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第24章 常なる陰が夢見た未来

第360話 【正義が生んだ怪物】②

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 俺がミライの手によって誘われた空間――
 そこは光一つ射さない、漆黒の世界。
 今のミライの心情を具現化した、地面さえない黒一色の空間。

「こちらとしても助かる。これなら、俺の仲間達にも被害は及ばない。それに……お前自身にもそんな真似をさせずに済む」

 地面さえない空間だが、俺の体は自然と宙を舞っている。
 そして何より、俺には分かる。この空間での戦い方が――

「減らず口はココマデだ! コノ世界で、ワタシの真の力ヲ、存分に味わうガイイ!!」

 俺の目の前には、同じようにミライが浮かんでいる。
 そしてその傍らには、分身である<ミラークイーン>の姿も――

「ワタシを"写セ"! <ミラークイーン>!!」

 そうミライが命じると、<ミラークイーン>の眼前に、鏡のような物が現れる。
 その鏡でミライを写すと、鏡の中から二つの影が現れる――



「タトエ貴様がドレダケ強かろうト――」
「ワタシ"達"、三人には敵わナイ――」
「コノ三人……全テが"ワタシ"ダ!!」

 <ミラークイーン>の作り出した鏡によって、ミライが三人に分身した。
 いや、ミライが言うように、"三人とも"本物のミライなのだろう。

「数で攻めてくる気か……」
「ああ、ソウダ! コノ三人――全テがワタシ!」
「行くゾォオ! 人間!! このワタシの世界デ――」
「今度コソ、始末してヤルゾォオ!!」

 三人に増えたミライは、一斉に俺へと襲い掛かる。
 それぞれが両手に<魔王の闇>を展開し、宙を舞って俺へと飛び掛かる。

「くっ!? 流石にこの空間、この数、この実力――動きが読めても対処しきれないか……!」

 俺の体も不思議とこの空間に馴染み、宙に浮いていてもどう動けばいいのかは分かる。
 だが、ミライの方があらゆる面で一枚上手だ。

 宙を舞うことも、飛びながら戦うことも、三人に増えたことによる連携も――
 完全に俺の上をいく戦い方を仕掛けてくる。

 <魔王の闇>で直接殴り掛かる者。
 少し離れて、<魔王の闇>の弾丸を飛ばす者。
 遠くから旋回しながら、<魔王の闇>のレーザーを放つ者。
 これら相手にただ守るだけでは、俺に勝ち目はない――

「仕方ない……オラァ!」

 これまで中々手を出せずにいたが、俺は意を決して三人のうちの一人のミライを殴り飛ばす。

「ウギュウゥ!? ――キャハハハ!」

 確かな手応えはあった。殴られたミライもその衝撃で怯んだ。
 だが、ミライは余裕とばかりに笑っている。

「無駄なコトを! <ミラークイーン>! 入れ替えロ!」

 ミライの命令を聞き、離れた場所にいた<ミラークイーン>が接近する。
 そして、ダメージを受けた三人のうちの一人を鏡に納め――

「いくらワタシを攻撃シテも無駄ダ!」
「ワタシ達は――イクラでも入れ替わル!」
「一人減っテモ、追加スレばイイだけダ! キャハハハ!」

 ――ダメージを受けていない、"新たなミライ"が姿を現す。
 <ミラークイーン>をサポートに回した人海戦術――
 ミライは再び、<ミラークイーン>を自身から離した距離に待機させる。

「本当に何でもありの能力だな……」

 【伝説の魔王】と【慈愛の勇者】から受け継いだ魔力――
 絶望と憎悪の悪夢によって、限界を超えたミライの力――
 【正義が生んだ怪物】と言うに相応しい能力を、その小さな体にはあまりにも大きすぎる力を、ミライは手にしてしまっている。



 それでも、ミライを止められるのは俺しかいない。
 何より、突破口はもう見えている。

 俺は宙に浮かんだ足元に力を入れる。
 ミライと戦う中で、俺もこの地面すらない空間にだいぶ慣れてきた。

 宙を蹴る感触をイメージし、一気に踏み込む態勢をとる――



「ッラァア!!」

 ――そして、俺は自らの体を空中で加速させた。

「ナンだと!?」
「このワタシの世界デ――」
「モウ動き方ヲ、理解したダト!?」

 俺が宙を蹴って駆ける姿に、三人のミライは驚きを露にする。
 だが俺が向かった先は、そんなミライ達ではない――

「ま、マサカ!?」
「狙いハ――」
「<ミラークイーン>カ!?」

 そう、俺の狙いはミライ達ではなく、<ミラークイーン>。
 いくら"ミライが三人"いても、別のミライを新しく追加できたとしても――

「<ミラークイーン>は一人だけ。それに――<ミラークイーン>にならば、どのミライにもダメージが入るだろ?」
「や、ヤメロ!」
「お、応戦スルんダ!」
「<ミラークイーン>!!」

 俺が<ミラークイン>に突撃するのを見て、ミライ達は慌てて命令を下す。


 ドカッ! バキィ!


 宙に浮いたこの空間で、俺と<ミラークイーン>の格闘戦が繰り広げられる。
 ミライが父ジョウインのものを見て学んだ<ミラークイーン>の格闘能力は高い。



 それでも、今の俺は格闘だけに限れば、"あの頃"よりも強い。

「オォラァアア!!」

 俺の拳が<ミラークイーン>の頬に直撃した。

「イダァ……!? アアアァアァ!!」
「ヨ、ヨクもォオオ!!」
「こ、コウなったラ――」

 俺が<ミラークイーン>に与えたダメージは、本体であるミライ達全員に行き届いている。
 直接殴っているわけではないが、やはり心苦しい。
 だが、今のミライを止める方法はこれしかない。

 何より、ミライはまだ俺への敵意を収めず、次の攻撃へ移ろうとしている――

「戻レ! <ミラークイーン>!!」

 ミライは<ミラークイーン>を、自らの元へと戻す。
 さらに三人に分身していた自らも、一人へと戻る。

「どうした? まだ終わらないんだろ?」
「当タリ前ダ! 貴様が純粋な力でワタシに挑ムのナラ! ワタシも徹底的に、力デ押し切ッテやるゾォオオ!!」

 その言葉と共に、ミライは両腕を広げて俺よりはるか頭上へと浮かぶ。
 さらに、<ミラークイーン>にも変化が――


 ズズズゥ―― ズオォオオ――


「成程な。魔幻塔でリョウに憑依させていたのと同じか。だが――」

 ――<ミラークイーン>は、俺が見上げる程に巨大化した。
 そのサイズは魔幻塔でリョウに憑依させていた時よりも、はるかに大きい。
 本体のミライはその胸元へと収まり、こちらを見下ろしている。
 その瞳に憎悪を宿し、憤怒で歯を食いしばりながら――

「潰してヤル……消してヤル……! ワタシの力で――父と母ヨリ受け継ぎシ力で!! 貴様ヲ殺しテヤルぞオォオオ!!」
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