記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第23章 追憶の番人『ドク』

第330話 導き出された答え

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「――以上で、ドクター・フロストより預かりし、記憶映像の再生を終了いたします」

 そう言ってニナーナさんは自分達の方へと向き直りました。
 今の映像を見せられて、これまで自分の中でうやむやだったものがハッキリしました。

 自分の"ラルフル"という名前、お姉ちゃんの"マカロン"という名前を付けてくれたのはフロストさん――
 自分とお姉ちゃんを助けてくれたのは、フロストさんにとって自分達が愛した人の子供だったから――
 自分が勇者パーティーに入れたのは、フロストさんがバクトさんに推薦を頼んでくれたから――

 なんだか自分にとって、フロストさんは本当のお父さん以上にお父さんな気がしてきました。

「今の映像は……全部事実ってことでいいのよね……?」
「はい、マスター。先程の映像は、ドクター・フロストが自らの記憶をもとに作り出したものになります。全てがドクター・フロストの知る事実になります」

 お姉ちゃんはニナーナさんに確認をとりました。
 お姉ちゃんも内心では全てが事実だと理解した上で、確認をとったようです。



 だって……ニナーナさんの容姿が、自分達のお母さん――ルナーナにそっくりなのですから……。
 これで「違います」なんて話はあり得ません。

「マカロン、ラルフル。今の話を聞いて、貴様らはフロストをどうしたい?」

 バクトさんはお姉ちゃんと自分に尋ねてきました。
 自分はお姉ちゃんと一度目を合わせます。
 その目の奥から読み取れる感情で、お姉ちゃんも自分と同じ気持ちであることが分かりました。



 だから、自分はバクトさんにお願いします――

「フロストさんを止めたいです。自分達はあの人に、復讐に手を染めて欲しくありません……!」
「私からもお願いします! フロストさんは……私達にとって、本当の父親よりも……父親なんです!」

 自分もお姉ちゃんも、バクトさんに同じ気持ちを伝えました。
 それを聞いたバクトさんは、どこか満足したような表情で語り掛けてきました。

「貴様らならそう言うと信じていた。そもそも、フロストがこんな映像をニナーナに残しておいたのも、貴様ら二人に"止めてほしい"と、心のどこかで思っていたのかもな」

 バクトさん自身も、ずっとミリアさんの父親であることを隠してきた人です。
 だから仲が悪くても、フロストさんの気持ちはどこかで分かるのでしょう。

 ――いえ。この人も心の奥底ではずっとフロストさんを心配していたはずです。
 自らが変わってしまい、フロストさんまで変わってしまった――
 そうしてお互いに交わることのない道を進んでも、フロストさんとの絆は切れていなかったようです。



「マカロン、ラルフル。今のニナーナのマスターは貴様ら二人だ。ニナーナに命じれば、貴様らをフロストの元へ連れて行ってくれるはずだ」

 意を決した自分とお姉ちゃんに、バクトさんはそう教えてくれました。
 そうと分かれば、早速向かうしかありません!

「ニナーナさん! 自分とお姉ちゃんを、フロストさんのところへ連れて行ってください!」
「お願いします! ニナーナさん!」
「かしこまりました。マスターの命令に従います。これより、マカロン様、ラルフル様の二名を、ドクター・フロストの元へとお運びいたします」

 自分とお姉ちゃんの願いを聞いたニナーナさんは、片手でそれぞれの体を抱え上げ――


 ビュォオオオン!!


 ――猛スピードで空を飛び始めました!?

「こ、こんなに速く空を飛べるんですか!?」
「新たなるマスターの権限により、私の飛行能力は最大出力まで向上しています」
「と、とにかくお願い! 急いで!!」

 ニナーナさんに抱えられたまま、自分とお姉ちゃんはフロストさんの元へと急ぎます!


◇◇◇


「飛んでいっちまったな……。大丈夫なのか? バクト」
「大丈夫かどうかはあの二人次第だ。今のフロストを力づくで止めるのは難しい。だが、あの二人ならそうしなくても止められる可能性がある」

 ニナーナに抱えられて飛んでいくマカロンとラルフルを見ながら、俺はバクトに尋ねた。
 フロストのことはあの二人次第か……。



「あの~……バクトはん? 俺ら、『黙っとけ』言われたから黙っとったんですが、そもそもなんで連れてこられたんでっか?」
「『黙っとけ』と言われなくても、口を挟める雰囲気じゃなかったんスが……。本当になんで、オレとシシバのカシラは連れてこられたんスか?」

 そしてここまでのやり取りを横で見ていた、シシバとサイバラのギャングレオ盗賊団二強。
 確かになんでこの二人がここにいるんだ……?

「フロストのことだ。俺達が邪魔に入ろうとすることも考えているだろう。今のフロストならば、単独でもレーコ公爵を殺すことは可能だ。ならば、"余った戦力"は足止めのために、こちらに回してくるだろう」

 バクトも四本のアームが完成したフロストの力は把握しているようだ。
 そしてその分で余った戦力をこちらに回してくる――
 俺達三人にその相手をしろってことか。





 ん? ちょっと待て。
 フロストが有する戦力なんて、フロスト本人を除けば一人しか――



 キィイイイン!!

「なんや? これは風を切る音か?」
「あ、カシラ。多分あれッスよ。ほら、空飛んでこっちに向かってきてる、あの三つの影」
「どうやら、早速のお出ましらしいな……」

 風を切る音に反応する、シシバ。
 音の正体を上空に確認する、サイバラ。
 この事態を予期していた、バクト。

 ――全部理解した、俺。



 ズガンッ! ズガンッ! ドガァアアン!!

 突如俺達の目の前に砂ぼこりを巻き上げながら、三つの物体が着地した。
 そのうち二つは金属の筒状のもの。

 そしてもう一つ―― いや、もう一人は――





「フオオオオオ!!」

 やっぱり出てきたか!
 フロストの弟、【王国最強】、フレイム!

「うげぇ!? ま、まさかこいつの相手をするために、俺とサイバラも呼ばれたんでっか!?」
「ああ、そうだ! シシバ! サイバラ! ゼロラ! 貴様ら三人で、フレイムを倒せ!」
「無茶言わないでほしいッスね!? 見ただけでもこの人、人間が相手できる範疇を完全に超えてるッスよね!?」

 バクトの命令に激しく異議を申し立てるシシバとサイバラ。
 うむ。お前ら二人の言い分は正しい。
 だが――

「つべこべ言うなぁあ!! さっさと相手をしろぉお!!」

 ――そんな異議も、バクトは認めない。

「……とにかく、やれるだけやってみようぜ。幸い、フレイム一人だけだからな……」

 俺はシシバとサイバラに言い聞かせ、なんとか一緒に戦うように勧める。
 司令塔であるフロストが不在なら、俺達三人でも十分に相手をできる……はずだ。
 シシバとサイバラもさすがにこの状況なので、戦う覚悟を決める。

「まあ、えっか。【王国最強】との喧嘩なんて、そないに楽しめるもんやないからな~! キシシシ!」
「いや!? これ喧嘩のレベルじゃないスよね!? あー、もう! オレだってやるッスよ! やりゃあいいんでしょうがぁ!!」

 ……覚悟というより、"戦闘欲求"と"ヤケクソ"だが。
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