上 下
360 / 476
第24章 常なる陰が夢見た未来

第360話 【正義が生んだ怪物】②

しおりを挟む
 俺がミライの手によって誘われた空間――
 そこは光一つ射さない、漆黒の世界。
 今のミライの心情を具現化した、地面さえない黒一色の空間。

「こちらとしても助かる。これなら、俺の仲間達にも被害は及ばない。それに……お前自身にもそんな真似をさせずに済む」

 地面さえない空間だが、俺の体は自然と宙を舞っている。
 そして何より、俺には分かる。この空間での戦い方が――

「減らず口はココマデだ! コノ世界で、ワタシの真の力ヲ、存分に味わうガイイ!!」

 俺の目の前には、同じようにミライが浮かんでいる。
 そしてその傍らには、分身である<ミラークイーン>の姿も――

「ワタシを"写セ"! <ミラークイーン>!!」

 そうミライが命じると、<ミラークイーン>の眼前に、鏡のような物が現れる。
 その鏡でミライを写すと、鏡の中から二つの影が現れる――



「タトエ貴様がドレダケ強かろうト――」
「ワタシ"達"、三人には敵わナイ――」
「コノ三人……全テが"ワタシ"ダ!!」

 <ミラークイーン>の作り出した鏡によって、ミライが三人に分身した。
 いや、ミライが言うように、"三人とも"本物のミライなのだろう。

「数で攻めてくる気か……」
「ああ、ソウダ! コノ三人――全テがワタシ!」
「行くゾォオ! 人間!! このワタシの世界デ――」
「今度コソ、始末してヤルゾォオ!!」

 三人に増えたミライは、一斉に俺へと襲い掛かる。
 それぞれが両手に<魔王の闇>を展開し、宙を舞って俺へと飛び掛かる。

「くっ!? 流石にこの空間、この数、この実力――動きが読めても対処しきれないか……!」

 俺の体も不思議とこの空間に馴染み、宙に浮いていてもどう動けばいいのかは分かる。
 だが、ミライの方があらゆる面で一枚上手だ。

 宙を舞うことも、飛びながら戦うことも、三人に増えたことによる連携も――
 完全に俺の上をいく戦い方を仕掛けてくる。

 <魔王の闇>で直接殴り掛かる者。
 少し離れて、<魔王の闇>の弾丸を飛ばす者。
 遠くから旋回しながら、<魔王の闇>のレーザーを放つ者。
 これら相手にただ守るだけでは、俺に勝ち目はない――

「仕方ない……オラァ!」

 これまで中々手を出せずにいたが、俺は意を決して三人のうちの一人のミライを殴り飛ばす。

「ウギュウゥ!? ――キャハハハ!」

 確かな手応えはあった。殴られたミライもその衝撃で怯んだ。
 だが、ミライは余裕とばかりに笑っている。

「無駄なコトを! <ミラークイーン>! 入れ替えロ!」

 ミライの命令を聞き、離れた場所にいた<ミラークイーン>が接近する。
 そして、ダメージを受けた三人のうちの一人を鏡に納め――

「いくらワタシを攻撃シテも無駄ダ!」
「ワタシ達は――イクラでも入れ替わル!」
「一人減っテモ、追加スレばイイだけダ! キャハハハ!」

 ――ダメージを受けていない、"新たなミライ"が姿を現す。
 <ミラークイーン>をサポートに回した人海戦術――
 ミライは再び、<ミラークイーン>を自身から離した距離に待機させる。

「本当に何でもありの能力だな……」

 【伝説の魔王】と【慈愛の勇者】から受け継いだ魔力――
 絶望と憎悪の悪夢によって、限界を超えたミライの力――
 【正義が生んだ怪物】と言うに相応しい能力を、その小さな体にはあまりにも大きすぎる力を、ミライは手にしてしまっている。



 それでも、ミライを止められるのは俺しかいない。
 何より、突破口はもう見えている。

 俺は宙に浮かんだ足元に力を入れる。
 ミライと戦う中で、俺もこの地面すらない空間にだいぶ慣れてきた。

 宙を蹴る感触をイメージし、一気に踏み込む態勢をとる――



「ッラァア!!」

 ――そして、俺は自らの体を空中で加速させた。

「ナンだと!?」
「このワタシの世界デ――」
「モウ動き方ヲ、理解したダト!?」

 俺が宙を蹴って駆ける姿に、三人のミライは驚きを露にする。
 だが俺が向かった先は、そんなミライ達ではない――

「ま、マサカ!?」
「狙いハ――」
「<ミラークイーン>カ!?」

 そう、俺の狙いはミライ達ではなく、<ミラークイーン>。
 いくら"ミライが三人"いても、別のミライを新しく追加できたとしても――

「<ミラークイーン>は一人だけ。それに――<ミラークイーン>にならば、どのミライにもダメージが入るだろ?」
「や、ヤメロ!」
「お、応戦スルんダ!」
「<ミラークイーン>!!」

 俺が<ミラークイン>に突撃するのを見て、ミライ達は慌てて命令を下す。


 ドカッ! バキィ!


