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第23章 追憶の番人『ドク』
第325話 「二」ナーナ
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「おい! ゼロラ! こっちにフロストの馬鹿は来なかったか!?」
「バクト!?」
俺とマカロンとラルフル。その三人が立ちつくしているところにバクトがやってきた。
かなり必死な形相で駆け付けたところを見ると、やはりバクトも事態は把握しているようだ。
「ああ、さっきまでここにいた。マカロンとラルフルに"別れの言葉"を告げたら、すぐにどこかへ行っちまったが……」
「マカロンとラルフルにだと!? あの馬鹿が……やはりすべて捨てる覚悟で動く気か!」
俺の言葉を聞いてバクトはさらに動揺する。
『マカロンとラルフルに別れの言葉を告げた』ことで、全てを察したのだろう。
バクトが知る、"フロストの秘密"から――
「バクトはん! そないに急いでどないしたんでっか!?」
「急に呼ばれて事情も知らずについてきたんスけど、オレとシシバのカシラが必要なんスか?」
そんなバクトの後をついてきたのは、シシバとサイバラだった。
ギャングレオ盗賊団の二強――
この二人をバクトが呼び寄せたあたり、これから起こる事態への対策だろう。
「バクト。これからどうするつもりだ? フロストを止める方法はあるのか?」
「あるにはある。だが、肝心の品の到着が――」
「あ! あれを見てください! 空から人が降りてきますよ!」
「ほ、本当だわ!? ゆっくりとだけど、こっちに降りてきてる……?」
俺がバクトに話を聞こうとした矢先、ラルフルとマカロンが空を見上げて一点を指さした。
そこには何やら大きな布を広げ、ゆっくりとこちらへと降りてくる人の姿――
近づいてくる程確認できる、水色の髪とメイド服――
あれは確か、フロストの研究室で会った……ニナーナだったか?
そしてニナーナは俺達の姿を確認すると、大きな布を切り離し、炎を噴出させながら自力で俺達の近くへと降り立った。
「私はニナーナ。マスターであるドクター・フロストによって作られし、ヒューマノイドです」
地面に立ったニナーナは相変わらず抑揚のない機械的な声で自己紹介を始めた。
「やっと来たか! おそらく事態を見た黒蛇部隊が、慌てて飛行機からここへと投げ落としたのだろう」
バクトの口振りからして、このニナーナがフロストを止めるために必要なものなのだろう。
「なんや、このメイドの姉ちゃんは? 別嬪さんやけど、表情硬いな~」
「バクト公爵。もしかして、このメイドの姉ちゃんを客人として招き入れるとかスか?」
「貴様らは少し黙ってろ。貴様らの役目はこの後だ」
イマイチ事態を飲み込めていないシシバとサイバラだったが、「余計な口出しをするな」と言わんばかりにバクトは話を遮る。
しかし、ニナーナがフロストを止めるために必要だってのはどういう――
「な……なんで……なんでこの人が……!?」
「髪の色も……目の色も違う……。なのに……この人は……どう見ても……!?」
――俺の傍でニナーナの姿を見たマカロンとラルフルが激しく狼狽えていた。
その表情は驚愕と喜びが入り混じったような、あまりに複雑な表情――
この二人は、ニナーナのことを知っている……?
「コード、アドミニストレータ。オープン」
「『コード、アドミニストレータ』――確認しました。管理者権限でのデータ閲覧のため、声紋認証をお願いします」
そんな二人の様子を見ながら、バクトは何かをニナーナに呟いた。
その言葉に反応し、ニナーナも俺には分からない言葉を返す。
「……マカロン、ラルフル。これから貴様ら二人にあるものを見せたい。だがその前に、貴様らはこのニナーナを見てどう思う?」
「こ……この人は、フロストさんの元にいた人なんですか?」
「正確には、"フロストによって作られた人形"だ。人ではないが、思うところはあるのだろう?」
「は……はい……」
バクトの問いかけに、マカロンは困惑しながらも答える。
やはりマカロンはニナーナのことを知っているのか――
――いや、ニナーナが"誰に似せて作られたのか"を知っていると言うべきか。
「フロストさんは自分達と別れる間際、お母さんの名前を口にしていました……。そして……この人の容姿はあまりにもお母さんにそっくりです……。フロストさんは……どうしてこの人を作って……?」
ラルフルも動揺を抑えながら言葉を紡ぐ。
ニナーナが、"マカロンとラルフルの母親を模して作られた"ということを――
「フロストを止めるためには貴様ら姉弟の力が必要だ。もし止めたいと思うのならば、このニナーナに対して、貴様ら姉弟の声でその名を言え。そして、そのうえでフロストを止めるかどうかを判断しろ」
バクトはマカロンとラルフルに決断を促した。
二人の表情は複雑だ。
これまで何度かフロストによって助けられてきた二人――
直接話す機会などほとんどなかったが、それでも二人は知らずにはいられなかったようだ。
マカロンとラルフルは、一緒に母親の名を口にした――
「「ルナーナ……」」
その言葉を聞いたニナーナは少しの間目を瞑る。
そして再び目を開け、マカロンとラルフルに向かって話し始めた。
「声紋認証が完了しました。これより、私のマスターをドクター・フロストからマカロン様とラルフル様に変更いたします。また、ドクター・フロストより預かりし映像を、これよりホログラムにて再生いたします」
