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第23章 追憶の番人『ドク』
第327話 間に合わなかった
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「よし! これで準備は整った! 多少強引だが、もう時間もない! 急いでルナーナ達を助けに行くぞ! フレイム!」
「オオオオ!」
フロストの準備は整った。
万全な準備とは言えないが、フロストにも算段は付いていた。
自らの王国騎士団二番隊隊長という地位は放棄することになるが、ルナーナとその子供、マカロンとラルフルを救出後、国外へ逃亡する手立ても用意した。
そもそもルナーナを助けるために手に入れた二番隊隊長という地位。
それを捨てることにフロストは迷わなかった。
そしてそれは弟のフレイムも同じ。
フロストに用意してもらった特大のマシンアックスを握りしめ、ルナーナ達の救出に向かおうとしていた。
そんな時だった――
「……おい、いるか。バカフロスト」
「久しぶりに会うなり人のことをバカって呼ぶなんて……。一体どうしたんだ? バクト公爵様よ?」
フロストとフレイムの元に現れたのは、なりふり構わない手段で公爵としての爵位を手に入れたバクトだった。
現在のバクトと同じく、全てを睨みつけるような眼光を常に放つバクト。
だがその表情には、どこか暗い影があった。
「……フロスト、落ち着いて俺の話を聞け」
「なんだよ? 俺はこれからルナーナ達を助けに行くってのに――」
事を急ぐフロストだったが、バクトが放った一言でその状況は変化した――
「ルナーナが死んだ。魔王軍の軍勢に領地を襲われたらしい……」
「なっ……!!?」
バクトから伝えられた凶報。
その言葉を聞いたフロストは一瞬硬直するも、すぐにバクトの胸倉へと掴みかかった。
「おい! バクト!! でたらめ言うな!! 『ルナーナが死んだ』? そんなわけあるか! 俺は認めない――」
「貴様が認めたくない気持ちはわかる。だが……事実だ」
フロストに掴まれようと、バクトの態度は変わらない。
フロストは旧知の間柄故か、バクトのその態度からそれが事実であることを理解した。
『バクトはルナーナの命で冗談を言う人間ではない』という、バクトという人間をよく知るからこそできた考察が、フロストにとって事実の証明となってしまった。
「ふ、ふざけるな!! だ、だったら、俺は何のためにこれまで力を蓄えて―― そ、そうだ! マカロンとラルフルは!? あの二人は無事なのか!?」
「ルナーナの子については詳細が入っていない。だが、それよりも問題なのはレーコ公爵の動きだ」
「レーコ公爵の!?」
ルナーナの死に激しく動揺するフロストだったが、すぐに子供であるマカロンとラルフルの安否を尋ねた。
それでもバクトはそれ以上に危惧すべきことを考えていた。
「さっきこの二番隊の宿舎に、レーコ公爵の部下達が向かっているのが見えた。貴様が動こうとすることを読んだのだろう」
「な、なに!? くそ! これじゃ、まるでお前の時と同じじゃないか……!」
ルナーナの死を聞いたバクトには予測で来ていた。
それはかつて自らを助けるために、フロストが駆けつけてくれたように――
バクトは過去の経験から、フロストが暴走する可能性を考え、レーコ公爵達よりも先にフロストの元へとやって来たのだ。
「フロスト。いくら貴様の力といえど、今のレーコ公爵が束ね挙げた軍勢には逆らえない。ここは冷静に機会を――」
「黙れぇえ!! お前がいくら止めようと、俺は行くぞ! フレイム! バクトもレーコ公爵の配下も……全員蹴散らせ!!」
「オ、オオオッ!?」
バクトの制止も聞かず、フロストは行動しようとする。
当時のフレイムの力は王国騎士団でも頭一つ抜けていたが、それでもレーコ公爵の軍勢の前には多勢に無勢にしかならなかった。
それを承知していても、フロストは強引にバクトを押しのけて、先へ進もうとする――
「仕方ない。フロスト、貴様には少し眠っていてもらうぞ」
「眠る!? 何を言って――」
プスンッ
フロストが尋ね終えるよりも先に、バクトはフロストの首筋に一本の注射を打ち込んだ。
「な……なんだこれ……? 体が……意識が……?」
「麻酔だ。しばらく貴様の体はまともに動かないだろう。レーコ公爵の方には俺からうまく説明しておく」
「バ……バクト……! お、俺にこんな真似をしやがって……!」
「……恨んでくれて構わん。俺とて……貴様ら兄弟に死なれるのは面白くない」
薄れ行く意識の中で、フロストはバクトに恨み言を吐こうとした。
――バクトも、フロストに恨まれるのは百も承知でとった行動だった。
「おい、フレイム。貴様も大人しくしてろ。兄貴に無駄死にさせたくはないだろ?」
「オオーー……」
兄フロストという司令塔を失った弟フレイムは、大人しくバクトの言うことに従った。
その後はバクトの根回しもあり、フロストとフレイムの身の安全は守られた。
