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第20章 獅子は吠え、虎は猛る

第283話 決戦・【虎殺しの暴虎】①

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「ぐぅう!?」
「シャラァア!!」

 ゼロラとサイバラの頭突きが衝突する。
 最初の一手を勝ち取ったのはサイバラだった。

 ――ゴォオオ!

 二人の頭突きがぶつかり合った衝撃は執務室内に響き渡った。
 ゼロラが纏う<灰色のオーラ>。サイバラが纏う<黄色のオーラ>。
 人間が本来出しうる力が魔法という現象のレベルにたどり着いたことで、二人の力は平常時よりも大きく跳ね上がっている。

 それは人間同士の戦いの域を超えるような勢いで――

「シャァアウラァアア!!」

 ひるんだゼロラに対して、サイバラは手を緩めない。
 拳を握り締め、大きく振りかぶってゼロラへとパンチを放つ。

「ぐっ!? やはり今までとは桁が違うな……!」
「あったりめえだ! これこそがこのオレの……本当の力だぁ!!」

 サイバラの攻撃はこれまでゼロラが戦ってきた時とは比べ物にならない程苛烈だった。
 ゼロラは防御よりも回避を優先し、サイバラの攻撃に当たらないようにする。
 必要とあらばサイバラはゼロラに掴みかかろうともしていた。

 サイバラの本来のスタイル――<パンクラチオン>。
 サイバラは以前謎の男から受け取った書物で<相撲>をマスターしてからこれまで主流として使っていたが、それ以外にも<ボクシング>、<プロレス>といった技も覚えていた。
 サイバラが使う<パンクラチオン>はそんな自身が身に着けた全てのスタイルの技を織り交ぜた、"何でもあり"で"力任せ"のスタイル。
 "柔さえねじ伏せる剛"とも言えるサイバラの能力を体現したかのようなスタイルだ。

「くそがぁああ!!」
「ぐぬんぅうう……!?」

 ゼロラも負けじとサイバラへと殴り掛かる。
 サイバラは一撃の威力に重点を置いているためか、拳を振りぬく速度こそ速いものの、次の攻撃に移るのにワンテンポ遅れてしまっている。
 ゼロラはサイバラのそのわずかな隙を突いて攻撃を繰り出し続けた。

 最初に戦った時と同じく、攻撃の手数ではゼロラが勝っていた。
 だがそんなことはサイバラに関係なかった――

「さっきからなんだその攻撃はぁ? 効かねえなぁ!!」

 ドガァアンッ!!

 サイバラはわざと隙を作り、そこに殴り掛かってきたゼロラへと拳を叩きつける。

「グッ!? くっそ……! 本当にとんでもない実力を隠してやがって……!」

 サイバラの攻撃で怯んだゼロラはよろけながら回避行動をとり、サイバラとの距離を空ける。
 ゼロラの体に凄まじい衝撃が走る――

 "圧倒的なパワー"と並ぶサイバラ最大の武器、"異常なまでの打たれ強さ"。
 サイバラの肉体にはゼロラが使う<鉄の防御>が"常にかかっている"状態だった。
 過酷な環境下での修練が、サイバラの肉体そのものを"鉄の鎧"へと変えていた。

「サイバラァアアア!!!」
「ゼロラぁあああ!!!」

 ただ殴り合うだけでは無謀と感じたゼロラはサイバラに対して組みかかる。
 サイバラもそれに応じてゼロラへと突進する。


 ドシィイン――


「ぐぬぬぬ……!」
「シャァアア……!」

 お互いの両手を掴み合い、額をぶつけ合いながら押し相撲の体勢に入る。
 単純なパワーではサイバラの方が上。
 ゼロラの体はサイバラに押されてどんどんと後ろに下がって行く――

「オレは……オレは成り上がってやるんだぁ……!」

 サイバラは己の迷いを断ち切り、ゼロラを倒すことに専念する。
 目の前にいる男が与えてくれた自らに決心させる機会。
 それを力づくでもぎ取ることだけを考えて、ひたすらにゼロラの体を押し出す――

「ぬぅうん!!」
「ッ!!?」

 サイバラがゼロラを押し飛ばそうとした瞬間、ゼロラはぶつかりあっていた額をずらし、サイバラの肩へと額を移す。
 そして両手を回転させてサイバラを投げ飛ばす――

「オラァアア!!」
「ドゥアァア!?」

 ドゴォオオン――

 サイバラの体が回転しながら床へと倒れ込む。
 ゼロラはその隙を逃さない。
 サイバラの上に跨ると、マウント状態からパンチの連打をサイバラに浴びせる。

「どうしたぁあ!? この程度かぁあ!?」
「グフッ!? ゼロラぁあ……!」

 いくら打たれ強いサイバラといっても、まともに防御できない体勢でのゼロラの拳は痛烈だった。

 それでもサイバラは諦めない。
 馬乗りされた状態からゼロラの拳を掴むと、力任せに引き寄せて今度をゼロラを床へと投げ飛ばす。



「これだけの力があれば、シシバにだって勝てるだろうよ……!」
「元々ジャコウも、有事の際にはシシバのカシラを倒すことをオレに命じてたからなぁ……! オレこそが……本当の"ギャングレオ最強"だぁあ!!」

 ゼロラとサイバラは再び立ち上がり、戦いを再開する。
 二人の決戦はまだ始まったばかりだった――
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