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第24章 常なる陰が夢見た未来
第349話 魔王城走馬灯⑤
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「こら! ミライ! 遊び終わったオモチャはちゃんと片付けなさい!」
「ふえー!? パパー! ごめんなさーい!」
ジョウイン、ユメ、ミライ。親子三人の生活はその後も滞りなく続いた。
「いまからかたづけるー! ちゃーんと、"おもちゃばこ"になおすー!」
「待て! ミライ! その"おもちゃばこ"……箱の表面に"あまさやぱに"と書いてあるぞ。字……間違えてるぞ……」
「なんとー!?」
ミライは父ジョウインに、おもちゃを片付けてなかったりして怒られることもあったが、頑張って片づけた。
「こらー! ミライちゃん! またピーマンを残したわね!?」
「ふえー!? ママー! ごめんなさーい! ……でも、ピーマンきらーい……」
「ダメです! 好き嫌いをしてたら、大きくなれません!」
「ふえ~……」
ミライは母ユメに、嫌いなピーマンを残して怒られることもあったが、頑張って食べた。
「ユメ、この食べ物は何だ? 丸いし……タコを入れたのか?」
「これは"たこ焼き"という食べ物です。皆で作りながら食べましょう」
「わたし、くるくるするー! たこやき、くるくるするー!」
親子三人でたこ焼きを作りながら、食卓で盛り上がることもあった。
「ミライちゃん。いつかおじいちゃんのところにも遊びに行こうね。お母さんもおじいちゃんも、東洋の出身でね。私に剣術を教えてくれて――」
「ユメの父親か……。我はどんな顔をして会えばいいんだ……?」
「パパー! いつも仮面つけてるから、顔わかんないー!」
ユメの家族について話を聞くこともあった。
それは三人にとって、とても幸せな日々だった。
ジョウインもユメやミライと過ごす時間だけは、自らの職務と魔王としての立場を忘れられた。
三人はずっとこんな毎日が続くと思っていた。
――だが、その願いは叶わなかった。
■
「……ダンジェロ。ユメの行方は……まだ分からないのか?」
「恐縮ですが、今だ掴めておりませぬ」
ユメが突如失踪したのだ。
行き先も分からず、ジョウインは必死に行方を捜していた。
それでも、ユメは見つからなかった――
「パパー……。ママ、どこいっちゃったの……?」
「安心しろ、ミライ。お母さんは必ず見つけ出す……」
ジョウインは決してユメが自らの意志で魔王城を出て行ったとは考えていなかった。
魔王城に来た頃ならまだしも、今はミライという娘がいる。
そんな状況でユメが帰ってこないことなど、考えられなかった――
「ユメ……。本当にどこへ行ってしまったんだ……?」
ジョウインひたすらにユメの身を案じた。
何か良くないことにユメが巻き込まれたのではないか?
どこかで無事でいてくれているのか?
そんな不安がジョウインとミライの中でつのる――
そんな日々が一年以上続いた――
■
「ついに追い詰めたぞ――【伝説の魔王】ジョウイン!!」
「…………」
そんな失意の日々を過ごしていたある日、ユメとは別の勇者がジョウインの元に現れた。
その勇者の名は――レイキース。
後に【栄光の勇者】と呼ばれる男だ。
リフィー、バルカウスという仲間を連れ、ジョウインがいる玉座の元へとやってきた。
「新たな勇者がここにいる……。ならば、ユメはどうしたのだ……?」
「先代勇者ユメならば、魔王である貴様に与した罪で処刑された」
「ユメが……死んだ……?」
そのレイキースの一言に、ジョウインは絶望した。
元々ユメの失踪の日から、生気が抜け落ちたようになっていたジョウイン――
そんなジョウインに対して、レイキースの言葉は止めの一撃となった。
「これがあの【伝説の魔王】なの? 完全に脱力しきっていますわ」
「魔王城にもかつて拙者が戦った、四天王のダンジェロという男すらいなかったしな……」
リフィーやバルカウスも、目の前にいる男が本当に【伝説の魔王】なのかと疑った。
それほどまでにジョウインは弱り果てていた――
レイキース達がここまで攻め込めたのも、ジョウインが気力を失って魔王軍の士気が大幅に落ちていたからだ。
それでもジョウインは不測の事態に備え、必要最低限の配下だけを魔王城に残し、オクバの亜人隊といった面々を方々に分散させておいた。
ユメがいない以上、ジョウインに"人と魔の共存"のための改革を続けるだけの気力も残っていなかった。
そのため、娘のミライの身辺の世話をする者、自らと魔力の契約を交わし、自らが死ねば共倒れになることになる魔王軍四天王しか、魔王城には残っていなかった。
ただその中に、魔王軍四天王最強と呼ばれるジョウインの腹心――【欲望の劫火】ダンジェロの姿はなかった。
だから、レイキース達が魔王城の玉座の間までたどり着くことは容易であった。
「……もういい。我を殺すならば、殺せ。ユメのいないこの世に……もう未練はない」
ジョウインは全てを諦めた。
ユメがいなくなってから、ユメの帰りを待つことがジョウインにとって生きる希望だった。
でも、それももう叶わない――
「いいだろう。僕の"正義"の名のもとに、貴様に引導を渡してやる! 【伝説の魔王】! ジョウイィイン!!」
レイキースは両手に持った剣に渾身の力を込め、大きく振りかぶり――
ザシュンッ!!
