リョウ殿下の誕生はほぼ確定!』



 ――本当のことみたいです。

「ロギウスの奴、『結婚したい相手がいる』とか言ってたが、リョウのことだったのか!? なんでだよ!?」
「俺の知ったことか! おのれロギウス殿下め……よりにもよって、なんであのシシバの妹なんかと……!?」

 イトーさんもバクトさんも、この事態を信じられないといった表情です。
 自分だって信じられません。

「せ、世界が……終わる……」

 ミリアさんはこの世の終わりのような表情をしています。
 気持ちは分かります。ですが、流石に失礼ではないでしょうか?

「ねーねー! あの白衣のおねえちゃん、お姫様になるのー!?」
「どうやら、そうみたいです……」
「すっごーい! きっとこの国も、もーっとよくなるねー!」

 ピョンピョン跳ねてお祝いするミライちゃん。実に無邪気です。
 この子はリョウ大神官のことを詳しく知らないのですね……。

 むしろ、この国に暗雲が立ち込めた気がしなくもないです……。



「あれ? リョウ大神官以外の人の記事も書かれてますね?」

 号外の大見出しの外れたところに、別の記事を見つけました。
 小さく書かれてますが、一体何が――



『国王直轄黒蛇部隊のジフウ隊長! 危篤状態! 復帰は絶望的か!?』



「――ええ!? ジフウさん!? こっちこそ何があったのですか!?」
「ああ、その件か。俺が王宮に来たのも、元々はこの件で呼ばれてな。ジフウの容態を見てきたんだ」

 医師でもあるバクトさんが呼ばれるほどの、ジフウさんの容態――

「あ、あの……。ジフウさんは大丈夫なのですか……?」
「残念だが……俺では手の施しようがなかった……」

 バクトさんの表情は重いです。
 まさか、ジフウさんが……?
 折角、妹のリョウ大神官が婚約されたのに、こんなことって――





「心因性の胃炎だ。俺は外科はできるが、心療内科はできない。とりあえず、胃薬は出しておいた」
「あ、はい」

 そのバクトさんの言葉を聞いて、自分の中で何か納得がいきました。

 あのリョウ大神官がロギウス殿下と婚約するという異常事態――
 そんな事態に耐えきれず、ジフウさんの胃はとうとう限界を迎えてしまったのでしょう。

 幸い、一命はとりとめたようです。
 今はただ、回復を祈るしかありません。



「まあ、これらの件に関しては俺が関与できることはもうない。だが、イトー理刀斎。貴様には話がある」
「俺に話? ……ああ。もしかして、例の件か?」
「そうだ。貴様もどうやらゼロラの件で納得したようだし、ロギウス殿下も呼んで、バカフロストのところに行くぞ」

 バクトさんはこの件とは別に、イトーさんに話があるようです。
 ロギウス殿下も呼んで、フロストさんがいる魔幻塔に行くようですが――



 ――確かこの人達四人は、"追憶の領域"を守っているのでしたね。
 ゼロラさんが【伝説の魔王】だったと分かった今、【慈愛の勇者】ユメ様が残した何かがあるという"追憶の領域"にも動きがありそうです。

「じゃあな、ミライ。おじいちゃんはまた来るからね~」
「うんー! またねー! おじいちゃーん!」
「孫煩悩が……」

 ミライちゃんに見送られるイトーさんを連れて、バクトさんは部屋を去ってきました。

 ここから先の話は、自分が踏み込める話ではないのでしょう。
 それはきっと、ゼロラさんに関わってくる話です――

 自分はただ、見守るとしましょう。
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