だが、その間にマカロンとラルフルが残っていた領地には再度魔王軍が襲撃。
二人の子供の消息も、フロストには分からなくなってしまった――
「オオオオ!」
フロストの準備は整った。
万全な準備とは言えないが、フロストにも算段は付いていた。
自らの王国騎士団二番隊隊長という地位は放棄することになるが、ルナーナとその子供、マカロンとラルフルを救出後、国外へ逃亡する手立ても用意した。
そもそもルナーナを助けるために手に入れた二番隊隊長という地位。
それを捨てることにフロストは迷わなかった。
そしてそれは弟のフレイムも同じ。
フロストに用意してもらった特大のマシンアックスを握りしめ、ルナーナ達の救出に向かおうとしていた。
そんな時だった――
「……おい、いるか。バカフロスト」
「久しぶりに会うなり人のことをバカって呼ぶなんて……。一体どうしたんだ? バクト公爵様よ?」
フロストとフレイムの元に現れたのは、なりふり構わない手段で公爵としての爵位を手に入れたバクトだった。
現在のバクトと同じく、全てを睨みつけるような眼光を常に放つバクト。
だがその表情には、どこか暗い影があった。
「……フロスト、落ち着いて俺の話を聞け」
「なんだよ? 俺はこれからルナーナ達を助けに行くってのに――」
事を急ぐフロストだったが、バクトが放った一言でその状況は変化した――
「ルナーナが死んだ。魔王軍の軍勢に領地を襲われたらしい……」
「なっ……!!?」
バクトから伝えられた凶報。
その言葉を聞いたフロストは一瞬硬直するも、すぐにバクトの胸倉へと掴みかかった。
「おい! バクト!! でたらめ言うな!! 『ルナーナが死んだ』? そんなわけあるか! 俺は認めない――」
「貴様が認めたくない気持ちはわかる。だが……事実だ」
フロストに掴まれようと、バクトの態度は変わらない。
フロストは旧知の間柄故か、バクトのその態度からそれが事実であることを理解した。
『バクトはルナーナの命で冗談を言う人間ではない』という、バクトという人間をよく知るからこそできた考察が、フロストにとって事実の証明となってしまった。
「ふ、ふざけるな!! だ、だったら、俺は何のためにこれまで力を蓄えて―― そ、そうだ! マカロンとラルフルは!? あの二人は無事なのか!?」
「ルナーナの子については詳細が入っていない。だが、それよりも問題なのはレーコ公爵の動きだ」
「レーコ公爵の!?」
ルナーナの死に激しく動揺するフロストだったが、すぐに子供であるマカロンとラルフルの安否を尋ねた。
それでもバクトはそれ以上に危惧すべきことを考えていた。
「さっきこの二番隊の宿舎に、レーコ公爵の部下達が向かっているのが見えた。貴様が動こうとすることを読んだのだろう」
「な、なに!? くそ! これじゃ、まるでお前の時と同じじゃないか……!」
ルナーナの死を聞いたバクトには予測で来ていた。
それはかつて自らを助けるために、フロストが駆けつけてくれたように――
バクトは過去の経験から、フロストが暴走する可能性を考え、レーコ公爵達よりも先にフロストの元へとやって来たのだ。
「フロスト。いくら貴様の力といえど、今のレーコ公爵が束ね挙げた軍勢には逆らえない。ここは冷静に機会を――」
「黙れぇえ!! お前がいくら止めようと、俺は行くぞ! フレイム! バクトもレーコ公爵の配下も……全員蹴散らせ!!」
「オ、オオオッ!?」
バクトの制止も聞かず、フロストは行動しようとする。
当時のフレイムの力は王国騎士団でも頭一つ抜けていたが、それでもレーコ公爵の軍勢の前には多勢に無勢にしかならなかった。
それを承知していても、フロストは強引にバクトを押しのけて、先へ進もうとする――
「仕方ない。フロスト、貴様には少し眠っていてもらうぞ」
「眠る!? 何を言って――」
プスンッ
フロストが尋ね終えるよりも先に、バクトはフロストの首筋に一本の注射を打ち込んだ。
「な……なんだこれ……? 体が……意識が……?」
「麻酔だ。しばらく貴様の体はまともに動かないだろう。レーコ公爵の方には俺からうまく説明しておく」
「バ……バクト……! お、俺にこんな真似をしやがって……!」
「……恨んでくれて構わん。俺とて……貴様ら兄弟に死なれるのは面白くない」
薄れ行く意識の中で、フロストはバクトに恨み言を吐こうとした。
――バクトも、フロストに恨まれるのは百も承知でとった行動だった。
「おい、フレイム。貴様も大人しくしてろ。兄貴に無駄死にさせたくはないだろ?」
「オオーー……」
兄フロストという司令塔を失った弟フレイムは、大人しくバクトの言うことに従った。
その後はバクトの根回しもあり、フロストとフレイムの身の安全は守られた。
だが、その間にマカロンとラルフルが残っていた領地には再度魔王軍が襲撃。
二人の子供の消息も、フロストには分からなくなってしまった――
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