記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第26章 追憶の番人『斎』

第392話 ミライちゃん・エキセントリック

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「いやー、それにしても孫娘かー。俺も年甲斐もなく、はしゃいじまいそうだ」
「だろうな、イトーさん。さっきからニヤケ面が止まってないぞ」

 俺とイトーさんはお互いに戦った翌日、王宮へと入っていた。
 もちろん理由はイトーさんをミライに紹介するためだ。
 イトーさんはこれまでにないほど上機嫌なのが、表情だけで分かる。

「そういや、イトーさん。俺はこれからあんたのことを、『お義父さん』とでも呼べばいいのか?」
「いや、呼ばなくていい。むしろやめてくれ。今更お前さんとの付き合い方を変えたくない」

 イトーさんも俺の『お義父さん』呼びを断ってくるが、俺も同意見だ。
 正直、今となっては俺もゼロラとして生きてきた時間に重きが置かれている。
 こっちとしてもイトーさんを『お義父さん』なんて呼びづらい。

「ところで、ゼロラよ。お前さんはマカロンやリョウのことはどうするつもりだ?」
「……ああ。そのことか……」

 イトーさんに言われるまでもなく、俺も二人との関係は気にしていた。
 今まではミライが落ち着くこと、こうしてイトーさんと真実を明かし合うことを優先していたが、これ以上二人の思いに対する答えを保留するわけにはいかない。

 だが、俺にはユメという妻がいた。
 今はもういないが、それでも全てを思い出した俺の思いは変わらない。
 それでも、マカロンとリョウへの思いも変わらない。

 相反する二つの思いか……。
 何とも苦しいものだ。

「まあ、悩むのも仕方ねえな。だが、お前さんがこうやって思い悩んでても、ユメは天国で浮かばれねえだろうよ」

 イトーさんは優しく俺のことを諭してくれる。
 確かに今ここにユメがいれば、イトーさんと同じように諭してくれただろう。
 あいつは俺の悩む姿なんて、見たがらないからな。

 それでもやはり悩んでしまう。
 何より、かつて【伝説の魔王】だった俺を仮に受け入れたとして、二人に迷惑は掛からないだろうか?
 今はミライのことも世間に伏せているから大丈夫だが、もしこのことが広まってしまったら――



「ゼロラ。これ以上は俺の口出しする領域じゃない。しっかり考えたうえで、二人には返事を出してやれよ?」

 イトーさんは笑いながらも、どこか心配した表情で話してくれた。

 そうだな。一度二人ともしっかり話そう。
 俺は今でも、マカロンとリョウのことは好きだ。
 俺の正体、ミライのこと、ユメとの関係も含め、一度しっかり話し合おう。

「ありがとな、イトーさん。とりあえず、まずはミライに会いに行くか」
「へへっ、気にするな。それに、俺も早く孫の顔が見たかったところだ」

 イトーさんも今は早くミライに会いたいようだ。
 俺とイトーさんはいつものたわいない会話をしながら、ミライの元へと向かった。





「部屋にいなかったから、どこに行ったかと思えば――」

 俺とイトーさんは王宮内の訓練所にやってきた。
 なんでもミライはラルフル、ミリア、ガルペラの三人と一緒に、ここで遊んでいるようだ。



 遊んでいたはずなのだが――



「あ! ゼロラさん! 助けてほしいのです! 収拾がつかないのです!」

 何やらガルペラが、慌てた様子で俺の元へと寄ってきた。
 話に聞いた通り、この訓練所にいるのはミライ、ガルペラ、ラルフル、ミリアの四人だ。

 ただ、ガルペラの慌てぶりの通り、どうにもおかしなことになってるようだ。

「なあ……ミリア。ラルフルに何があったんだ?」
「……今は寝かせてあげてください。ラルフルも……疲れちゃったんです……」

 そう言ってミリアは深刻そうな顔をしながら、ラルフルを膝枕している。
 当のラルフル本人は、目を瞑って眠っている。

 ――眠ってるんだよな?
 その表情はどこか『もう限界です』、『やれることはやりました』とでも言いたげな、何とも言えない表情だ。
 死んでないよな? 割と『死んでます』と言われても、違和感ないほどぐったりしてるぞ。