――ジョウインの体を大きく切り裂いた。
「ふえー!? パパー! ごめんなさーい!」
ジョウイン、ユメ、ミライ。親子三人の生活はその後も滞りなく続いた。
「いまからかたづけるー! ちゃーんと、"おもちゃばこ"になおすー!」
「待て! ミライ! その"おもちゃばこ"……箱の表面に"あまさやぱに"と書いてあるぞ。字……間違えてるぞ……」
「なんとー!?」
ミライは父ジョウインに、おもちゃを片付けてなかったりして怒られることもあったが、頑張って片づけた。
「こらー! ミライちゃん! またピーマンを残したわね!?」
「ふえー!? ママー! ごめんなさーい! ……でも、ピーマンきらーい……」
「ダメです! 好き嫌いをしてたら、大きくなれません!」
「ふえ~……」
ミライは母ユメに、嫌いなピーマンを残して怒られることもあったが、頑張って食べた。
「ユメ、この食べ物は何だ? 丸いし……タコを入れたのか?」
「これは"たこ焼き"という食べ物です。皆で作りながら食べましょう」
「わたし、くるくるするー! たこやき、くるくるするー!」
親子三人でたこ焼きを作りながら、食卓で盛り上がることもあった。
「ミライちゃん。いつかおじいちゃんのところにも遊びに行こうね。お母さんもおじいちゃんも、東洋の出身でね。私に剣術を教えてくれて――」
「ユメの父親か……。我はどんな顔をして会えばいいんだ……?」
「パパー! いつも仮面つけてるから、顔わかんないー!」
ユメの家族について話を聞くこともあった。
それは三人にとって、とても幸せな日々だった。
ジョウインもユメやミライと過ごす時間だけは、自らの職務と魔王としての立場を忘れられた。
三人はずっとこんな毎日が続くと思っていた。
――だが、その願いは叶わなかった。
■
「……ダンジェロ。ユメの行方は……まだ分からないのか?」
「恐縮ですが、今だ掴めておりませぬ」
ユメが突如失踪したのだ。
行き先も分からず、ジョウインは必死に行方を捜していた。
それでも、ユメは見つからなかった――
「パパー……。ママ、どこいっちゃったの……?」
「安心しろ、ミライ。お母さんは必ず見つけ出す……」
ジョウインは決してユメが自らの意志で魔王城を出て行ったとは考えていなかった。
魔王城に来た頃ならまだしも、今はミライという娘がいる。
そんな状況でユメが帰ってこないことなど、考えられなかった――
「ユメ……。本当にどこへ行ってしまったんだ……?」
ジョウインひたすらにユメの身を案じた。
何か良くないことにユメが巻き込まれたのではないか?
どこかで無事でいてくれているのか?
そんな不安がジョウインとミライの中でつのる――
そんな日々が一年以上続いた――
■
「ついに追い詰めたぞ――【伝説の魔王】ジョウイン!!」
「…………」
そんな失意の日々を過ごしていたある日、ユメとは別の勇者がジョウインの元に現れた。
その勇者の名は――レイキース。
後に【栄光の勇者】と呼ばれる男だ。
リフィー、バルカウスという仲間を連れ、ジョウインがいる玉座の元へとやってきた。
「新たな勇者がここにいる……。ならば、ユメはどうしたのだ……?」
「先代勇者ユメならば、魔王である貴様に与した罪で処刑された」
「ユメが……死んだ……?」
そのレイキースの一言に、ジョウインは絶望した。
元々ユメの失踪の日から、生気が抜け落ちたようになっていたジョウイン――
そんなジョウインに対して、レイキースの言葉は止めの一撃となった。
「これがあの【伝説の魔王】なの? 完全に脱力しきっていますわ」
「魔王城にもかつて拙者が戦った、四天王のダンジェロという男すらいなかったしな……」
リフィーやバルカウスも、目の前にいる男が本当に【伝説の魔王】なのかと疑った。
それほどまでにジョウインは弱り果てていた――
レイキース達がここまで攻め込めたのも、ジョウインが気力を失って魔王軍の士気が大幅に落ちていたからだ。
それでもジョウインは不測の事態に備え、必要最低限の配下だけを魔王城に残し、オクバの亜人隊といった面々を方々に分散させておいた。
ユメがいない以上、ジョウインに"人と魔の共存"のための改革を続けるだけの気力も残っていなかった。
そのため、娘のミライの身辺の世話をする者、自らと魔力の契約を交わし、自らが死ねば共倒れになることになる魔王軍四天王しか、魔王城には残っていなかった。
ただその中に、魔王軍四天王最強と呼ばれるジョウインの腹心――【欲望の劫火】ダンジェロの姿はなかった。
だから、レイキース達が魔王城の玉座の間までたどり着くことは容易であった。
「……もういい。我を殺すならば、殺せ。ユメのいないこの世に……もう未練はない」
ジョウインは全てを諦めた。
ユメがいなくなってから、ユメの帰りを待つことがジョウインにとって生きる希望だった。
でも、それももう叶わない――
「いいだろう。僕の"正義"の名のもとに、貴様に引導を渡してやる! 【伝説の魔王】! ジョウイィイン!!」
レイキースは両手に持った剣に渾身の力を込め、大きく振りかぶり――
ザシュンッ!!
――ジョウインの体を大きく切り裂いた。
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