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第26章 追憶の番人『斎』

第393話 たいけつー! ミラクルまほうしょうじょー!①

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「む、むむ~! わたしは遊んでただけなのに~!」
「自覚が無いとは、悪い子だな。お父さんが少しお仕置きをしてやろう……!」

 ミライはどうにも力加減を分かっていない。
 いい機会だ。少しミライに"加減"と"礼儀"を教えてやろう。



「うひっ!? こわい! 助けて! <ミラークイーン>!!」

 そしてミライは自身の傍に、<ミラークイーン>を召還させる。
 その技、まだ使えるんだな。
 なんだか色も白くなってるし、デザインもファンシーな花柄とか入ってるけど。

 とにかく、ミライも俺とやり合うつもりらしい。
 父親のいいつけに歯向かう悪い子には、やはりお仕置きが必要だな。
 <ミラークイーン>の格闘能力は高いが、十分に俺でも対応できる範囲――





「おうえんおねがい! <ミラークイーン>! わちゃー!」
「おい!? なんで<ミラークイーン>じゃなくて、本体のお前の方が殴り掛かってくるんだ!?」

 ――しかしそこは我が娘。俺の想像の斜め上を行く。
 わざわざ召還した<ミラークイーン>に応援を任せ、自らが俺へと突撃してくる。


 ぺちぺちぺちぺち!


「ほわちゃちゃー!」
「痛い! 地味に痛い!」

 俺へと近づいたミライは、背伸びしながら両手でペチペチと俺の足を叩いてくる。
 すごくふざけた技なのだが、どういう訳か結構痛い。
 この子、やっぱり力加減を分かってないらしい。
 仮にも俺とユメの娘だ。魔力だけでなく、身体能力そのものが普通の人間よりはるかに高い。

「とどめだー!」

 ミライは一度距離を置き、俺へと助走をつけながら、今度は両手でグルグルパンチ。
 しかし、ミライは目を瞑ったまま突撃している。
 それじゃ前が見えないだろう。

 そんな攻撃を、俺は横に動いてあっさり回避する。



「ほわたたー! ……あれ? 当たってない?」

 暫く進んだところで、ミライはやっと攻撃が当たっていないことに気付く。



「ま……まさか……! 瞬間移動ー!?」
「いや、お前が前を見てないだけだ」

 ミライは凄まじくビックリしている。
 我が娘ながら、オツムは大丈夫なのだろうか?
 魔王城で戦った時より、はるかにおバカになっている気がするのだが……。

「<ミラークイーン>! ちゃんとおうえんしてよー! じょうきょうも伝えてよー!」

 そしてそんな不満を、自らの分身<ミラークイーン>にぶつけるミライ。
 問い詰められた<ミラークイーン>は言葉こそ発しないが、物凄く困惑している様子が伺える。

 てか、<ミラークイーン>にも自立した意識があるのか?
 流石は我が娘だ。能力の規格が訳わからない。

「おい、ミライ。<ミラークイーン>に応援や確認をさせるんじゃなくて、攻撃に参加させないのか?」
「あー! そっかー! よーし! <ミラークイーン>! がったいこうげきでいくぞー!」

 ミライのあまりのおバカっぷりに、思わずアドバイスしてしまう、俺。
 本来はミライへのお仕置きのはずだったのだが、いつの間にかミライの遊びに付き合う形になってしまっている。

 ――今度、この子に一から常識を教えないとな。
 そうしないと、ユメに怒られる。

「<ミラークイーン>! <ミラ・インパクト>の準備だ―!」

 そしてミライは<ミラークイーン>に合体攻撃の指示を出す。



「む~? <ミラークイーン>。早く<ミラ・インパクト>の準備をしてよー!?」

 ――出したのはいいのだが、<ミラークイーン>は指示の内容が分からないのか、困惑している。

 本当に<ミラークイーン>って、ミライの分身なのか?
 もうこれ、完全にミライとは別の自我を持ってるだろ。
 魔王城で戦った時が、嘘のようなやり取りだな……。

「むむー! だから、わたしをこういうふうに持って――」

 ミライは頑張って指示の内容を<ミラークイーン>に説明している。
 そしてようやく理解したのか、<ミラークイーン>はミライを両手で持ち上げ、肩に背負う。

 丁度、ミライの頭がこちらに向いた形になったが――



「いくぞー! <ミラ・インパクト>! 発射ー!」
「だから!? なんでお前が直接攻撃してきてるんだ!?」

 ミライの新技――<ミラ・インパクト>。
 それは<ミラークイーン>にミライ自身を投げさせる、本体の弾丸。
 この子は……なぜこうまでして、自身がダメージを背負いそうな技ばっかり使うんだ?

「くらえー!」
「<鉄の防御>!」

 ミライはきりもみ回転しながら、俺の頭へと飛んでくる。
 こちらもそれを迎え撃つため、額に<鉄の防御>を集中させる。



 ごち~~ん!!



「ぐぅ!? な、なんでこいつはこんなに石頭なんだ……!?」

 ミライの頭突きが俺の額に直撃する。
 <鉄の防御>のおかげでなんとか耐えたが、それでも痛い。
 俺の娘はとにかく頭が固い。物理的に固い。
 そして何より、頭が悪い。

 この子、俺とユメが育てたんだよな?
 確かに昔からテンションの高い子だったが、仮にも【伝説の魔王】と【慈愛の勇者】の娘が、どうしてこうなった……。

「ミライ、いい加減に大人しく――」


 ごろごろ! ごろごろ!


「~~~~~ッ!!??」

 俺が再三の注意をミライにしようとするが、当の本人は頭を押さえて地面を転がりまわっていた。
 どうやらミライも<鉄の防御>をかけた俺の頭が相手では、流石に痛かったらしい。
 とにかく痛そうに地面をゴロゴロと転がっている。


 ゴロゴロ! ゴロゴロ!


 そしてミライ以外にもう一人、<ミラークイーン>も頭を押さえて転がっている。
 <ミラークイーン>のダメージが本体のミライに行くのは知ってたが、ミライのダメージも分身の<ミラークイーン>に入るのか……。
 この子の能力、親の俺でも原理が全く理解できない。

「お、おのれー! さすがはパパだー! 強い! 強いー!」
「いや……俺、まだ何も攻撃してないからな?」

 転がり終わって、ようやく立ち上がったミライ。
 <ミラークイーン>も頭を押さえながら、ミライを介抱しつつ立ち上がる。

 まるで<ミラークイーン>が保護者だな。
 これじゃ、どっちが本体か分からない。

「やっぱりパパは強い! こうなったら――あのひっさつ技を使う時だー!」
「いや、だから……俺はまだ何も――」

 自身の攻撃だけで、自爆を続けるミライ。
 そんなミライに対する俺の言葉もどこ吹く風。
 ミライは本人曰く、"必殺技"で俺にまだ挑んでくるようだ。



 やんちゃが過ぎるミライへのお仕置きが、どうしてこうなった……。
 まあいい。もう少しだけミライのやんちゃに付き合って、その後にしっかり説教しよう。
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