「あー! パパー!」

 そして傍では我が愛しの娘、ミライが一人でワチャワチャしていた。
 いつの間にかウィッチハットを被っているが、流石は我が娘。よく似合う。
 帽子から伸びた二本のアホ毛も元気そうだ。

「パパー! となりの人はだれー!?」

 何やらテンションが高めのミライ。
 そんな姿を俺の隣で見ていたイトーさんは、満面の笑みで答える。

「おお! お前さんがミライか! 小さい頃のユメにそっくりだなー!」
「おじちゃん、だれー!?」
「おじちゃんは、ミライちゃんのおじいちゃんだよー! ミライちゃんのお母さんのお父さんだよー!」

 イトーさんはすごく幸せそうだ。実に微笑ましい。
 亡くなった娘の子供が目の前にいるんだ。無理もない。

「おじいちゃん……? ママのパパー!? おじーちゃーん!!」

 イトーさんが祖父であることに気付いたミライは、元気よくイトーさんへと走り寄る。
 イトーさんもそんなミライを、両手を広げて笑顔で迎え入れようとする。



 しかし、ミライの奴。結構な距離から助走をつけてるな。
 なんだか踏み込むような態勢をとってるし、頭をイトーさんの方にむけてるし――



「ミライちゃん! <ミラ・イッテキマス>はダメだのです!」

 ――そうだ、これってミライが良くやるロケット頭突き、<ミラ・イッテキマス>の構えだ。
 ガルペラも焦っているが、これはまさかこのまま――



「おじーちゃーん! <ミラ・イッテキマス>!!」


 どごむぅう!!


「おふぅう!?」
「イトーさーーん!?」

 ミライが放った<ミラ・イッテキマス>は、見事にイトーさんの腹に直撃。
 ミライの頭がイトーさんの腹へとめり込み、イトーさんは大きく吹き飛ぶ。
 慌てた俺は、すぐにイトーさんの元へと駆け寄る。

「イトーさん!? しっかりしろ!?」
「ゼ……ゼロラ……。俺は最期に……かわいい孫娘の頭突きを食らって……本望……だぜ……」

 俺の腕の中でイトーさんは力なくそうつぶやき――



「ミ……ミライと……幸せに……な……」



 ――意識を手放した。
 死んではいない。幸せそうな顔で眠っただけだ。
 "かわいい孫娘"ということで、怒りよりも喜びが上回っていたのだろう。



 ――もしかして、ラルフルの状況も含めて、全部ミライが原因なのか?



「ゼロラさん。お察しかと思うのですが、ミライちゃんのせいで収拾がつかなくなったのです……」

 ガルペラの話で全部理解した。
 どうやらミライは元気になってテンションが上がりすぎたせいで、少々周りに迷惑をかけていたようだ。

「なんとー!? おじいちゃんがねちゃったー!? なんとー!?」

 当のミライ本人は、なおもテンションが上がりっぱなしなようだ。
 両手をワチャワチャさせて、反省の色が見えない。



 これは、少々お仕置きが必要だな。



「ミライ。元気なのはいいことだが、人様に迷惑をかけるのはダメだな?」
「パ……パパ? な、なんだか、お顔がこわい……」

 これはユメとも決めていた教育方針だ。
 『ミライが悪いことをしたら、ちゃんと叱る』。
 少々おいたが過ぎるミライには、説教が必要だ。

「パパ……怒ってる……?」
「ああ、少しな」
「『少し』……? たしかにお顔は笑ってるけど、なんだかこわい……! すごくこわい……!」

 ミライはたじろいでいるが、俺も心を鬼にして、ミライに説教するとしよう。
 とびきり怖いぐらいの笑顔を浮かべながら。
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