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第25章 新たなる世界へ

第378話 三公爵筆頭撃滅戦②

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「ニナーナさん! しっかりしてください!」
「申し訳……ございません……。戦闘続行は……不可能です……」

 ニナーナさんはボーネス公爵により、船のマストに叩きつけられてしまいました。
 自分が駆け寄ると、ニナーナさんは全身からバチバチと火花を走らせながら答えてくれます。
 表情は変わりませんが、お母さんと同じ姿をしていると、やはり見ていて苦しいです。

「オグァアア……!」
「もう、理性も残っていないようですね。ボーネス公爵……」

 ボーネス公爵は今もうめき声を上げながら、ゆっくりとこちらへ迫ってきます。

 もはや異形の怪物と化したボーネス公爵――
 ニナーナさんを守るためにも、自分が倒すしかありません!

「ニナーナさん、休んでいてください。自分はボーネス公爵を倒してきます」
「ラルフル……信じて……ます。健闘を――」

 ニナーナさんはそれだけ言うと、目を瞑って動かなくなりました。
 大丈夫です。これは人間でいうところの、"眠っているだけ"です。

 自分はボーネス公爵へと向き直り、その目を睨みます。
 以前ジャコウ様にミリアさんを傷つけられそうになった時と、同じ気持ちです。
 自分の体中を、"怒り"が走っていきます――

「フゥー……」

 ――ですが、落ち着きましょう。
 ミリアさんの時もそうでしたが、怒りに身を任せたせいで、自分はサイバラさんに痛めつけられました。
 今のボーネス公爵は、あの時のサイバラさんと同じような相手です。
 圧倒的なパワー。強靭な肉体。
 自分との体格差では、ただ勢い任せに戦っても勝算は薄いです。

 少し目を瞑って深呼吸し、気持ちを整え終えてから再度目を開けました。

「今度こそ終わりです。ボーネス公爵」

 自分は冷静さを維持したまま、ボーネス公爵へと構えます。
 ボーネス公爵もその怪物となった眼で、自分を見下ろしてきます――





「オグァアア!!」
「フゥン!」

 まずはボーネス公爵の右手による、爪での薙ぎ払い。
 自分はそれを頭をかがめる<ウィービング>で回避します。

 いくら相手が大きくなったとはいえ、基本をおろそかにしてはいけません。
 ゼロラさんに教わった、最も基本的な戦い方――
 怪物と化し、理性を失ったボーネス公爵には、これが一番効果的です!

「ハァアア!!」
「アグァ……!?」

 ボーネス公爵の単調な攻撃を躱しながら、自分はパンチで腹部を狙い撃ちます!
 自分の体の小ささなら、巨大化したボーネス公爵の懐に潜り込むのも容易いです!

「テヤァア! ハァア!」


 ドゴォ! バギャンッ!


「オグァ……アグァ……!」

 こちらの攻撃で、ボーネス公爵は怯み始めます。
 お腹を押さえながら苦しみ、後ろへと下がって行きます。

 どんなに体を異形と化しても、どんなに強大な力を手に入れても――

「まだやりますか? あなたでは自分に勝てません」
「アガァ……オガァ……!」

 ――それを使いこなせるだけの技量が、ボーネス公爵にはありません。
 戦いの中でそれを実感した以上、もう自分に負ける気はありません。

「オグァアアア!!」
「そうですか……。まだやりますか……」

 ボーネス公爵はよだれをたらし、うめき声を上げながらも、こちらへ再度襲ってきます。
 分かり切っていたことですが、この人に言葉はもう届きません。

「ハァアアア!!」


 ダンッ――


 自分は甲板を蹴ってボーネス公爵の頭上へと飛び上がり――


 ベギャァアン!!


 ――その首筋へと後ろ胴回し蹴りを放ちました。
 足から伝わる、骨までめり込むような感触――

「完全に決まりましたね」
「アグァ……オ、オノレ……」

 ――そのダメージにボーネス公爵は耐えきれず、その巨体も甲板に倒れ込みました。


 シュゥウウ――


 さらに異形化の効果も切れ、ボーネス公爵は元の姿へと戻って行きます。

 これでようやく終わりです――



「ハァ~……。疲れました――」
「おーい! ラルフルー! 生きとるかー!?」

 自分が甲板に座って休もうとすると、遠くから自分を呼ぶ声がしました。



「ゼェ、ゼェ! こんなことなら、船、完全に沈めるんじゃなかったぁ……!」
「愚痴るな、サイバラ。大人しくこげ。第一、お前は一人で二隻も沈めてるだろ」
「即席で組んだイカダやが、迎えに来たでー!」

「サイバラさん! ジフウさん! シシバさん!」

 他の船で戦っていた三人が、イカダで迎えに来てくれました。
 どうやら他も上手くいったようです。

 これで、やっと帰れますね――

「さあ、帰りましょうか。ゼロラさん、ミライちゃん……」
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