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第22章 改革の歌

第319話 決戦・【龍殺しの狂龍】⑤

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 両腕にそれぞれ<蛇の予告>と<龍の宣告>をかけ、全身から<青色のオーラ>を滾らせながら、ジフウはゼロラへと近づく。
 その顔に浮かんでいるのは、これまで以上の狂気の笑み。
 渇望していた戦いへの欲求が、今まさに満ち足りてきたことの証明――

「どうやら……完全に本性が出てきたみたいだな……!」

 ジフウの姿を見たゼロラには理解できた。

 これまで国王直轄黒蛇部隊の隊長として。シシバとリョウの兄として。
 自らの責務のために、自らの意志とは別の行動を余儀なくされていたジフウ。
 それがゼロラとの戦いの中で、自らが本当に望んでいた強者との戦いによって、ついに完全に目覚めさせたのだ――



 【龍殺しの狂龍】――その狂った本性を――



「ウッハッハッハッ! さあ! そろそろ決着と行こうかぁあ! ゼロラァアア!!」

 ジフウは高らかな宣言と共に、ゼロラへと挑む。
 狂った本性を曝け出せど、ジフウのテクニックに衰えはない。
 ジフウのコンディションは最高潮に達し、"冷静なまま狂う"という相反した二つの感情を同居させていた。

「ジフウゥウウ!!」
「ゼロラァアア!!」

 そんなジフウの姿にゼロラも全力で応える。
 ここまでくると余計な考えも必要ない。
 必要なのは、それぞれの身に刻まれた力と技のみ――

 <黒蛇の右>と<青龍の左>を常時展開させたジフウの猛攻に対しても、ゼロラは互角に渡り合う。
 国の命運をかけた二人の男の戦いだが、その結末は"修羅"と"龍"という、二匹の男によって結末を迎えようとしていた。



 ボガァ! ドギャァ!

「負けられねえんだよぉお!!」
「だったら俺を倒してみやがれぇえ!!」

 思いを乗せたゼロラの拳をジフウは捌く。
 それでも終わらぬとゼロラが猛烈に攻め立てる。

 ドガンッ! バギャンッ!

「ケリつけてやるよぉお!!」
「やってみろ……! 改革最後の敵は……この俺だぁあ!!」

 ジフウが忠誠を誓う国王の思惑は、王国側の敗北――すなわち、ジフウの敗北。
 だがこの狂う程に昂る戦いで、"わざと負ける"などという無粋な真似は許されなかった。

 ――それは、ゼロラもジフウも同じ気持ち。



「ハァ……ハァ……!」
「ウハハ……ウハ……!」

 戦いの衝撃による余波で、王都正門前広場は大きく荒れていた。
 人智を超越した激闘は、人の身でありながら人を超えた二人にも限界が近づいていた。

「そろそろ決めるとするか……!」
「ああ、そうだな……!」

 互いの限界が近づいたことを感知した二人は、距離を置いたままそれぞれの拳に力を込める。
 ゼロラは<灰色のオーラ>が纏われた右拳を――
 ジフウは<青龍の左>を発動させた左拳を――

「ジィィフゥウゥウウ!!」
「ゼェェロォラァアア!!」

 互いが同時にそれぞれの全力を込めた拳を振り上げ、殴り掛かる。
 その拳は互いの頬目がけて――


 ドギャアァン!!


 ――交差した。

「んぐぅ……!」
「だぐぁ……!」

 それぞれの拳が衝突した瞬間、二人の動きが止まる。
 ゼロラの右拳はジフウの右頬へ――
 ジフウの左拳はゼロラの左頬へ――

 拳を交差させたまま、少しばかりの時間が流れた――





「へ……へへ……。本当にとんでもない男だ……。魔力なんて……ねえくせによ……」

 ――そしてジフウの口から言葉が漏れた。
 それは己の限界を示す言葉――

 その言葉と同時にジフウの両手に纏われていた風魔法も、全身を纏っていた<青色のオーラ>も、霧散するように消えていった。
 そしてジフウは膝から崩れ落ち、地面へと仰向けに倒れ込んだ。

「やっと決着がついたな……ジフウ」

 ジフウの姿を上から見下ろすゼロラは、<灰色のオーラ>を纏いながら語り掛けた。

「ああ……お、俺の……負けだ……」

 ジフウが完全に敗北を認めたのを確認したゼロラ。
 それによってゼロラの<灰色のオーラ>も消えていった――



 ルクガイア王国の改革のための戦い――
 【零の修羅】と【龍殺しの狂龍】の雌雄――
 その決着が、今まさについたのだった。
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