389 / 476
第26章 追憶の番人『斎』
第389話 諦めたくない思い
しおりを挟む
「はぁ~~……」
「長い溜息だね、マカロン」
私は今日、リョウさん向かい合って王都のカフェで話をしている。
ミライちゃんも落ち着いてきたし、どうしてもリョウさんと話したいことがあった。
「リョウさん……。ゼロラさんへの思いって、今もありますか?」
「あるね。前にも言った通り、ボクはゼロラ殿が何者であっても受け入れる。ボクが好きなのは、今も変わらないゼロラ殿さ」
リョウさんは平然とそう言いながら、カップのコーヒーをすする。
私とは違い、迷いなんてない表情が羨ましい――
「でもね、ゼロラ殿のことは諦めようと思うんだ」
「え!? ま、まだ好きなのに!?」
「ゼロラ殿はそもそも結婚してたからね。奥さんは亡くなったけど、娘のミライちゃんはいる。そして何より、今も奥さんのことを愛している。ボクはそういう間に、割り入る主義じゃないんだ」
カップを置いたリョウさんは、また平然と言ってのける。
この人は引き際をわきまえている。なんとも大人な女性の考え方だ。
それに比べて、今だに諦めきれない私のなんと幼稚なことか――
「マカロン。君はゼロラ殿を諦めたくないんだね?」
そんな私の心を見透かすかのように、リョウさんは尋ねてきた。
「はい……諦めたくありません。本当に私って、子供っぽいですよね……」
「それでもいいんじゃないかな? むしろボクみたいに、あっさり諦められちゃう方がどうかしてるよ」
リョウさんは私の思いを肯定してくれている。
あっけからんとした表情で、どこか達観した考えを述べてくれる。
「それにね、マカロン。ボクは君なら、ミライちゃんの"新しいお母さん"になれるとも考えてるんだ」
「え!? わ、私が!? ミライちゃんの!?」
「そう。ミライちゃんは君によく懐いている。ユメ様という実の母がいたとしても、あんなに小さい子には母親が必要なのさ」
リョウさんが言うことも分からなくはない。
だけど――
「そんなの、私みたいな子供っぽい女に―― 痛っ!?」
私がリョウさんに思いの丈を話そうとしたら、急におでこに何かが当たった。
「な、何をしたんですか!? リョウさん!?」
「<魔法デコピン>」
よく見るとリョウさんは、右手でデコピンのポーズをしていた。
この離れた距離でデコピンって……。本当に魔法に関してはこの人って天才ね。
「子供っぽくていいじゃないか。何よりも重要なのは、『ミライちゃんがマカロンを受け入れてくれる』こと。そして、そんなマカロンを『ゼロラ殿も認めてくれている』ってことだよ」
私の話をデコピンで遮ったリョウさんは、自らの考えをかぶせてくる。
「確かにボクは、ゼロラ殿にユメ様という奥さんがいたから諦めた。でも、君も同じように諦める必要なんかない。ある意味これで、ボクは君の恋を純粋に応援できるよ。クフフフ」
リョウさんは笑いながら語ってくれたが、その表情はどこか物憂げだ。
この人が諦めると言った以上事実なのだろうけど、やっぱり思うところがあるのだろう――
「さてと……。ボクはそろそろお暇させてもらうよ。ちょっと用事があるからね」
「用事? 何の用事ですか?」
席を立って離れようとするリョウさんは、振り向きながら私に答えてくれた。
「荷物をまとめるんだよ。ボク、また旅に出ようと思ってね」
「え!? なんでまた旅に!?」
「まあハッキリ言うと、傷心旅行だね……」
私に答えてくれるリョウさんの目は、どこか寂しそうだった。
やっぱりリョウさんもショックだったんだ。
ゼロラさんに奥さんがいて、子供までいたことが――
「マカロン。改めて言うけど、君がゼロラ殿を諦める必要はない。むしろ……諦めないでほしい。ゼロラ殿とミライちゃんを支えられる人間なんて、君ぐらいだろうからね」
「旅に出ても……また、会えますよね?」
「そうだね。ジフ兄もシシ兄も、しばらくはこの国にいるだろうし、気が向いたらまた戻って来るよ。まあ、旅立つ前に挨拶ぐらいはしに行くよ」
戻ってくるとは言ってるけど、それでもやっぱり私も寂しい。
ゼロラさんとの恋のライバルだったけど、今となっては私の良き友人――
そんな人との別れは名残惜しい――
だけど、この人ならすぐにいい相手が見つかるだろう。
後私にできるのは、この人の幸せを願うだけ――
「でも、寂しいからマカロンから記念に何か欲しいな? パンツとか一枚貰ってもいいかな?」
――この変態性さえなければな~……。