そう言うとニナーナは、両目から光を出して空間に映像を映し始めた。
それは、フロストが右目の機械でバクトの秘密を話した時と同じように――
「バクト!?」
俺とマカロンとラルフル。その三人が立ちつくしているところにバクトがやってきた。
かなり必死な形相で駆け付けたところを見ると、やはりバクトも事態は把握しているようだ。
「ああ、さっきまでここにいた。マカロンとラルフルに"別れの言葉"を告げたら、すぐにどこかへ行っちまったが……」
「マカロンとラルフルにだと!? あの馬鹿が……やはりすべて捨てる覚悟で動く気か!」
俺の言葉を聞いてバクトはさらに動揺する。
『マカロンとラルフルに別れの言葉を告げた』ことで、全てを察したのだろう。
バクトが知る、"フロストの秘密"から――
「バクトはん! そないに急いでどないしたんでっか!?」
「急に呼ばれて事情も知らずについてきたんスけど、オレとシシバのカシラが必要なんスか?」
そんなバクトの後をついてきたのは、シシバとサイバラだった。
ギャングレオ盗賊団の二強――
この二人をバクトが呼び寄せたあたり、これから起こる事態への対策だろう。
「バクト。これからどうするつもりだ? フロストを止める方法はあるのか?」
「あるにはある。だが、肝心の品の到着が――」
「あ! あれを見てください! 空から人が降りてきますよ!」
「ほ、本当だわ!? ゆっくりとだけど、こっちに降りてきてる……?」
俺がバクトに話を聞こうとした矢先、ラルフルとマカロンが空を見上げて一点を指さした。
そこには何やら大きな布を広げ、ゆっくりとこちらへと降りてくる人の姿――
近づいてくる程確認できる、水色の髪とメイド服――
あれは確か、フロストの研究室で会った……ニナーナだったか?
そしてニナーナは俺達の姿を確認すると、大きな布を切り離し、炎を噴出させながら自力で俺達の近くへと降り立った。
「私はニナーナ。マスターであるドクター・フロストによって作られし、ヒューマノイドです」
地面に立ったニナーナは相変わらず抑揚のない機械的な声で自己紹介を始めた。
「やっと来たか! おそらく事態を見た黒蛇部隊が、慌てて飛行機からここへと投げ落としたのだろう」
バクトの口振りからして、このニナーナがフロストを止めるために必要なものなのだろう。
「なんや、このメイドの姉ちゃんは? 別嬪さんやけど、表情硬いな~」
「バクト公爵。もしかして、このメイドの姉ちゃんを客人として招き入れるとかスか?」
「貴様らは少し黙ってろ。貴様らの役目はこの後だ」
イマイチ事態を飲み込めていないシシバとサイバラだったが、「余計な口出しをするな」と言わんばかりにバクトは話を遮る。
しかし、ニナーナがフロストを止めるために必要だってのはどういう――
「な……なんで……なんでこの人が……!?」
「髪の色も……目の色も違う……。なのに……この人は……どう見ても……!?」
――俺の傍でニナーナの姿を見たマカロンとラルフルが激しく狼狽えていた。
その表情は驚愕と喜びが入り混じったような、あまりに複雑な表情――
この二人は、ニナーナのことを知っている……?
「コード、アドミニストレータ。オープン」
「『コード、アドミニストレータ』――確認しました。管理者権限でのデータ閲覧のため、声紋認証をお願いします」
そんな二人の様子を見ながら、バクトは何かをニナーナに呟いた。
その言葉に反応し、ニナーナも俺には分からない言葉を返す。
「……マカロン、ラルフル。これから貴様ら二人にあるものを見せたい。だがその前に、貴様らはこのニナーナを見てどう思う?」
「こ……この人は、フロストさんの元にいた人なんですか?」
「正確には、"フロストによって作られた人形"だ。人ではないが、思うところはあるのだろう?」
「は……はい……」
バクトの問いかけに、マカロンは困惑しながらも答える。
やはりマカロンはニナーナのことを知っているのか――
――いや、ニナーナが"誰に似せて作られたのか"を知っていると言うべきか。
「フロストさんは自分達と別れる間際、お母さんの名前を口にしていました……。そして……この人の容姿はあまりにもお母さんにそっくりです……。フロストさんは……どうしてこの人を作って……?」
ラルフルも動揺を抑えながら言葉を紡ぐ。
ニナーナが、"マカロンとラルフルの母親を模して作られた"ということを――
「フロストを止めるためには貴様ら姉弟の力が必要だ。もし止めたいと思うのならば、このニナーナに対して、貴様ら姉弟の声でその名を言え。そして、そのうえでフロストを止めるかどうかを判断しろ」
バクトはマカロンとラルフルに決断を促した。
二人の表情は複雑だ。
これまで何度かフロストによって助けられてきた二人――
直接話す機会などほとんどなかったが、それでも二人は知らずにはいられなかったようだ。
マカロンとラルフルは、一緒に母親の名を口にした――
「「ルナーナ……」」
その言葉を聞いたニナーナは少しの間目を瞑る。
そして再び目を開け、マカロンとラルフルに向かって話し始めた。
「声紋認証が完了しました。これより、私のマスターをドクター・フロストからマカロン様とラルフル様に変更いたします。また、ドクター・フロストより預かりし映像を、これよりホログラムにて再生いたします」
そう言うとニナーナは、両目から光を出して空間に映像を映し始めた。
それは、フロストが右目の機械でバクトの秘密を話した時と同じように――
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