 宙に浮いたこの空間で、俺と<ミラークイーン>の格闘戦が繰り広げられる。
 ミライが父ジョウインのものを見て学んだ<ミラークイーン>の格闘能力は高い。



 それでも、今の俺は格闘だけに限れば、"あの頃"よりも強い。

「オォラァアア!!」

 俺の拳が<ミラークイーン>の頬に直撃した。

「イダァ……!? アアアァアァ!!」
「ヨ、ヨクもォオオ!!」
「こ、コウなったラ――」

 俺が<ミラークイーン>に与えたダメージは、本体であるミライ達全員に行き届いている。
 直接殴っているわけではないが、やはり心苦しい。
 だが、今のミライを止める方法はこれしかない。

 何より、ミライはまだ俺への敵意を収めず、次の攻撃へ移ろうとしている――

「戻レ! <ミラークイーン>!!」

 ミライは<ミラークイーン>を、自らの元へと戻す。
 さらに三人に分身していた自らも、一人へと戻る。

「どうした? まだ終わらないんだろ?」
「当タリ前ダ! 貴様が純粋な力でワタシに挑ムのナラ! ワタシも徹底的に、力デ押し切ッテやるゾォオオ!!」

 その言葉と共に、ミライは両腕を広げて俺よりはるか頭上へと浮かぶ。
 さらに、<ミラークイーン>にも変化が――


 ズズズゥ―― ズオォオオ――


「成程な。魔幻塔でリョウに憑依させていたのと同じか。だが――」

 ――<ミラークイーン>は、俺が見上げる程に巨大化した。
 そのサイズは魔幻塔でリョウに憑依させていた時よりも、はるかに大きい。
 本体のミライはその胸元へと収まり、こちらを見下ろしている。
 その瞳に憎悪を宿し、憤怒で歯を食いしばりながら――

「潰してヤル……消してヤル……! ワタシの力で――父と母ヨリ受け継ぎシ力で!! 貴様ヲ殺しテヤルぞオォオオ!!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師
恋愛
 春休み。4月になったら高校2年になる成川光海(なりかわみつみ)は、2年の予習をしようと、図書館に来た。そしてそこで、あり得ないものを見る。  同じクラスの不良、橋本涼(はしもとりょう)が、その図書館で、その学習席で、勉強をしていたのだ。 「勉強、教えてくんねぇ?」  橋本に頼まれ、光海は渋々、橋本の勉強を見ることに。  何が、なんで、どうしてこうなった。  光海がそう思う、この出会いが。入学して、1年経っての初の関わりが。  光海の人生に多大な影響を及ぼすとは、当の本人も、橋本も、まだ知らない。    ◇◇◇◇◇◇◇◇  なるべく調べて書いていますが、設定に緩い部分が少なからずあります。ご承知の上、温かい目でお読みくださると、有り難いです。    ◇◇◇◇◇◇◇◇  他サイトでも掲載しています。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

父と母は転生者!そして私は悪役令嬢・・らしいです?

naturalsoft
ファンタジー
皆様初めまして。 私はミスレイン公爵家の長女、シオン・ミスレインです。兄妹に1つ上のお兄様がいます。私はごく平凡な貴族の御令嬢で、少し魔法が使える程度の者ですが、私のお父様とお母様がとても素晴らしい方で私の自慢の両親なのです。 【私の婚約破棄】などと言う状況よりも、皆様に私の敬愛する両親のお話しをしましょう!大好きなお父様、お母様の話しを聞いて下さい! そして、敬愛する両親を罵倒した愚か者の末路をお楽しみ下さいませ。フフフ・・・ 【不定期更新】です。他の小説の合間に読んで貰えると嬉しいです。 (愚者の声で作中に参加してます) 同作品 『悪役令嬢戦記!大切な人のために戦います』 と、コラボしています。同じ世界観で絡んできます。 素人の執筆で至らない所が多々あるかと思いますが生暖かい目で読んで頂けたらと思います。 5/3:HOTランキング23位ありがとうございます!

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...