「長い溜息だね、マカロン」
私は今日、リョウさん向かい合って王都のカフェで話をしている。
ミライちゃんも落ち着いてきたし、どうしてもリョウさんと話したいことがあった。
「リョウさん……。ゼロラさんへの思いって、今もありますか?」
「あるね。前にも言った通り、ボクはゼロラ殿が何者であっても受け入れる。ボクが好きなのは、今も変わらないゼロラ殿さ」
リョウさんは平然とそう言いながら、カップのコーヒーをすする。
私とは違い、迷いなんてない表情が羨ましい――
「でもね、ゼロラ殿のことは諦めようと思うんだ」
「え!? ま、まだ好きなのに!?」
「ゼロラ殿はそもそも結婚してたからね。奥さんは亡くなったけど、娘のミライちゃんはいる。そして何より、今も奥さんのことを愛している。ボクはそういう間に、割り入る主義じゃないんだ」
カップを置いたリョウさんは、また平然と言ってのける。
この人は引き際をわきまえている。なんとも大人な女性の考え方だ。
それに比べて、今だに諦めきれない私のなんと幼稚なことか――
「マカロン。君はゼロラ殿を諦めたくないんだね?」
そんな私の心を見透かすかのように、リョウさんは尋ねてきた。
「はい……諦めたくありません。本当に私って、子供っぽいですよね……」
「それでもいいんじゃないかな? むしろボクみたいに、あっさり諦められちゃう方がどうかしてるよ」
リョウさんは私の思いを肯定してくれている。
あっけからんとした表情で、どこか達観した考えを述べてくれる。
「それにね、マカロン。ボクは君なら、ミライちゃんの"新しいお母さん"になれるとも考えてるんだ」
「え!? わ、私が!? ミライちゃんの!?」
「そう。ミライちゃんは君によく懐いている。ユメ様という実の母がいたとしても、あんなに小さい子には母親が必要なのさ」
リョウさんが言うことも分からなくはない。
だけど――
「そんなの、私みたいな子供っぽい女に―― 痛っ!?」
私がリョウさんに思いの丈を話そうとしたら、急におでこに何かが当たった。
「な、何をしたんですか!? リョウさん!?」
「<魔法デコピン>」
よく見るとリョウさんは、右手でデコピンのポーズをしていた。
この離れた距離でデコピンって……。本当に魔法に関してはこの人って天才ね。
「子供っぽくていいじゃないか。何よりも重要なのは、『ミライちゃんがマカロンを受け入れてくれる』こと。そして、そんなマカロンを『ゼロラ殿も認めてくれている』ってことだよ」
私の話をデコピンで遮ったリョウさんは、自らの考えをかぶせてくる。
「確かにボクは、ゼロラ殿にユメ様という奥さんがいたから諦めた。でも、君も同じように諦める必要なんかない。ある意味これで、ボクは君の恋を純粋に応援できるよ。クフフフ」
リョウさんは笑いながら語ってくれたが、その表情はどこか物憂げだ。
この人が諦めると言った以上事実なのだろうけど、やっぱり思うところがあるのだろう――
「さてと……。ボクはそろそろお暇させてもらうよ。ちょっと用事があるからね」
「用事? 何の用事ですか?」
席を立って離れようとするリョウさんは、振り向きながら私に答えてくれた。
「荷物をまとめるんだよ。ボク、また旅に出ようと思ってね」
「え!? なんでまた旅に!?」
「まあハッキリ言うと、傷心旅行だね……」
私に答えてくれるリョウさんの目は、どこか寂しそうだった。
やっぱりリョウさんもショックだったんだ。
ゼロラさんに奥さんがいて、子供までいたことが――
「マカロン。改めて言うけど、君がゼロラ殿を諦める必要はない。むしろ……諦めないでほしい。ゼロラ殿とミライちゃんを支えられる人間なんて、君ぐらいだろうからね」
「旅に出ても……また、会えますよね?」
「そうだね。ジフ兄もシシ兄も、しばらくはこの国にいるだろうし、気が向いたらまた戻って来るよ。まあ、旅立つ前に挨拶ぐらいはしに行くよ」
戻ってくるとは言ってるけど、それでもやっぱり私も寂しい。
ゼロラさんとの恋のライバルだったけど、今となっては私の良き友人――
そんな人との別れは名残惜しい――
だけど、この人ならすぐにいい相手が見つかるだろう。
後私にできるのは、この人の幸せを願うだけ――
「でも、寂しいからマカロンから記念に何か欲しいな? パンツとか一枚貰ってもいいかな?」
――この変態性さえなければな~……。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる